第38話 派遣

 生物学者が研究室に籠って一晩たった。

 その間、クリスたちは研究所の仮眠室にて一夜を明かす。

 休憩室のソファで寝ていたクリスの元に、生物学者が飛んでくる。


「起きろ、すぐにフェンネルに行くぞ」


 そういってクリスのことを叩き起こす。

 クリスは眠い目をこすりながら尋ねる。


「一体何があったんです?」

「軍部を通して国王陛下に対して生物学的な観点から敵の動向を探る専門の調査団を派遣することを提案した。そうしたら承認され、フェンネルに調査団が派遣されることになった」

「そうなんですか」

「そこで私と同僚二人をフェンネルに連れて行ってほしい。もちろん機材もいくつか持っていく」

「機材は自分が向こうで召喚しますよ」

「そうか?じゃあ書類だけ持っていけばいいか」


 そういって生物学者は仮眠室を出る。


「外に馬車を回しておいてくれ。すぐに出発したい」


 クリスは研究室で研究対象にされていた魔物を回収すると、研究所の入口にシーヴを回す。

 数十分後、学者たちを乗せてシーヴはフェンネルに向かう。

 その車中、生物学者はクリスにこれまで分かったことを報告する。


「昨晩の調査である程度のことが分かった。結論から言えば、あの魔物は普通の魔物ではない。何者かによって改造された魔物だ」

「どういうことです?」

「六本足の魔物がいただろう?あの魔物の思考パターンを詳しく見てみたところ、おおよそ生物の思考をしていなかった。どちらかというと機械的で単調な命令を繰り返すだけの操られる肉片でしかない。しかも命令は常時外部から受けていないと活動することもできないような扱いづらい設計をしている。あとは異常に群れるくらいか」


 そこまで言うと、生物学者はひとまず息をつく。


「それと街で確保した魔物だが、あれも同じように機械的な思考パターンをしていた。六本足の魔物と比べると、命令を実行するくらいの知能は持ち合わせているらしい。だがこれも外部からの刺激で簡単に書き換えることが可能だ」


 ここまで言うと、生物学者は書類を取り出す。


「この二つの魔物に共通するのは、既存の魔物とは身体的にも頭脳的にも構造が異なるということだ。頭を新造し、肉体を進化させたような感じだ。疑似進化というのかな。これを踏まえて、この二匹の魔物を分類として分けてみた。本当はサンプルが少ないのに分類するのは危険なのだが、ここまではっきり分かれているのも珍しいから分けた」


 そういって生物学者は取り出した書類をクリスに渡す。


「この二匹の魔物の状態を疑似進化生体もしくは生体群と称する。その上で、六本足の魔物を第一世代型疑似進化生体、もう一匹の魔物を第二世代型疑似進化生体とする。第一世代型の定義を、第二世代型の命令を受けるだけの操られる存在で異常に群れる魔物。第二世代型の定義を、簡単な命令をこなしそれを第一世代に伝えることができる魔物とした」


 書類には第一世代型疑似進化生体と第二次世代型疑似進化生体の特徴が簡潔に書かれていた。


「もし第二世代型以上の、つまり第三世代型があるとすれば、厄介な存在になると考えられる。早いところ、疑似進化生体について解明したいところだ」


 そんな話をしていると、フェンネルに到着する。

 到着するや否や、生物学者はパトリックに面会した。


「国王陛下の命により、学術的な観点より調査を行うチームとして派遣されたパットン調査団です。私はその団長を拝命しました」

「ふむ。手紙は本物のようだな。分かった、我々からも連絡員を派遣しよう。場所は研究施設を使ってもらってもかまわない」

「ありがとうございます」


 そういって生物学者は早速研究施設へと向かう。

 クリスもそこについていく。

 研究施設に着くと、パットン調査団は事務室に通される。

 ここが以降のパットン調査団の本部となることだろう。

 生物学者は早速、ついてきていた連絡員に頼み事をする。


「まずはサンプルがほしい。戦闘のあった草原と街にはまだ魔物の死体があるはずだろう。それを回収してきてほしい」

「分かりました。すぐに軍を派遣します」


 そういって連絡員は事務室を出る。

 それと入れ替わるように、鳥類学者が事務室に入ってくる。


「先輩」

「おっ、お前か。久しぶりだな」


 そういって二人は再開の喜びか、話に花が咲く。


「それはそうと、お前私の仕事を手伝ってくれ」

「まぁ、別に構いませんが……」


 生物学者は彼の了承を得ると、クリスに振り向く。


「君には、次のものを召喚してほしい。まずは思考波形記録装置と仮想神経接続装置、鎮静促進剤。あと帝国にあると言われる頭脳接続シミュレーターだな」


 クリスは言われたものをスキルの中から探し出す。

 せっかくなのでクリスは、これらの装置の技術力が進んだ物を説明書付きで召喚した。


「おぉ、ありがたい。あとはサンプルが来るのを待つだけだな。その間に君が捕獲した魔物の再調査でもするか」


 生物学者は研究施設の中庭に装置と共に出る。

 そこにクリスが捕獲した魔物を出す。

 こうしてパットン調査団は、魔王軍との戦いに間接的に身を投じていくことになる。

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