第44話 解放
地上では、いまだ魔物との戦いが続いていた。
すでに冒険者や兵士の半数は怪我、もしくは気絶という形で地面に伏している。
その中でも、Sランクパーティーであるステファンたちは健闘していた。
「スラッシュ・カリバー!」
ステファンは周辺にいた魔物に対して剣を振るう。
それにより、何体もの魔物が切り裂かれていく。
テニーは大斧で叩き潰すように魔物を倒す。
セシリアは持てる攻撃魔法を片っ端から詠唱し、それを魔物に向けて解き放つ。
まだ立っている冒険者たちも、自身の持てる力を振り絞って魔物に抵抗する。
ホーネット中隊も、同様だった。
前線に出ていたペトラ隊とティナ隊は、エレナ隊と合流して魔術部隊とホーネット中隊を守るように取り囲む。
しかし、連合国軍は魔物の群れによって包囲されていく。
地上はおろか、上空もドラゴンによって制圧されているため、いよいよ逃げ場がなくなる。
そしてそれを後押しするのが、魔人の存在であった。
魔人は圧倒的な身体能力と攻撃力で、次々に連合国軍の戦力をそぎ取っていく。
そして自身より下位にあたる疑似進化生体群に命令を送り、素早く包囲が完了した。
「残念、ここまでだったようね」
魔人の一人が包囲した連合国軍に詰め寄る。
魔人は四方八方を取り囲み、攻撃魔法を詠唱しだす。
「人間がここまでやるとは思わなかったわ。けど、それもここまで。せめて最後は痛みもなく楽にしてあげるわ」
やがて詠唱が終わり、飽和攻撃を仕掛けられそうになる。
その時だった。
どこからともなく、爆音が聞こえてくる。
魔人はおろか、連合国軍もこの爆音の発生源がどこか分からず、様々な方向を見た。
ただ一人、エレナを除いて。
「エレナ?」
ペトラはエレナに尋ねる。
エレナはスキルを発動していて、「お告げ」のあった通りにある方向を見ていた。
「クリスが来る」
エレナがそうつぶやく。
爆音は次第に大きくなる。
魔人は音の発生源が分かったのか、その方向を見上げた。
そこには点のようにしか見えない何かがあったが、次第に近づいてきているのが分かる。
そしてそれは、最高速度のまま彼らの上を通過した。
特徴的な洋上迷彩、巨大な主翼、そして音速をも超える速度を出せる機体。
日本国防空軍第7航空団第999飛行隊所属、対敵性宇宙飛翔体即応専用機「F-2S改二 対空多目標制圧特化型攻撃機超高度電子戦闘システム搭載特別仕様」である。
もととなったF-2S改に、宇宙戦闘艦に搭載されている攻撃特化型武器システムのグングニルシステムを搭載した特別仕様の攻撃機だ。
グングニルシステム自体、500以上の目標を捕捉・追跡でき、100以上の目標を同時に破壊可能と言われている。
そんなシステムを小型・簡略化し、F-2S改に搭載してできたのが、F-2S改二なのだ。
そして、そのF-2S改二にクリスは乗っていた。
クリスは目視で状況を確認する。
まずは連合国軍の上空にいるドラゴンから対処することにした。
クリスは一旦通り過ぎたあと、反転して戻ってくる。
その時にスキルを発動し、あるものを召喚した。
それはありとあらゆる空対空ミサイルである。
AIM-9SS、ASRAAM2、R.570、R-23M、26式空対空誘導弾などなど、F-2S改二で扱えるミサイルが100近くも召喚された。
F-2S改二のレーダーが上空に待機していたドラゴンを捉え、グングニルシステムが攻撃目標を定める。
「FOX2」
クリスの言葉と共に、ミサイル群は一斉に飛翔する。
そして次々とドラゴンに命中した。
その場にいた全員が、何が起こったのか理解できなかった。
ただし、このままでは状況がひっくり変えると判断した魔人は、ドラゴンたちにその場から離れるよう命令を下す。
再び上空を通過したクリスは、しばらく直進したあと再度反転する。
その時にはドラゴンは散り散りになっていたが、すべてF-2S改二のレーダーの範囲内にいた。
再び目標をレーダーで捉えると、また空対空ミサイルで攻撃する。
ドラゴンにとっては何発ものミサイルが自分に飛んでくるため、容易にかわすことができない。
仮にかわすことができたとしても、続けざまに第二、第三のミサイルが自分目掛けて飛んでくる。
こうして、ものの数分程度でドラゴンは全滅した。
この状況を見た魔人は、狼狽える。
「そんな……。我らのドラゴンがこんな簡単に倒されるわけがない……」
魔人は飛んでいるF-2S改二を見上げると、その鋭いまなざしを連合国軍に向ける。
「さっさとこいつらを片づけるよ!」
魔人たちは攻撃魔法を詠唱する。
しかし、ここでクリスは上空にまっすぐ昇った後、失速気味に機首を下げ、そしてまっすぐ落下する。
エンジンの出力を落としエアブレーキを展開したクリスは、照準を定め、機銃を撃つ。
20mmバルカン砲による、地上への機銃掃射である。
機銃掃射によって、魔物は多数倒れる。
地面に衝突しないよう機首を起こし、エアブレーキを格納、出力を上げて上昇すると反転して再び機銃掃射へと移る。
この攻撃で、魔人たちは攻撃目標をクリスに変えた。
「このままじゃ埒が明かない!一回こいつらから離れるよ!」
魔人と魔物の群れは連合国軍から離れ、平野を移動し始める。
だが、彼らにとってこれは最悪の選択肢であった。
クリスはスキルを発動する。
今度召喚したものは高抵抗フィンを装備したMk.82通常爆弾だ。
クリスは速度を落とし、比較的低空で侵入する。
そして召喚した爆弾数十個を魔物の群れ目掛けて投下した。
地面に着弾した瞬間、爆発が起こる。
それは魔物の群れだけでなく、魔人もろとも巻き込み爆発した。
その様子を遠くから眺めていた連合国軍は、まさに唖然とした表情で見る。
それはエレナたちも変わらない。
「クリス、あんなこともできたんだね」
「ちょっとやりすぎな気もしますけど」
「でもあそこまでしないと、全部倒せないと思うよ」
こうして爆撃すること数回。
魔物の群れは壊滅的な被害を被り、魔人もまともに戦闘できる状態になかった。
「人間め……!覚えていやがれ!」
魔人たちは命からがら逃げ出す。
こうして第四世代型疑似進化生体、通称魔人との戦いはクリスの進化したスキルによって無事勝利に導くことができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます