第42話 激戦

 一行が会敵予想地点に向かっている途中。

 そんな中、エレナが移動中にスキルの「お告げ」を使って、この後のことを聞いていた。

 「お告げ」を聞いたエレナは、少し気難しい顔をする。


「一体何を見たんだ?」

「……うまく言えないけど嫌な感じだった。クリスや私たち、みんなの身に危険なことが起こる気がする」


 移動中の車内に、重苦しい空気が流れる。


「でも、これから向かうのは敵の主力とも言える大軍勢です。死中に活を求めるような状態ですから、エレナの『お告げ』も案外的を得ているかもしれませんよ」


 そうペトラが弁護する。

 そんなことを話していると、会敵予想地点の平野に到着した。

 ホーネット中隊と大公国軍と帝国軍の部隊は、平野に広く展開する。

 冒険者が先頭に立ち、その後ろを帝国軍の歩兵が構える。

 その後ろに大公国軍の魔術部隊が、さらにその後ろにホーネット中隊が陣取り、前衛のサポートができるようにした。

 また、今回の迎撃ではM2重機関銃は主に対空を担ってもらうため、銃架を三脚から対空用の四脚に換装する。

 そして準備ができたところで、遠くの空から何かがやってきた。


「ドラゴンの群れが接近中!」


 帝国軍の兵士が報告を入れた。

 見たところ、少なくとも100は超えている。

 それと同時に、地平線の向こうから黒い波が迫ってきた。

 魔物の群れだ。

 距離的にはまだ数km離れているが、すでに魔術部隊は攻撃準備をしていた。

 そして魔法を発動する。

 それは以前見せたような、光の槍であった。

 光の槍が飛翔すると、魔物の上に降り注ぐ。

 幾分魔物は倒されるものの、魔物の群れはまったく臆することなく突撃する。

 続いてSUS-8小隊の攻撃だ。


「SUS-8小隊、射撃開始」


 30mm重機関砲の射撃が魔物の群れを襲う。

 ここでも魔物は数を減らすが、相変わらず進撃を止める気配はない。

 次第に上空をドラゴンが埋め尽くす。

 M2重機関銃が対空射撃を開始する。

 それと同時に冒険者たちと帝国軍の兵士、そしてペトラ隊とティナ隊が前進を始めた。

 冒険者たちは次第に走りだす。

 そして雄たけびを上げて魔物の群れを迎え討つ。


「ミリオン・カリバー!」


 ステファンの斬撃により、多数の魔物を切り裂く。

 それを皮切りに、冒険者たちは一斉に攻撃を始めた。

 多種多様な攻撃が魔物に対して繰り出される。

 帝国軍の兵士やホーネット中隊の歩兵小隊も負けじと魔物を倒していく。

 もちろん、ペトラやティナも全力で魔物の相手をする。

 連合国軍側は総攻撃は実に壮絶であった。

 しかし、それに負けないほどの魔物の群れが迫ってくる。


「中隊長、砲身が真っ赤になってます!」

「残弾少ない!補給を求む!」

「その銃は放棄!この新しい銃を使え!」


 クリスはSUS-8小隊の銃の交換と、弾薬の補給を急いだ。

 それだけ魔物の群れが押し寄せてきていることが伺える。

 そんな中、上空の様子がおかしいことにクリスは気が付く。

 ドラゴンの飛んでいる中でも、ひと際黒い部分がある。

 そこだけドラゴンが密集していた。

 M2重機関銃はそこに向けて射撃を行うものの、効果はあるようには見られない。

 そしてホーネット中隊の後方に移動すると、何かを落とす。

 それは、後方の少し向こうに落ちる。

 そして落ちてきたそれは、ゆっくりと立ち上がった。


「あぁ、ここまで遠かったな。体が訛りそうだ」


 それは人の形をし、人の言葉をしゃべった。

 そして、それはクリスのほうを向く。


「ん?もしかして君は、この軍の関係者かな?」


 そういってそれはクリスに近づいてくる。


「こういう時は自己紹介でもするべきなのかな?しかし、私には名前というものはないからな。なんとでも呼んでくれ」


 クリスはとっさにM4カービンを構える。


「おっと、そんな警戒しないでくれたまえ。君たちは直に戦うことを止めるだろう」

「お前は誰だ?」


 クリスはそれに尋ねる。


「誰と言われてもなぁ。正直答えづらい。そうだな……」


 それが少し考えると、こう答えた。


「今、君たちが相手している魔物の正統進化形態だと言えば分かりやすいかな?」

「それって、まさか第四世代型疑似進化生体……!」


 クリスは思わず口走る。


「第四世代型?君たちは私たちのことをそう呼んでいるのか」


 そういって第四世代型疑似進化生体は笑う。


「しかし、その名前では長いだろう。そうだな、簡単に魔人と言うのはどうだろう?」


 それは……魔人はそう自称した。

 そして空からは、魔人の仲間が次々に降り立っていく。

 10人程度だが、彼らは圧倒的な威圧感を放っている。


「エレナ!」


 クリスは魔術部隊防衛の名目で後方待機していたエレナ隊を呼ぶ。

 エレナはすぐに歩兵小隊を引き連れて、クリスの元に向かう。


「敵、正面!射撃開始!」


 エレナ隊に攻撃するよう指示する。

 エレナ隊とクリスは魔人たちに向けて、弾丸の雨を降らせた。

 しかし魔人は障壁を展開し、射撃を無力化していく。

 エレナ隊のM4カービンは撃ち切ったが、魔人は傷一つ付いていない。


「これで終わりかい?なら今度はこちらから行こう」


 そういって魔人たちは目に見えない速さで移動する。

 気が付くと、SUS-8小隊の機体が損傷していた。

 それと同時に、上空で待機していたドラゴンが一斉に降りてくる。

 そして続々と連合国軍のことを襲い始めたのだ。


「さぁ、この戦いを終わりにしよう。私たちの勝利でな」


 クリスの目の前に残っていた魔人は、そう宣言した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る