第36話 要撃

 1週間がたち、フェンネルには冒険者が続々と集まってきてくる。

 その中には、もちろんのようにステファンのパーティーもいた。

 彼らのパーティーのランクはS、駆り出されて当然とも言えるだろう。

 この日、クリスは冒険者の整理に駆り出されていて、ばったりと彼らと出会った。


「やぁ、ステファン」

「クリス……」


 クリスはなんともないような感じで声を掛けるが、ステファンは苦虫を噛みつぶしたような顔をする。

 ここでクリスはあることに気が付く。


「ステファン、剣持ってないんだね?」

「ふん。誰のせいで剣をなくしたと思うんだ」

「また創ればいいのに」

「あれを創るのにどれだけ労力を掛けたと思ってるんだ!」


 そういってステファンはキレる。


「アダマンタイトを採掘してくるだけでも相当時間がかかったのに、また創れというのか!」


 ステファンはアダマンタイトの採掘に相当苦労したようで、その怒りの矛先をクリスに向ける。


「クリスが取ってきてくれるならまた創ってもいいんだがな!取ってこれるならな!」


 まるで挑発のように、ステファンはクリスに罵声を浴びせる。

 クリスはそれに一つ溜息をつくと、スキルを使ってアダマン・ソードを召喚した。


「ほら」

「こ、これは……」

「ステファンのアダマン・ソード」

「そんなのは分かってる。なんでまた持っているんだ?」

「なんでって……。前も言ったでしょ、比較的なんでも召喚できるって」

「聞きたいのはそういうことではないのだが……」


 ステファンはクリスの召喚したアダマン・ソードを受け取る。


「今度は受け取るんだ。前は施しは受けないって言ってたのに」

「うるさい。状況が変わったんだ」


 そういってステファンはアダマン・ソードの状態を確認する。


「……なにか変な改造を施してるわけではないよな?」

「なんでわざわざそんなことしないといけないんだ?」

「……まぁいい」


 そういってステファンは剣を装備すると去っていく。

 クリスはステファンの後ろ姿を見送ると、続きの作業をしていく。

 こうして冒険者が集結し、準備は整った。

 エルメラント王国とモルドー大公国の国境付近までやってきたホーネット中隊と冒険者たちに、パトリックが激励をかける。


「これから行く先には困難も待ち受けていることだろう。だが、国王陛下からの命令は確実に遂行してもらいたい。敵は魔物の群れ。冒険者諸君にとっては最も慣れている敵だろう。だが油断はしてはならない。これは戦争なのだから」


 そういってパトリックはフェンネルへと戻っていく。

 ここからはクリスが引き継ぐ。

 国境の向こう側では、すでに大公国軍が待機していた。


「では行こうか」


 クリスは大公国軍の案内の元、目的の戦場に向かう。

 国境を越えて2日、敵の予想会敵地点にやってくる。

 ここで大公国軍から今回の作戦について説明が入った。


「魔物の群れは現在大公国領地内を直線的に移動しています。我々はここで魔物の群れの進軍を止めることが目的です。進軍が止まれば、わが軍の魔術部隊と傭兵が側面及び後方より攻撃します」

「我々が倒すのはダメなんですか?」

「別に倒してもらっても構いませんが、斥候の情報によれば相当数の魔物の群れがいることが確認されています。現実的に考えるならば、倒すのは得策ではありません」

「分かりました。その確認ができれば結構です」


 そういってクリスは待機していた冒険者に、今回やるべきことを説明する。


「……以上が今回、冒険者にやってもらうことです。皆さんには負担を強いるかもしれませんが、最善を尽くしてください」


 そういって冒険者たちは配置に就く。

 場所はだだっ広い草原で、地平線には鬱蒼とした森林が広がっている。

 その草原の中で、冒険者たちとホーネット中隊は魔物の群れが来るのを待っていた。

 すると、森の中から地鳴りのようなものが聞こえてくる。

 そして森から、魔物の群れが飛び出してきた。

 魔物はこれまで存在が確認されていない6本足の獣のようにも見える。

 その数、約1000。

 最初はホーネット中隊SUS-8小隊の30mm重機関砲による攻撃だ。


「射撃用意、撃て」


 クリスの合図で重機関砲が火を噴く。

 弾丸は群れの先頭に着弾し、相当の数を肉片に変える。

 それでも魔物の群れは狼狽えずに、愚直にまっすぐ突っ込んでくる。

 SUS-8小隊による攻撃が終わると、今度は冒険者の番だ。


「行くぞぉ!」


 冒険者の中では唯一かつ一番実力のあるSランクパーティーのステファンが叫ぶ。

 それに呼応するように、冒険者たちは雄たけびを上げて魔物の群れに突撃する。

 ある者は大槌を振るって魔物を叩き潰し、ある者は魔法によって魔物の肉体を燃やし尽くす。

 ステファンも貰ったアダマン・ソードを使って魔物の群れを斬っていた。


「サウザンド・カリバー!」


 千の斬撃を使って、複数の魔物を切り刻んでいく。

 この時、ホーネット中隊は後ろに陣取っており、冒険者が倒し損ねた魔物を攻撃するために待っていた。

 すると早速、冒険者たちの隙間から魔物が飛び出してくる。


「機関銃隊、攻撃始め」


 M2重機関銃による射撃が行われる。

 幾分外皮が装甲になっていたが、そのうち魔物の肉体を貫通していく。

 そして魔物は地に伏せる。

 こうして冒険者が中心となって魔物の群れを足止めした。

 すると、上空から光の槍が降ってくる。

 それらが魔物の群れに刺さり、かなりの数を倒した。


「我が軍の魔術部隊の到着です」


 そばにいた大公国軍の兵士が告げる。

 すると今度は、何百本にもなる火の矢が飛んでくる。

 これによって魔物の群れの何割かが倒された。

 しかし、この状況になっても魔物の群れはただただ真っ直ぐ草原を突き抜けようと移動を続けていた。


「なんか様子がおかしいな」


 クリスは何か違和感を感じた。

 それは、普通の魔物ならとっくに逃げているような状況なのに、その様子が一切見られないのだ。

 これは何か異常性があるとクリスは感じる。

 ここでクリスは捕獲を試みた。

 SUS-8に乗り込み、前線に出る。

 魔物の群れのうち、比較的小さめの魔物を捕獲した。

 クリスはスキルの中から、中脅威生体保管コンテナを召喚し、そこに魔物を収容する。

 そのタイミングで後ろに回っていたモルドー大公国の傭兵たちが飛び出してくる。

 傭兵たちも加わり、魔物の群れは一気に数を減らす。

 最後の一匹を倒した所で、今回の作戦は終了だ。


「敵の殲滅を確認しました。ひとまず作戦は成功です」


 そう大公国軍の兵士が言う。

 冒険者たちとホーネット中隊が撤退の準備をしている時だった。

 大公国軍の伝令がやってくる。


「緊急伝令!近くの街が魔王軍と思しき魔物の群れに襲撃されている模様!至急増援を求む!」


 どうやら、ここから数km離れた街で、魔王軍の強襲があったようだ。

 それを聞いたクリスはすぐに動いた。


「SUS-8小隊は直ちに準備!街の救援に向かう!ほかのホーネット中隊は撤収作業が終了次第街に向かえ!」


 そういってクリスはSUS-8小隊を引き連れて街へと向かった。

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