【ギャグ】お題:私の電撃 必須要素:会話劇
「おはよう」
「おはよう、今日の朝さむかったね」
「そうだね。今日も上着を着てきたよ。当分は手放せそうにないね」
「私も。まだカーディガン頼みよ」
「じゃ、授業始まるから」
「うん」
「ねぇねぇ、さっきの先生の話、難しくなかった」
「そうだね。今日のは特に難しかったね」
「あの、モラルハザードっていうの? 何だかよく分からないよね」
「うん。あの例だけだと、ちょっとねぇ」
「確か……生徒にお金を払って勉強させるって話だったっけ?」
「そう。お金を払う場合、勉強時間に対して払うより、成績に対して払うほうがいいんだよ。成績は教師と生徒のお互いに見えるから、モラルハザードが生じにくいんだ」
「うん、それは分かったんだけど……モラルハザードって何だったか思い出せないの」
「僕もだよ。けど、こうやって会話とかで使っていけば、少しずつ馴染むはずさ」
「あのねぇ……いつも言うけど、肉じゃかの糸こんにゃくだけ残して、後ですするのはやめてよ。恥ずかしいじゃない」
「そうは言っても、この食べ方が一番美味しいんだよ。確かに恥ずかしさはあるけど、それを補うだけのインセンティブがあるんだ」
「あ……それさっきの授業の話ね。それを言うなら、あなたが糸こんにゃくをすする好意は、『僕は下品な人間です』っていうシグナルを出してることになるんじゃないの?」
「そうかもしれない」
「……って、言ってるそばからすすってる」
「まぁ、そう言わないでよ。君も一口食べればわかるって」
「嫌よそんなの。私は食べるときも私らしくありたいの」
「糸こんにゃくが糸じゃなくなったら、何になると思う?」
「こんにゃくじゃないの?」
「すすることができない糸こんにゃくになる」
「……」
「ご飯食べた後の授業は眠くなるんだから、もうちょっと休憩時間を多くすべきじゃないか?」
「ご飯の後じゃなくても寝てる人が、何言ってるの?」
「いや、特異的な個人を対象にして、全体性を抽出することはできない。僕以外の人間は、ご飯の後の授業でしか寝ていないはずだ」
「私の友達も『眠い』とは言ってるけど、実際には寝てないわ」
「実際には寝てるんだよ。気づかない内にね」
「……何言ってんだか」
「僕も『べつに寝たいわけじゃないけど、一応そうするように決められているから』という具合に居眠りしたいものだ」
「結局寝るのね」
「そして、一応決められているから、夢を見るんだ。夢の中では黒板と、不揃いのチョークが3本。僕はその前に立つ。周りには誰もいない。コツコツという時計の音も聞こえない。まるで、思い出せないほど昔から、ずっとそうだったかのような場所に、僕はいたんだ」
「……寝ぼけてるの?」
「先生に当てられた後に二度寝すると、今度はそんな自分を観察している夢を見るんだ」
「二度寝せずに、授業聞けばいいのに。それに、お家に帰って寝たほうが、いい夢が見られると思う」
「確かに君の言う通り、本当は授業を受けたほうがいいんだ。けど、みんなが授業という苦役を受けている時に寝るのは最高の幸せなんだ。だからみんな寝る。けど、寝る人が多いと授業にならないので起こされてしまう。みんなが寝るとみんなの不利益になる。それがわかっていながら、居眠りをやめることができない」
「結局、何が言いたいの?」
「これが、さっき習ったナッシュ均衡だ。うん、やっぱり勉強をすぐに活かすのはいいね。頭に電撃が流れるようだ」
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