3.
某所の島。二〇二〇年。八月上旬、夜行バスで東京から十二時間。これじゃロンドンに行くのとほとんど変わらないじゃんとか少し思った。そこから高速船に乗って、やっと島につく。
「暑い。」
冗談じゃなく暑い。東京よりも南であることをしっかり感じる。でも、東京のようにベタつく感じがしないのが、ちょっといいかもしれない。
「わー、うみー」
杏はめちゃくちゃはしゃいでいる。なんだか、遠足に浮き足立つ子供のようだ。
「ほら、こっち向いて!」
綺麗な海と山がそこにあるのに、私にカメラを向けてシャッターを切るのはなぜなんだろう。
「化粧してないから!」
ああ、カメラのレンズを手で塞ぐなんて、無駄なことをしてしまった。
「しかし、あんまり人いないね。」
ひとしきり写真撮り合戦をしたあと、ふと、周りに全然人がいないことに気づいた。
「V Rが流行ったから、しょうがないんじゃない。この島のデータめちゃくちゃ販売されてたよ。」
「そっか。すごいな、今はなんでもオンラインだもんね。」
オンラインで物事が行われるようになるのは一瞬で、私自身、ついていけているかといえば難しい。
「山の反対側まで行ってみる?」
港にある地図を見ながら杏は問いかける。私は携帯の地図アプリでめぼしい場所を探す。
「えー、なんか美術館とかあるらしいけど。」
「それも反対側みたいだよ。」
「そっか。」
港はとてものどかで、バスが来るまでは二十分かかるらしい。ぼーっと海を眺めているとなんだか動きたいな、とうずうずしてきた。
「天気いいね。バス、来ないし歩かない?」
私らしくない提案をしてしまうくらい、空気がいいし、気分も良かった。
「えー、理香子大丈夫?途中で文句言ってもだめだよ。」
「なんだか今日は歩けるような気がする。」
そうして、私たち二人はバスを待たずに歩き始めた。歩き始める前に、島に一つだけあるコンビニエンスストアに寄って、飲み物を買った。
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