百合即興小説の練習

「ごめーん、待った?」


 待ち合わせ場所。悪びれのない顔で友人のカナがやってきた。手をブンブン振ってる割に、急ぐ様子はこれっぽっちもない。こいつはいつもそうだ。人を待たせているという自覚がないのだろうか?


「なんでいつも遅れてくるの?」


 私は少々怒り気味に聞く。理由によっては小言の一つも言ってやらないと気がすまない。これでは気合いを入れて来ている私が馬鹿みたいではないか……って何を言ってるんだ私は。

 けどカナは、私の口調に関係なくマイペースに答える。そこがまた腹立たしい。とろんとした瞳もゆっくり動く肉厚的な唇がこっちのペースを乱してくるのも腹立たしい。


「えっとね、まず9時に……いや5分かな、起きたの。それからご飯食べたりお手伝いしたりして、着替えてたの」

「……待ち合わせは12時なんだけど? どこに時間がかかってるの?」

「え……だから着替えに」

「なんでそんなに時間かかるの?」

「それは――」


 ついつい口調がヒートアップした私は、はっと気づいた。おっとりしたカナの表情に刹那的な怯えが浮かんでいた。勢いで「ごめん、そういうつもりじゃ……」と謝ったけど、カナはもじもじして続きを話そうとしてくれない。その様子を見てると、なんだかたまらなくなる。

 ――いかん、これではまるで告白しようとしてるみたいじゃないか。ねぇ、どうしてそんな顔するの。いつもみたいにマイペースに言い訳すればいいじゃない。

 頭が混乱してきた私に、カナが意を決したように口を開いた。


「じゃ、ユキちゃんはどうしてすぐ決まるの?」

「わ、私っ?!」


 急に尋ねられてしまって、思わずたじろいでしまう。これは答えないといけないのだろうか。けど……答えるのはすごく恥ずかしい。だって、私がカナに見せる専用の服を持っているなんて知られたら……。カナはどう思うだろうか。


「わたしはね……」カナが先に答える。「ユキちゃん美人だから、並んで歩いても変じゃない服がどんななのかいつも考えてるんだよ。今日だって、ユキちゃんがどんな服着てくるのか、どうしたらユキちゃんが良く見えるかばかり考えてたの」


 え――。

 この答えは想定外だった。それに、美人だなんて。カナは私をそういうふうに思っていたのか。


「じゃ、今日は遅れちゃった分、すぐにいいことしようね」

「ば、ばかっ! そんなこといちいち言わなくていいでしょ!」

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