第33話 終結

 身柄を憲兵隊に渡し、クリスは合同司令部に戻る。

 司令部に入ると、近衛師団司令官がクリスのことを出迎えてくれた。


「よくやったホーネット君。君のおかげでクーデターは未遂の形で終わった」

「そうですか」

「だが、未遂と言っても首相や大臣たちは暗殺されてしまった。これは我々の至らぬ点であろう」

「そう、ですね」

「あとは我々が後処理をしよう。それと国王陛下からすぐに来るように連絡が来ている」

「国王陛下が、ですか?」

「あぁ。おそらく今回のことに関してお礼でもいうのだろう」


 早速クリスは宮殿に向かう。

 国王陛下の元にはすぐに通された。

 今回は謁見の間ではなく、国王陛下の執務室に通される。


「よく来た、クリスよ」


 そういって国王陛下は出迎える。

 国王陛下は執務室にあるソファに座るように促す。


「今回のクーデターの件、よくやってくれた」

「いえ、自分一人の力ではなんとも出来ませんでしたよ」

「そう謙遜するな。もしクリスがいなければクーデターは成功していたかもしれん。そういった意味では今回の働きは賞賛に値する」


 国王陛下は直々にクリスのことを褒めたたえる。

 実際その通りで、素早く部隊を展開した独立部隊によって宮殿には大きな損害は出ていない。


「しかし、首相以下数名の暗殺を止めることは叶いませんでした」

「うむ、確かにそうだろう。だがクリスがそれで自分を責めることはない」


 クリスは国王陛下に諭される。


「なに、今回のクーデターで失った人材は新たに補填する。すぐにでも新内閣を組閣するつもりだ。クリスの気に病むものではない」

「……はい」

「さて、クリスには後で特別手当でも支給しよう。これで話は以上だ」


 こうしてクリスは執務室を後にする。

 続いてクリスは向かったのは、憲兵隊の詰所だ。

 先日、ステファンとの戦闘について詰所に来るように言われてたからである。

 詰所で要件を話すと、奥へと案内された。

 取調室のような場所に入ると、そこに憲兵がやってくる。


「ホーネット少佐、お忙しいところ出頭ありがとうございます」


 そういって憲兵は敬礼をする。


「今回のお話は冒険者の公務執行妨害の件についてですが、よろしいですか?」

「えぇ」

「まずはホーネット少佐側の経緯についてお話願います」

「自分は近衛第3師団のクーデターを抑えたところでした。逃げていく近衛第3師団を追いかけていたところ、突然横からステファンが斬りかかってきたんです。その後はステファンと交戦をしました」

「ふむ。ステファン・ドラゴニクの言い分では、クーデターが発生したため現場に急行した所、兵士と共に逃げていくホーネット少佐の姿を確認したためやむなく交戦したと証言しています。同じパーティーメンバーであるテニー・ロイとセシリア・ホワイトも同様の証言をしています」

「自分はこれのあった後、クーデターの鎮圧に向かっていたので証明できる人はいると思いますけどね」

「確かにホーネット少佐はクーデター鎮圧に尽力していました。ですがそれを証明する方法がないとも言えます」

「というと?」

「ステファン・ドラゴニクが斬りかかる前後では、ホーネット少佐の様子を見ていた人は何人かいました。しかし、斬りかかった瞬間を見ていた者はいないんです。これでは当時の現場がどうなっていたのか分かりかねます」

「つまり?」

「証拠不十分です」


 憲兵ははっきり言う。

 しかしクリスもなんとなく納得してしまう。


「まぁ、もう少し捜査すれば何か出てくるのでしょうが……」


 そういって憲兵は言葉を濁す。

 おそらくこれ以上の証拠が出てくるとは思わないのだろう。


「分かりました。これはこれでいいとします」

「いいんですか?」

「えぇ。これ以上やっても不毛な争いだと思いますし」

「ホーネット少佐がそれでいいのなら構いませんが……」


 そういって憲兵は取調室を出ていく。

 しばらくして憲兵が戻ってきた。


「ステファン・ドラゴニク以下三名は証拠不十分である上、口頭注意ということで釈放しました。ホーネット少佐も出てもらって構いません」

「分かりました」


 そういってクリスは憲兵隊詰所を出る。

 その後はいろいろとあった。

 捕らえられたカスベルはクーデター首謀者の一人として取り調べを受ける。

 その際、クリスに寄越した手紙のような供述をしたという。

 またその際、クリスもクーデターに参加してくれるという希望的観測を行っていたことが発覚し、クリスも事件に関与していると考えられ捜査の手が加わった。

 クリスは手紙を証拠物件として提出、捜査に協力する。

 結果、クーデター鎮圧に翻弄したことが評価され、クリスは無実であることが証明された。

 こうして1ヶ月ほどの時間を使って、クーデターの全貌を捜査する。

 そして結論が出た。

 それは近衛師団詰所にいたクリスの元に届けられる。


「『近衛第2師団長カスベル・トーマス・ジャックは本事件の首謀者及び国家転覆を目論んだ罪として銃殺刑に処す。また、本事件を企てた将校以下23名は同様に国家転覆を目論んだ罪で禁固刑に処す。その他下士官の一部は罪が確定次第刑に処す』、とのことです」

「まぁ、そうなるだろうね」


 クリスは外の訓練の様子を眺めながら、ザックの報告を受ける。

 こうして王都を襲った騒乱は、いくつかの傷跡を残しながら幕を閉じたのだった。

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