【ショートショート】お題:あいつの小説合宿 必須要素:ゴキブリ
あいつが「小説合宿へ行く」と言って出ていってから、もう2ヶ月が経った。今頃どうしているのだろう。小説はもう書けたのだろうか。
あいつは小説を読むのが好きで、時々「いつか小説家になる」と口にしていた。だが、あいつが小説を完成させたことはなかった。
ありがちなことだ。人類の90%くらいは、やりたいことを口にしても実行しないという。あいつは10%の側だった。
だから、僕はあいつの合宿参加には賛成していた。どんなきっかけであれ、小説を書くことになるなら問題はない。ただ、2ヶ月も帰ってこないとなると、心配は増えていく。
僕の心配の原因は、合宿のチラシにあった。「小説合宿」と大きく銘打たれた下に「小説家になれることを保証するものではありません」とか「技術が身につかなくても責任は負いかねます」とか、色々と言い訳が書かれていた。
ビジネスメールでよく見かけるような文章から、どんな状況で生まれたのかよくわからない文章まであった。
僕は不安な気持ちを抑え、彼の帰りを待った。彼が帰ったのは半年後だった。
「ようやく帰ってきたのか。小説家にはなれたのか?」
「ああ、ついになれたよ」
彼は満足げな顔で言った。僕は続けてどんな小説を書いたのかを聞いた。
彼はこう答えた。
「朝起きるとゴキブリになってた話だ。家族からは厄介者扱いだし、もちろん会社なんていけない。腹が減ったら台所や風呂場の水をすすり、細々と生きていく。
金は稼がなくても食っていけるけど、人との交流は完全になくなるんだ」
「なんかどっかで聞いたことのある話だな……。それで、小説っぽいオチはあるの?」
彼は言った。
「そういうものに、わたしはなりたい」
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