第41話 判明

 数日かけてフェンネルに帰還したホーネット中隊は、束の間の休息をとっていた。

 特に弾薬などの消耗品の補充と、車のガソリンの給油などを行う。

 一通りの作業が終了すると、クリスは研究施設に向かった。

 生物学者に、シェイン要塞で確保した魔物を見てもらうためだ。

 クリスはパットン調査団の本部が設置されている事務室に向かう。

 事務室に入ってもそこには誰もおらず、書類や多種多様な文献、どこから持ってきたか分からない検査装置が所狭しと部屋を埋め尽くしていた。


「外かな?」


 クリスは検体である魔物を放置している中庭にいると考える。

 向かってみると、そこにはパットン調査団の学者たちが検体の調査をしていた。


「お疲れ様です」

「おや、戻ったのか」

「早速なんですが、新しいタイプの疑似進化生体を確保したので見てほしいんです」

「それは本当か?見せてくれ」


 生物学者に催促され、クリスはシェイン要塞で確保した魔物を取り出す。

 魔物は今すぐにも息絶えそうである。


「これか……」

「……セ、ヨ」

「なんだって?」

「しぇいん、ヨウサイ、カラ、ダッシュツ、セヨ……」

「これは驚いた。ここまではっきり言葉を発するなんて」


 生物学者は機材を用いて実験をする準備を始めた。

 その間も、魔物は言葉を発し続ける。


「しぇいん、ヨウサイ……、ヨウサイ……。ヨウサイ、ドコ?」


 その言葉に、生物学者は勢いよく魔物のことを見る。


「君!今の聞いたか!?」

「え?あ、はい」

「今、要塞はどこかと言ったな?」

「確かに言いましたね」

「これは自身の置かれた状況を判断できるだけの知性を持ち合わせていることに他ならない!もしかしたら、これが第三世代型疑似進化生体なのかも知れない!」


 そう言った生物学者は、急いで機材の準備をする。

 そして思考パターンを読み取り始めた。


「さぁ、どんな結果が出るんだ?」


 生物学者はニタニタとした顔でパンチカードが排出される様子を待ち遠しそうにする。

 パンチカードが排出されると同時に、生物学者はその内容を確認した。


「……なんてことだ」

「何か分かったんですか?」

「これは魔物ではない。まるで人間みたいだ」

「どういうことですか?」

「何者かが、この魔物に人間の頭をくっ付けたということだ」


 人間と魔物のキメラ。

 それを生物学者は言いたかったのだ。

 事務室に戻った生物学者は、書類に現状をまとめた。


「今回君が回収してきた魔物から、第三世代型疑似進化生体を定義した。第三世代型は人間に似た思考をし、簡単なコミュニケーションを取ることができ、自立して行動することが可能な魔物のことを指す。また同時に、第二世代型がしゃべるようになった魔物を第2.5世代型と定義することにした」


 そういって生物学者は壁に掛けられた黒板に、新たに何かを書き込む。

 それは、これまでの調査で判明した疑似進化生体に関する情報だ。

 生物学者は第二世代型の横に、第2.5世代型と第三世代型の情報を書き込んだ。


「勝手な推測だが、疑似進化生体の進化はこれにとどまらないだろう。おそらく第三世代型の上、第四世代型の登場も考えられるだろう。その場合、どんな性質や特性を持っているのかは不明だ。だが一つだけ言えるのは、高度な知性を持ち合わせていることだろう」


 そう言って生物学者はゆっくりと椅子に座る。


「正直言ってこれ以上の疑似進化がどうなるか見当もつかない。ただは今、サンプルが足りない。今後も検体の回収は続けてほしい。もし第四世代と思われる魔物が現れたら、まぁその時は最悪頭だけでも回収してくれ」


 生物学者はそうクリスに頼んだ。

 二日後。

 クリスの元に、またも国王陛下から指令書が届く。


『魔王軍占領地最奥から大軍勢が北進していることが帝国軍の斥候で判明した。これまでとは違い、数は1万を超えると推察されている。また、大型のドラゴンの姿も確認されている。ホーネット中隊は再びシェイン要塞に向かい、この軍勢を撃退せよ。なお今回は魔王軍の勢力が多いため、冒険者を連れていくこと』


 この指令書を見たクリスは、またシェイン要塞に向かうのかと思った。

 しかし、命令には従わなければならない。

 クリスはフェンネルにいた冒険者に招集をかける。

 集まった冒険者は、前回招集した時より多く集まった。

 今回もホーネット中隊が先頭になって、シェイン要塞に向かう。

 数日後、シェイン要塞に着くや否や、クリスはシェイン要塞の指揮所に連れられる。

 そこにはシェイン要塞の司令官がいた。


「到着したばかりの所申し訳ないが、ホーネット少佐に頼み事がある」

「実現できる内容でお願いします」

「現在、シェイン要塞の防衛兵装が使えないことは知っているだろう。そこでホーネット少佐のスキルによって、防衛兵装の補填をお願いしたい」

「まぁ、そのくらいならいいでしょう」

「無茶を承知で言っているのは分かっている。その分、こちらで便宜を図らせてもらおう」


 早速クリスは何かないか探す。

 要塞砲の一覧には、多種多様の砲が並んでいた。

 その中でも城壁に合うような、口径が大きく俯角が取りやすいものを探す。

 その中でクリスはちょうど良さそうな物を発見する。

 フランス第二王政で製造された75mm野砲を改造した、75mm要塞砲だ。

 城壁の上から下方を狙いやすくするために俯角が80°近くまで取れる。

 しかし城壁には胸壁が設置されていて、この要塞砲の性能を十分に発揮できない。

 そこで胸壁の一部を取り壊し、要塞砲が迫り出せるようにした。

 これを城壁にズラッと並べる。

 そのほかにも、要塞の至る所にドラゴン対策として対空機関砲を設置した。

 そして念のためにと、シェイン要塞正面にレーザー砲を設置する。

 あとは要撃を待つだけだ。

 そんな中、ついに魔王軍襲来の知らせが来た。

 場所はシェイン要塞からほど近い平野だ。

 クリスはホーネット中隊と冒険者たちに号令を掛ける。


「これから行われる作戦は、おそらくこれまでに見たことないような大規模な作戦になるだろう。しかし、冒険者の諸君にはどうか奮闘してほしい。この一戦で我々連合国軍の運命が変わるのだから」


 こうしてホーネット中隊と冒険者たち、そして手の空いていた大公国軍の魔術部隊と帝国軍の兵士も交えて出発する。

 これが大規模な戦闘になるとクリスは感じていた。

 様々な不安がよぎる中、一行は会敵予想地点まで移動する。

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