第45話 帰投

 クリスは上空から魔人たちの撤退を確認する。

 ときおり殿を行く魔物に対して、適度に機銃掃射や空爆を仕掛けていく。

 こうして魔物の群れを追い返す行為を何回か繰り返し、平野の向こうまで追いかける。

 完全に撤退したことを確認すると、クリスは連合国軍のいる場所まで戻った。

 クリスはゆっくり降下していくと、エアブレーキ、フラップを出し、速度を落とす。

 地上50mを切ったところでギアを降ろし、着陸に備える。

 低速で進入したF-2S改二はゆっくりと後輪から着陸した。

 しかし、平野といえども地面は凸凹しており、また草の類が生えているため綺麗な着陸とは言えない。

 何度か跳ねたりしながらブレーキを全力で掛ける。

 1km以上もの距離を滑走しながら、クリスは連合国軍のいる場所へ接近した。

 こうして連合国軍に横づけするように停止する。

 それを連合国軍の兵士と冒険者が固唾を飲んで見守っていた。

 そんな中、キャノピーが開き、中からクリスが姿を表す。

 F-2S改二の元に、エレナたちが向かう。


「クリス!」


 クリスはタラップを召喚し、F-2S改二から降りる。

 降りた直後、クリスは体がうまく動けずに膝から崩れ落ちた。

 上空に昇った影響がまだ残っているようだ。


「大丈夫ですか、クリス?」


 真っ先に駆け寄ったペトラがクリスの介抱をする。

 容態を重く見たエレナが、最上級の回復魔法をクリスにかけた。

 クリスの体に負われた怪我や損傷、異常状態から回復していく。


「ふぅ……、助かったよエレナ」

「これぐらいお茶の子さいさい」

「クリスには聞きたいことがたくさんあるのだけれど、まずは無事でよかったですわ」

「そうそう、途中どうなるかと思ったよー」

「ははっ、まぁとにかく魔王軍を追い返せただけでも良かった」


 そういってクリスは連合国軍のほうを見る。

 負傷者はだいぶいるものの、無事な者も多い。

 クリスはF-2S改二を高次元空間小型格納コンテナに格納すると、みんなの方に振り返った。


「さぁ、帰ろうか」


 撤収作業……と言っても、ホーネット中隊のSUS-8小隊の残骸を回収する程度で、あとは簡単に各々の装備を確認したりしていた。

 クリスは倒した魔物の群れの中から魔人がいないか探す。

 だが、残念なことに魔人の姿はなく、代わりに第三世代型疑似進化生体群の死体を回収した。

 こうして連合国軍は、シェイン要塞へと帰還する。

 シェイン要塞に帰還する途中、クリスは疲れからか車内でぐっすり眠ってしまった。


「クリス、疲れちゃったみたいだね」

「仕方ない、大変な目に合ってるから」

「でもクリスがいなかったら、今頃私たちはどうなってたでしょうね」


 三人はクリスのことを優しく見守る。

 シェイン要塞に到着すると、要塞の司令官が出迎えをしていた。


「よく戻った。そして魔王軍との戦いご苦労だった」

「いえ、当然のことをしたまでです」

「とにかく今はゆっくり休んでくれ」


 そういってホーネット中隊や冒険者たちに休息を勧める。

 その言葉に甘えて、休息を取ることにした。

 一方で、撤退を余儀なくされた魔人たちは魔王軍の本拠地へと歩みを進めていた。


「くそ、人間のやつらここまでやるとは思わなかったぞ」


 帰路の途中、休息を取っていた魔人の一人が悔しそうに言う。


「そうだ。第一、対人戦でも予想以上に苦戦していた。これは反省すべき点だ」

「魔物の数と指示の出し方に課題が残っているようだ。今後の課題だな」

「あれくらいの戦いならいくらでも対処のしようがある」

「それよりも問題なのは……」

「あの飛行物体だな」


 話はF-2S改二のことに移り変わる。


「一体何だったんだ、あれは」

「なぜ我々のドラゴン以外にあんな巨大なものが飛んでいられるんだ?」

「しかも我々のドラゴンよりも相当早い」

「それにあの攻撃……。まさに異国にある私たちの知らない魔法のようだったわ」

「くそっ、僕たちが見ただけでは何にもわからない」

「だが、魔王様には伝えられる」

「そうだ。我々は生き残って、このことを魔王様にお伝えせねばならない」


 魔人たちの意見が一致する。


「ところで、あいつはどうした?」

「人間の一人を上空に引っ張り上げてからまったく見てないぞ」

「念を送ってみたのだが、一切反応がない」

「まさか、殺された?」

「そんなはずはない。我々はそこらの魔物より身体を強化された個体だぞ?」

「魔物の致命傷でも、我々の外皮は簡単に防ぐことができる」

「それに、奴は身体強化魔法が特に秀でていたはずだ」

「それを合わせれば簡単にやられることはないはずだろう」

「だが、現にあいつは戻ってきていない」

「……そういえば、彼が人間を連れて浮いていったのよね?」

「それがどうした?」

「これは突飛な考えかもしれないけど、もしかして彼が連れて行った人間があの飛行物体を操っていたとしたらどうする?」

「……まさか」

「いや、可能性はなくはない。あの人間が何らかの方法で飛行物体を生み出したとすれば、うまく説明がつく」

「だが現実的か?」

「現実も何も、魔王様は不可能と言われていた私たちの生成を可能にした御方よ。そんなことがあってもおかしくないわ」

「……このことも合わせて魔王様に報告だな」


 こうして魔人たちは、再び帰路につくのであった。

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