第35話 開戦
それから数日後、クリスは国王陛下に呼び出されていた。
「オードー帝国とモルドー大公国に現在の状況と、今後の対応について協議した。その結果、我が王国と帝国、そして大公国は、新世界王国と魔王を名乗る武力集団に対して武力をもって対応することを決定した」
「いよいよやるんですね?」
「うむ。今後この武力集団のことを魔王軍と呼称し、以降情報共有や戦線を共にする、三ヶ国による連合国軍を結成することが決まった。そこで早速だが、クリスには最前線になるであろうフェンネルへと向かってほしい。そこで別途指示をする」
「分かりました。すぐに準備を整えて向かいます」
そういってクリスは詰所へと戻る。
しかし、クリスには一つ気がかりなことがあった。
ホーネット中隊は装甲機械歩兵である。
すなわち移動は徒歩、もしくは馬車だ。
馬車で移動するには300人という大所帯は馬車の数が多くなってしまう。
だからといって、徒歩では時間がかかる。
そこでクリスは良い移動手段がないか、スキルを使って探してみた。
すると、クリスはあるものを見つける。
アメリカ自由帝国で製造された1.5tトラックだ。
このトラックは22人乗りで、これを複数台用意すれば輸送に問題ないと考えた。
また先導兼指揮車両には、同じくアメリカ自由帝国が設計・製造した四輪駆動車シーヴを使用する。
早速これらを召喚し、すぐさま慣熟訓練を行わせた。
たった数日の訓練だが、人員と荷物を詰めてすぐに出発する。
シーヴを先頭に、一路フェンネルへと向かう。
この時、SUS-8小隊は装備の関係上車列の後ろを歩かせている。
クリスと同乗しているペトラは、なんだか落ち着かない様子だった。
「どうしたペトラ。車が怖いのか?」
「いいえ。そうじゃないのだけど……」
そういってペトラは窓の外を見る。
「これからのフェンネルのことを考えると、なんだか不安になるんです……」
それもそうだろう。
最悪の場合、フェンネルという街が地図から消える可能性もあるのだから。
そんなペトラの心情を読み取ったクリスは安心させるように声を掛ける。
「大丈夫だ、俺がなんとかする。だから安心して」
「……はい」
そういって車列はフェンネルへ向かう道を進んでいた。
車での移動は早く、馬車での移動より倍近く進んでいる。
そんな中、周辺の茂みから何かが飛び出てきた。
「荷物寄越せぇ!」
山賊である。
しかしクリスはこのことを予測していたため、中隊全員が臨戦態勢に入る。
その様子を見た山賊は一瞬動くのをためらう。
だが、そのうちの一人が威勢よく飛び出して来る。
中隊の一斉射撃が、その男を襲う。
足元を中心に狙った射撃は、効果があったらしく、山賊たちは何も取らずに去っていった。
こうして移動を続けること数日。
あと少しの所でフェンネルの街である。
ここでクリスがあることに気づく。
「何か様子が変だ」
「変って?」
「街から出てくる住人が多い……」
言われてみれば、フェンネルに向かう人間はクリスたちのみで、そのフェンネルからは人がぞろぞろと出てきていた。
クリスは近くにいた住人らしき人に話を聞く。
「すいません、ちょっといいですか?」
「なんです?」
「フェンネルから人が流れ出ているようですけど、一体何があったんですか?」
「あんたら何も聞いてないんですかい?この間宣戦布告を受けたせいで、敵の軍勢がフェンネルに来るってことだから、みんな逃げているんですわ」
「でも、フェンネルは辺境領だから軍備は万全では?」
「確かにそうかもしれんが、なんでも風の噂では帝国の半分の領土がやられたっていうじゃねぇか。そのうち大公国も壊滅的な被害を受けるかもしれねぇ。そしたら次はフェンネルだ。こうなったら俺たちの身は保障できねぇ。そうなる前に逃げるってわけですわ」
そういって住人はフェンネルを離れて行く。
クリスは離れていく住人の後ろ姿を眺めているしかなかった。
そしてその様子をペトラは若干俯きながら聞いていた。
クリスたちの車列がフェンネルに入ると、すぐさまパトリックが出迎える。
「久しぶりだな、クリスよ」
「お久しぶりです、フェンネル卿」
「早速だが、クリスに頼みたいことがある」
「なんでしょう?」
「簡潔に言えば、フェンネル防衛のための装備を整えてほしい」
ある意味無茶な要求である。
「我々の持つ軍事力では、侵攻する敵勢力に対抗できるか分からない。そこでせめてフェンネルの街だけは防衛できるようにしたい」
「分かりました。どうにかしてみます」
そういってクリスはフェンネルを囲む城壁の上に上る。
このような場所では、どんな武器が防衛に合っているのか。
クリスはスキルを発動して、その答えがないか探した。
そしてクリスはあるものを召喚する。
ボフォース40mm機関砲だ。
これを城壁の上にズラッと並べる。
それに合わせて、弾丸も大量に召喚した。
これでひとまずは問題解消に至るだろう。
その他にも、クリスはパトリックから様々なことを相談された。
必要なマスケット銃の数やそれの改良、また、ホーネット中隊との連携も確認した。
こうすること1週間。
クリスの元に一人の伝令がやってくる。
「国王陛下より命令です」
そういって一つの封筒を渡す。
「どれどれ?」
クリスがその中身を確認すると、次のように書かれていた。
『ホーネット中隊が中心になって冒険者と共に、モルドー大公国に侵攻している魔物の群れを討伐せよ。この作戦は大公国軍が指揮を執るため、ホーネット中隊と冒険者はその隷下に入るように』
冒険者と共に行くことにクリスは一抹の不安を感じたが、国王陛下の命令ならば逆らえない。
1週間後に出発ということで、クリス達は準備を始めたのだった。
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