第34話 緊迫

 この日、クリスはSUS-8小隊の1機を使って、自機のSUS-8の修理をしていた。


「もうちょっと上げて。そう、そのまま寄って」


 クリスは右腕の肩関節から下を取り外し、そこに新しい右腕を取り付ける。

 そのために、同じSUS-8に腕を持ってもらっているのだ。

 関節部に近づけた腕は、クリスの手によって止められていく。

 右腕の関節を軽く止めると、次は左足の換装である。

 装甲板がやられたので装甲板を変えればいいと思うのだが、残念なことに装甲板を含めた周辺のフレームが曲がっているため、そのまま利用することは困難だと判断した。

 そのため、左足も同様に関節から取り外し、換装し直す。

 こちらも簡単に取り付けると、本止めに入る。

 ちょこちょこSUS-8に手伝ってもらいながら修理を続けた。

 関節部分を完全に固定すると、今度は配線を接続し直す。

 そういった作業を丸一日かけてSUS-8の修理をした。

 翌日以降はSUS-8の性能確認のため、いろいろな動きをする。

 それこそ走ったり、ジャンプしたり、匍匐前進をしたり……。

 そういった確認作業のおかげで、無事クリスのSUS-8は再び使用できるようになった。

 そのほかにも、他のSUS-8小隊の機体の整備をしたり、M4カービンの整備を手伝ったりと比較的平和な日々を過ごしていた。

 そんな中、クリスの元にとある人物が尋ねてくる。


「私はフェンネル辺境伯の命によって伝言を伝えにきた使者です」

「フェンネル卿が?」

「はい。その他にも国王陛下にもお伝えしたいことがあるため、謁見の許可を求めたいと思います」

「分かりました。とにかく、その内容を話してくれませんか?」

「えぇ、もちろんです」


 そういって使者はクリスにフェンネル卿からの伝言を聞いた。

 それを聞いたクリスは深刻な顔をする。


「それは本当ですか?」

「えぇ。間違いありません」

「ウォード中尉、すぐに国王陛下との謁見を調整してください」

「分かりました」


 そういって翌日には謁見の場が設けられた。

 クリスと使者は国王陛下の執務室に通される。


「急に謁見を求めるとは、一体どうしたかね?」

「実はフェンネルから来たこの使者が、重要な情報を持っているのです」

「ほう。その重要な情報というのは?」


 そういうと、使者が一歩出て話し始める。


「我が辺境伯軍がオードー帝国内で防諜活動を行っていた所、帝国領土南部で不穏な動きをしていることを確認しました」

「ふむ。それで?」

「かねてより、帝国領土南部では統率された魔物の群れが確認されているなど、以前よりその動向は注視していました。そして我々は徹底的な現場を押さえることに成功しました」

「その現場とは?」

「魔物の群れがモルドー大公国に向けて移動を開始したのです。そしてそのままモルドー大公国の国境を越えていったのです」

「なんと。まるで戦争ではないか」

「そうです。しかし、これ自体オードー帝国も想定外のようだったようで、慌てて討伐部隊を南部に差し向けたようです」

「ふむ。もし魔物の群れがやってくるとなると我々も相応の準備を整えねばならんな」


 そんな話をしている所に、侍従が勢いよく扉を開けてやってくる。


「陛下!大変です!」

「どうした?」

「オードー帝国から重要な通達が!」

「申してみよ」

「はい!『我が帝国は南部にて蜂起した武装集団に宣戦布告を受けた。武装集団は現在モルドー大公国を蹂躙し、エルメラント王国へ抜ける模様』、以上です!」

「先の重要な情報と繋がるな」

「えぇ、これは対策を講じなければいけませんね」

「あぁそうなるだろう」


 その時、その場にいた人間、いやエルメラント王国にいた全ての人間が耳鳴りのような音を聞く。

 直後、頭を締め付けるような感覚がすると同時に、頭の中に直接声が流れ込んでくる。


『我は新世界の魔王。この世界を作り変えるために生まれた存在。我の目的はただ一つ。この大陸の国家を蹂躙し、新世界王国を樹立することにある。故にエルメラント王国には、我が理想のために消えてもらう。これは独立戦争だ』


 頭の中でガンガン響くような声。

 声の主は自分の要件を一方的に伝え終わると、頭の締め付ける感覚がスッとなくなる。


「国王陛下、今のは?」


 クリスは国王陛下に尋ねる。


「……オードー帝国の言っていた武装集団による宣戦布告と見て間違いないだろう。おそらくオードー帝国もこのように布告を受けたのだろうな」


 国王陛下は冷静に判断する。


「それよりも陛下、どのようにしましょう?」


 侍従が尋ねる。


「うむ。ひとまずオードー帝国とモルドー大公国と今後のことについて会談がしたい。ホットラインを用意してくれ」


 そういって国王陛下は侍従に指示する。


「クリスよ、お主は詰所に戻って出動準備に入ってくれ。もしかすると出兵する可能性が十分にある」

「わかりました。可能限り準備を整えておきます」


 そういってクリスは執務室を出た。

 詰所に戻ったクリスはホーネット中隊を集め、事情を説明する。


「そのような事情があるため、我が中隊は出兵することを前提に準備する。各自必要なものを用意し、待機してくれ」


 解散したクリスの元にエレナたちがやってくる。


「クリス、大丈夫なの?」

「ん?あぁ、多分大丈夫だろう」

「でも私、フェンネルのことが気がかりです」

「私もー……。この武装集団ってのが気になるー……」


 エレナは心配し、ペトラとティナは故郷と敵について考えていた。


「大丈夫、何とかなるって」


 そうクリスは元気づける。

 しかし、今後のことについてはクリスも不安を隠しきれない。

 クリスは最善の策を尽くすように、心の中で誓う。

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