第43話 死闘

 クリスは一瞬何をされたのか理解できなかった。

 ただ気づかないうちにSUS-8小隊が壊滅的な被害を受けたことだけは分かる。

 クリスはM4カービンのマガジンを入れ替えると、魔人に向かって撃つ。

 しかし、それも魔人が展開した障壁によって防がれた。

 M4カービンを撃ち切ったクリスは、今度はトーラス・レイジングブルを取り出し、続けて射撃をする。

 だが、これも障壁によって受け止められる。

 6発撃ち切ると、クリスはアダマン・ソードを召喚した。

 それを構えて、クリスは魔人に向かって突撃する。

 剣を振りかざし、魔人に斬りかかった。

 分かりきっていたことが、この攻撃も障壁が受け止める。

 何度か斬りかかるが、障壁の前にはびくともしない。

 クリスは一旦下がって、剣を構えなおす。


「モードチェンジ!コード999トリプルナイン・カリバー!」


 アダマン・ソードが深紅色に変色し、柄の中心にある巨大な宝石が青色に輝き出す。

 クリスはゆっくりと剣を引くと、勢いよく斬撃を繰り出した。

 斬撃は魔人の障壁にぶつかると、これまでビクともしなかった障壁にヒビを入れる。


「何!?」


 魔人はそれに驚く。

 それに反するように、クリスは一瞬よろける。

 この形態のアダマン・ソードは、使用者に強い負荷を掛けるためだ。

 その影響か、クリスの目は緑色に発光する。

 クリスは早めに魔人を倒すために、再び突撃した。


「っち!」


 魔人は障壁を複数枚展開する。

 しかしクリスのアダマン・ソードは、一振りしただけで障壁を打ち破る。

 クリスは何度も剣を振るい、障壁を粉砕していく。

 だが、魔人もただ指を咥えているだけではない。

 クリスが最後の障壁を破ったところで、身体強化による拳を叩きこむ。

 とっさのことで、クリスはアダマン・ソードでガードする。

 あまりの強さに、クリスの体は思いっきり後ろに吹き飛ぶ。

 膝をつきながらも、うまく着地する。

 クリスが魔人の動きを確認しようと顔を上げるが、そこには魔人の姿はない。

 周辺を確認しようとすると、何かの影が上から降ってくる。

 クリスは考えるよりも先に、体を横に跳ばす。

 すると、先ほどまでクリスがいた場所に穴が空く。

 魔人が身体強化によるかかと落としをしたのだ。

 うまく体勢を整えたクリスは、魔人がかかと落としをした直後の一瞬を狙う。

 素早い動きで、魔人の首をとらえる。

 だが魔人は剣が首に触れる前に、その姿を消す。

 クリスの剣は虚空を斬る。

 魔人の姿を見失ったクリス。

 クリスが魔人の姿をとらえるより先に、魔人がクリスの後ろに回る。

 クリスが魔人の気配に気が付いて振り返ると同時に斬りかかるが、魔人はクリスの首を捕まえる。

 そしてそのまま持ち上げてしまった。

 クリスはその束縛から逃れようと藻掻くが、そう簡単に行かない。


「いやはや、君の能力を侮っていたよ」


 そういって魔人は高らかに笑う。


「まさか人間がここまでやるとは思わなかった。だがそれも直に終わる。見てごらん、この戦場を」


 そういって魔人は、クリスに戦場を見るように促す。

 それを見たクリスは目を見開く。

 そこには魔人、魔物、ドラゴンによって壊滅的な被害を被っている連合国軍の姿があった。

 冒険者と帝国軍の半分近くが致命的な怪我を負い、行動不能に陥っている。

 魔物の攻撃をしていた魔術部隊は、怪我人の処置とドラゴンの対応に追われていた。

 ホーネット中隊のペトラ隊とティナ隊はうまく立ちまわっているが、それでも被害は少なくない。

 SUS-8小隊は機体がバラバラにされ、各小隊はドラゴンの対処に追われていた。

 クリスは次第に体の力が抜けていくような感覚を覚える。


「まったく、最初から大人しくしていればお互いこんな被害を出さずに済んだのに」


 そう言って魔人はクリスの首を絞める力を強める。


「そうだ、これは君のせいだ。君が全力で抵抗するからこうして被害が出たんだ」


 魔人はクリスに、根拠のない責任を押し付けた。

 しかし首を絞められ、まともに思考する余裕がない。

 そのため、クリスはその観念に囚われてしまった。

 魔人は体全体に魔力をまとわせる。

 そしてそのまま浮いた。


「君たちと私たち、双方の責任を取るために、残念だが君に罪を背負ってもらおう」


 魔人はクリスを連れたまま、どんどん上昇していく。

 その高さはドラゴンのいる高さを超え、なおも加速する。

 そして雲の上、濃紺の宇宙が見えそうな高さまでやってきた。


「このあたりまで来るとさすがに寒いな」


 魔人はそう言うと、クリスに向かう。


「さぁ、罪を償ってもらう準備はできたか?」


 魔人はクリスに問いかける。

 しかし、クリスは答えない。

 それは長時間による首への負担、高高度での極寒の環境と気圧の低下による酸素欠乏により、クリスの脳が正常に動かなくなっているからだ。

 かろうじて、魔人の腕をつかむクリスの手と剣を握っている手だけは最後の力をふり絞っていた。


「……まぁいい。これから君は地面とキスすることになるんだからな」


 そう言って魔人は腕を伸ばす。


「さぁ、最後の空の旅を楽しもうじゃないか」


 そういって魔人はクリスのことを離そうとした。

 その瞬間である。

 魔人は腹部に変な感触を覚える。


「……は?」


 魔人が自分の腹部を確認してみると、そこには槍が刺さっていた。

 そう、クリスはスキルによって槍を召喚したのだ。

 その槍は、ガイヴィスの槍と呼ばれるものである。

 別名死神の槍とも呼ばれるこの槍は、穂の部分に特殊な文様が施されており、刺された生命体の活動を停止させる効果を持つ。

 クリスはこのガイヴィスの槍を魔人の腹部に刺したのだ。


「き、貴様……!」


 魔人はクリスに反撃しようとするが、その前に全身から力が抜け、苦しみだす。

 そして魔法による浮遊も保てなくなり、クリスを離すと同時に落下する。

 魔人は落下している間も苦しみ、最終的に絶命した。

 一方クリスは魔人から解放されたからか、全身の力が一気に抜ける。

 そのため、持っていたアダマン・ソードを離してしまう。

 しかし、クリスはそんなことを気にする余裕もなく、自由落下を続ける。

 このままでは地面に衝突するのも時間の問題だろう。

 クリスの頭の中は、魔人に被せられた責任のことでいっぱいだった。


(みんなを巻き込んだのは俺のせいだ……)


 そんな自責の念で押しつぶされそうになっていた。

 だが、ここでクリスはあることに気が付く。


(そもそも魔王軍が蜂起しなければこんなことにならなかったのでは?)


 魔王軍が誕生していなければ連合国軍は損害を受けることも、ましてや戦いそのものがなかったと言える。

 そのようなことに気が付いたクリスは、自分の中で燃え上がるようなケツイを抱く。

 そして頭の中でファンファーレが鳴り響いた。


『ユニークスキル「万物の召喚 レベル2」はユニークスキル「万物の召喚 レベル3」に進化しました』

『召喚できる対象を拡大しました』

『同時召喚上限が拡張されました』

『召喚物最適化を適用しました』


 クリスはスキルを発動する。

 そしてクリスの周りを、召喚時に発する巨大な光の粒子に包まれたのだった。

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