第39話 進軍
パットン調査団がフェンネルに入って数日。
研究施設にサンプルが運び込まれ、それを生物学者が中心となって調査を進める。
サンプル体の魔物はほとんどが息絶えていたが、新鮮さだけはよい。
そのおかげか、魔物の思考パターンの読み取りは比較的順調に進んでいるようだ。
そんな中、クリスの元に国王陛下から新たな命令が下される。
『モルドー大公国とオードー帝国の国境付近に辺境軍と大公国軍と共に進軍し、魔王軍占領地を攻撃せよ。この作戦にはオードー帝国も参加し、魔王軍占領地を押し込む形で攻勢をかける。この二正面作戦に失敗すれば魔王軍は勢いをつけることだろう。抜かりないように』
早速クリスはホーネット中隊に準備するように指示する。
三日後、フェンネルにいる辺境軍と共に、モルドー大公国とオードー帝国の国境に向かう。
また、今回の作戦では冒険者の参加は見合わせている。
国王陛下曰く、純粋な軍事行動になるため冒険者は参加させられないとのことだ。
そんな感じで移動すること数日。
クリスたちは無事に前線へと到着する。
作戦開始時刻まで数時間だ。
大公国軍と辺境軍、そしてホーネット中隊は分散して国境に並ぶ。
時間になると、全軍は進軍を開始する。
最初のうちは順調に前進していく。
特にホーネット中隊は、その戦力の高さから前線を押し上げるのに適任である。
ホーネット中隊はオードー帝国中央部にある、とある街を目指して進軍していた。
すると、ホーネット中隊はある川に前に出る。
目的の街はこの川を越えなければならない。
幸いにも頑丈そうな橋がかかっており、通ることができそうだ。
エレナ隊、ペトラ隊、ティナ隊からなる歩兵小隊が先頭になって橋を渡る。
すると、前方から何かが接近してきた。
「総員警戒態勢」
クリスが中隊に指示をする。
前方から迫ってきたのは、魔物の群れであった。
そのほとんどが、生物学者が定義した第一世代型疑似進化生体群だろう。
歩兵小隊が最初に対応する。
「射撃開始!」
エレナたちの命令により、M4カービンを装備した兵士が射撃を始めた。
これにより、先頭を走っていた魔物がバタバタと倒れていく。
しかし、同胞の屍を越えて魔物の群れは依然接近してくる。
ここで、SUS-8小隊の射撃準備が整い、30mm銃機関砲を構える。
「SUS-8小隊、射撃開始」
クリスの合図と共に、SUS-8小隊は射撃する。
30mmの砲弾の威力は伊達ではなく、次々に魔物を葬り去っていく。
あらかた魔物の群れが壊滅したところでSUS-8小隊は射撃を止め、魔物の群れに肉弾戦を仕掛ける。
クリスも前進し、サンプルとなる魔物を回収した。
こうして魔物の群れをすべて排除した所で、クリスたちは無事に川を渡り、目的の街に向かうことができる。
こうして空が完全に暗くなるころになって、ようやく目的の街に到着した。
街に人はいても明かりはなく、活気は微塵も感じられない。
クリスたちが街に着いたのを見た街の住人は、クリスたちのもとに集まってくる。
「お願いします……。水を、水とパンを恵んで下さい……」
その惨劇を見たクリスは、中隊のために用意していた食料の一部を住人に供給する。
「思ったよりひどいですね……」
街の広場に設営した臨時指揮所にいたクリスの元に、ペトラがやってくる。
「他の街との往来が遮断されたのが原因だろうな。これじゃあ人が生きていくだけで精一杯だ」
「何とかしてあげたい……」
エレナがぽつりとつぶやく。
だが、今の状況ではなんともしがたいというのが本音だろう。
そこに、別の道を通って進軍してきた大公国軍の歩兵隊がやってきた。
「ホーネット中隊か。よく無事でいた」
「そちらも」
「この街は解放された。ただしこれからも脅威が減ったというわけではない。この街は我々に任せて、ホーネット中隊はさらに前進を続けてほしい」
「了解です」
そのようなことを話していると、臨時指揮所にボロボロの帝国軍の兵士が走りこんできた。
「で、伝令です!」
「何があったんですか?」
「最前線に位置するシェイン要塞が魔物の群れに包囲され、身動きが取れません!このままでは要塞が陥落するのも時間の問題です!」
「でも、要塞なら多少は攻撃されても問題ないのでは?」
「それが、シェイン要塞は南部地域で蜂起が発生した時に一度無人化しているんです。この二正面作戦時に再度奪還した際には、内部は魔物の群れがたむろしており、防御兵器が破壊されていたことが分かりました。なので今のシェイン要塞は丸腰の状態なんです」
要塞とは言っても、攻撃の手段がなければただの的である。
そのため、シェイン要塞は籠城戦を強いられている状態にあるのだ。
「すでに帝国、大公国、王国に対して複数伝令及び伝書ワイバーンを走らせています。どうかシェイン要塞に兵を派遣してください」
そういって伝令が懇願する
「どうしましょう?」
クリスは大公国軍の兵士に相談する。
「しかし我々には魔王軍占領地の進軍という作戦目標が存在している。ここで戦線を離脱してシェイン要塞の救出に行くことはできないだろう」
「しかしここで要塞が再び陥落すれば、取り返すことは容易ではありません。すぐにでも加勢に行くべきです」
大公国軍の兵士は頭を抱える。
そして一つの結論を導く。
「伝書ワイバーンを使おう。今から飛ばせば、明日の昼前には戻ってくるだろう」
そういって大公国の兵士は部下に命令をする。
取り出してきたのは、軍用の伝書ワイバーンだ。
伝書鳩よりも素早く、かつ自然界の天敵がいない動物としてあげられる小型のワイバーン。
訓練をすることで双方向の通信が可能になる、とても便利な動物だ。
早速大公国軍の兵士は手紙をしたためると、伝書ワイバーンに手紙をつける。
そして暗闇の中、伝書ワイバーンを放った。
「迷子にならなきゃいいが……」
そういって大公国軍の兵士はつぶやいた。
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