【ギャグ】お題:混沌のダンス 必須要素:「なんでやねん」

「1,2,3。1,2,3」


 ステップ数を確認しながら、ゆっくりとロボットみたいな動きで足を滑らせる。ダンスは集中力が大事だ。もうちょっと簡単なダンスから始めたいなぁ……などと思っていたら、たちまち遅れてしまう。初心者は何も考えず、ひたすらに動きをトレースしなければならない。


 しかし、初心者が集中したところで焼け石に水である。社交ダンスでは、相手と息が合うことが重要だ。自分がうまく行かないと、相手もうまく行かなくなる。

 なんとか必死に合わせようとすると、相手の動きはどんどん加速していく。ついには、相手は一人で踊り出した。

 なぜなら、僕がいるのはダンス教室の外なのだから←「なんでやねん」


 そう、僕は近所にあった社交ダンス教室を覗いている。変質者ではなく、変態だ。そして、可愛い女の子を見つけたので、その子のパートナーになったつもりで踊っていたのだ。パチンコで負けた僕にとって、金のかからない娯楽はありがたかった。

 女の子のパートナーはいなかった。しかし、彼女はまるでそこに誰か居るかのような動きで踊っていた。前に差し出された両手に導かれるような、軽やかな動き。彼女の両手の先に、一体どんな人がいるのだろうか。少なくとも僕ではない。


 おっと……そろそろ社交ダンス教室からおさらばしないとな。

 さすがに、見学者がこんなに長居してたらまずい。不審者だと思われてしまう。幸い、長居する前から不審者と思われていたから良かったが、もしそうでなければ、今頃警察に通報されていたに違いない。


 僕は教室から出て、商店街を歩く。振り返って社交ダンス教室の看板を見る。その看板は異様なほどに目立っていた。なんせ真っ赤なのだ。白を基調とした商店街ではひどく目立っている。商店街条例的にはセーフなのだろうか?


 ただ歩くだけではつまらないので、僕はさっきの女の子と手をつないで歩いてるつもりになった。いつもと同じ普通の商店街なのに、不思議と楽しい気分になる。恋人とデートしてるみたいだ。

 けど徐々に、僕は自分の意思で歩いているのかどうか不安になってきた。まるで混沌のダンスを踊っているみたいだった。僕は彼女と不思議なステップをしながら、不思議な場所へ誘われてしまった。


 こういうわけで、僕は今ふたたびパチンコ屋に来てしまったんです←「なんでやねん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る