第40話 援護
翌日の昼前、伝書ワイバーンが戻ってきた。
そこには指令書がつけられている。
大公国軍の兵士が指令書を取り、その内容を確認する。
「大公国軍司令部からだ。現在遂行中の作戦を一時中断し、シェイン要塞の援護に回れとのことだ」
「分かりました。すぐに向かいます」
クリスはすぐにホーネット中隊を招集し、街を出発する。
シェイン要塞はこの街から十数km程度離れているため、車を使った移動でも数時間程度かかった。
シェイン要塞の近くまでやってくると、ホーネット中隊は車から降りて、徒歩による移動を開始する。
少しすると、シェイン要塞が見えてきた。
シェイン要塞は山岳の間にできた緩やかな渓谷に合わせて建造されたオードー帝国有数の巨大建造物である。
要塞には、その巨大さに見合った分厚い外壁が取り囲んでいる。
また外壁の上には防衛用の兵器を多数設置しているのだが、現在は魔物の攻撃によって使い物にならない。
そんなシェイン要塞の周りを、多数の魔物が取り囲んでいる。
この数を一斉に相手するのは、さすがに得策とは言い難い。
そのため、クリスはスキルによって何か良い道具がないか探すことにした。
「広域を攻撃できるものがいいなぁ……」
しかし、これだけの魔物を一撃で葬り去る道具となると、なかなか見つからないというのが本音であろう。
そんなクリスの様子を見ていた参謀班は、現状持ちうる兵器でこれらの魔物を排除する方法を模索し始めた。
それでもクリスは、根気よく良い道具がないか探し続けた。
そんな中、クリスは一つの項目を見つける。
レーザーだ。
クリスはその項目にある道具の説明を眺める。
実験用に使用される半導体レーザーや、単なるレーザーポインター、その他様々なレーザーがあった。
その中でも、兵器化されたレーザーがクリスの目につく。
多種多様あるレーザー兵器の中で、クリスはある物を見つける。
「SS/XEP-2 85cm自走式高エネルギーレーザーシステム」だ。
クリスは表示された説明を読む。
『出力155kWという強力な赤外線レーザーが照射可能な砲塔車と、それを賄うことができる電力を供給することが可能な12tトラックを改造した電源車からなる。シベリア社会主義人民連邦共和国が2030年より試験配備、のちに正式採用されている』
その使用方法を確認したクリスは、現状を打破できると考えた。
早速クリスは俺を召喚する。
突然巨大な車が召喚されたことで、ホーネット中隊のみんなは一瞬驚く。
クリスはこれを気にすることなく、電源車から砲塔車に電力供給用のアンビリカルケーブルを接続する。
電源車を起動し、電力の供給を開始した。
クリスは何人かの兵士を呼び、砲塔の操作を教える。
その間、射線上に入ると見られる木の伐採をSUS-8に行わせた。
こうして準備が整う。
「レーザー、射撃準備」
クリスの合図と共に、ホーネット中隊から見て要塞の左側を向く。
「電源車全力運転」
「電源車、出力安定。現在異常なし」
「砲塔、照準よし」
「電圧上昇、限界値まであと0.9」
電源車が低いうなりを上げ、電力を発電し続ける。
「砲塔、射撃用意」
照準手を担当している兵士が光学照準器を覗き、最後の照準をする。
「射撃開始、薙ぎ払え」
クリスの合図と共に、射撃手が引き金を引く。
レーザーの光は見えない。
しかし、レーザーの射線上にある着弾点では物体が発火もしくは融解していた。
もちろんそれは魔物も例外ではなく、体が焼けこげたり発火、または出力の高さから肉体がえぐれていく。
砲塔はゆっくりと右方向に旋回する。
それに合わせるように着弾点が移動し、次々と魔物の群れを炭に変えていく。
着弾点の一つであるシェイン要塞の外壁も、レーザーの出力に耐えられず表面が赤熱する。
こうして要塞の右側まで旋回したところで、魔物の群れは壊滅状態にあった。
すると、魔物の群れは撤退していく。
こうしてシェイン要塞は最悪の状態から脱することができた。
レーザーシステムを片づけると、ホーネット中隊はシェイン要塞に入る。
「あなた方がホーネット中隊ですか?」
帝国軍の兵士が応対する。
「えぇ、大公国軍の指示によりシェイン要塞の援護に来ました」
「ありがたい。あなた方が来なければ、シェイン要塞はあと数日で陥落していたでしょう」
そういって帝国軍の兵士は要塞内を案内する。
すると、ある場所が立ち入り禁止になっていた。
「あの部屋はなんです?」
「あぁ、そこは生きてる魔物が幽閉されている場所ですよ」
「生きてるんですか?」
「生きているとはいえ、瀕死の状態です。ですが、不気味なもので誰も倒そうとしないんですよ」
「どういうことですか?」
「あの魔物、時々人の言葉をしゃべるんです。魔物の癖に人の言葉をしゃべるんなんて不気味で誰も近づこうと思いませんよ」
その言葉を聞いたクリスは、立ち入り禁止の部屋の前に立つ。
「な、何をしているんです?」
「ちょっとこの魔物に興味を持ちまして。開けてもらえますか?」
「別に誰の許可もいりませんが……。一応注意だけはしてください」
そう言われ、クリスは部屋の扉を開けた。
中には一匹の魔物が横たわっている。
しかもそれは獣というよりは、猿に近いような姿をしていた。
「ウ、ガァ……」
魔物の口から絞り出すように声を発する。
クリスが近づく。
すると、魔物がまた声を発した。
「しぇしぇしぇしぇいん、ヨウサイ、カラ、ダダダダッシュツ、セヨ……」
なんと魔物が言葉をしゃべったのだ。
しかも、それは意味を持つ言葉である。
クリスはある可能性を考えた。
「こいつ……、第三世代型か?」
そう、生物学者の推測している第三世代型疑似進化生体の可能性があるのだ。
そう考えたクリスは、中脅威度生体保管コンテナを召喚し、この魔物を収容した。
部屋から出てきたクリスの元に、兵士が来る。
「大丈夫でしたか?」
「えぇ、まぁ。ところで、この魔物回収してもいいですか?」
「そ、それは大丈夫だと思いますけど……」
そういう会話をかわしながら、クリスはシェイン要塞にある指揮所にやってきた。
指揮所は少しざわめきがあった。
「何かあったのか?」
帝国軍の兵士が尋ねる。
「あぁ。さっき帝国軍の最高司令部から伝書ワイバーンの連絡が来てな。魔王軍占領地の進軍作戦は現時刻をもって中断となった。展開していた部隊は最低限の防衛力を残して撤退だそうだ」
クリスは思わず前に出る。
「それって王国軍もですか?」
「え、あぁ、連合国軍すべての部隊が対象らしい」
クリスはそれを聞いて奥歯を噛み締めた。
言葉を選んで言えば、戦略的撤退。
しかしその実態は、事実上の作戦失敗である。
クリスはホーネット中隊の元に戻ると、全員にその旨の話をした。
「よって我々はフェンネルに帰還する」
撤退準備をしているクリスの元に、エレナたちがやってくる。
「クリス、こんなこともある」
「あぁ、分かってる。けど……」
「そんなこと言っていては、次につながりませんわ」
「そーだよー。気楽に行こうよー」
ペトラたちに気を使わせ、クリスは一旦気を落ち着かせる。
そしてホーネット中隊はフェンネルへの帰路へと着くのであった。
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