第32話 対話

 近衛師団詰所に戻ったクリスを、ザックが出迎える。


「ウォード中尉、状況は?」

「ホーネット少佐。現在反乱軍とは膠着状態にあります」


 そういってザックは地図を出す。


「宮殿を取り囲んでいた反乱軍は現在撤退している模様です。これが原隊に復帰したかどうかは不明です。一方で官邸及び私邸を強襲した部隊は行方を眩ませています。そのため、宮殿城門では引き続き警戒をしています」

「彼我の損害は?」

「反乱軍は歩兵数十名の重軽症者が出ています。現在野戦病院を設営し、治療に当たっています。一方で我がホーネット中隊の損害は軽微です。強いて言うなら、弾薬の補給が底を尽きそうというくらいですかね。急な出来事でしたから」

「分かりました。弾薬の補給についてはあとで追加しておきます」

「それと、近衛師団司令部庁舎にて、憲兵隊と近衛師団による臨時の合同司令部が明日にでも設置される予定です。ホーネット少佐も参加してもらうとのことです」

「了解です」


 ひとまず、今日の所は宮殿の警戒を行って終了した。

 翌日、クリスは近衛師団の司令部庁舎に向かう。

 合同司令部のある部屋に入ると、そこには憲兵隊、近衛第1師団長、そして近衛師団司令官がいた。


「君がホーネット君か」


 そういって近衛師団司令官が寄ってくる。


「よく来た。早速だが、これを見てほしい」


 そういって司令官は壁に掛けられた地図を指し示す。


「現在、反乱軍は王都北部郊外にある駐屯地に潜伏し、現在もここに立て籠ってることが憲兵隊の偵察によって判明した。ホーネット中隊は、宮殿の警備を近衛第1師団と憲兵隊に任せ、残りの憲兵隊と共に反乱軍の鎮圧及び首謀者の逮捕をお願いしたい」

「分かりました。どこまでやっていいですか?」

「どこまでというと?」

「最悪、建物を破壊するとか」

「建物の破壊はちょっと困るな。壁に傷をつけるくらいなら問題はないが……」

「分かりました。善処します」


 そういってクリスは司令部を出る。

 クリスは参謀班を通じて、それぞれの部隊に近衛師団詰所に集合するように通達した。

 数十分後には憲兵隊と交代したホーネット中隊が1日ぶりに集結する。

 クリスは中隊に対して演説する。


「これから反乱軍の潜伏しているとされる駐屯地に向かう。各自気を引き締めていけ」


 そういってクリス率いるホーネット中隊は、憲兵隊と共に目的地へと向かった。

 1時間もすれば、目的の駐屯地へと到着する。

 そこでは下士官が駐屯地をぐるりと取り囲むように警戒に当たっていた。

 ここで憲兵隊から降伏をするように促す。

 すると、何人かの下士官が疑問の顔をしながらこちらにやってくる。

 憲兵隊は彼らから話を聞く。


「どうやら近衛師団司令官からの命令で動いていたと思っていたようです」


 命令を受けるだけの下士官からしたら、上官の命令は絶対である。

 そこを突いた行動を起こしているのだろう。

 しばらくして、駐屯地周辺を警備していた下士官は、皆原隊に戻っていった。

 そんな中、駐屯地内を捜索していた憲兵隊から、駐屯地にある中央庁舎に首謀者と思しき連中が立て籠っていることが判明した。


「エレナ隊は裏口で待機、ペトラ隊は正面から突入準備、ティナ隊は後方で遊撃を担当。SUS-8小隊と機関銃隊は中央庁舎を均等に取り囲め」

「了解です」


 ホーネット隊が配置につくと、まずは憲兵隊の説得から始まる。


「我々は憲兵隊及び近衛師団による合同部隊である。我々の目的はただ一つ、貴官ら反乱軍の鎮圧である。これは国王陛下直々の命令である。今なら間に合う、原隊に復帰するものは今すぐ庁舎から出てほしい」


 憲兵隊の呼びかけがあってからしばらくすると、庁舎の中から叫び声が聞こえてくる。

 その直後、庁舎から慌てふためいたように兵士が何人か出てきた。

 憲兵隊が彼らを保護すると、兵士はおっかなびっくりした様子で事情を説明する。


「お、俺たち国王陛下と議会が外患行為をしているって聞いていたのに、本当のことを聞こうとしたら、れ、連隊長が斬ってきやがった!」


 先ほど駐屯地を警備していた下士官たちと同様に、何も知らずに連れてこられクーデターに参加させられたようだ。

 先ほどの叫び声も、誰かが将校に斬られたのだろう。

 これは一刻の猶予もない。


「時間の問題です。いつ将校が下士官を人質にとってもおかしくありません。すぐに突撃しましょう」

「しかしだな……」

「悩んでいる場合ではありません。幸いにも、我々は庁舎を取り囲んでいます。決行するなら今かと」


 クリスはそう憲兵隊に進言する。

 最初は渋った憲兵隊も、ようやく承認した。


「分かった。歩兵小隊を突撃させてくれ。あくまでも首謀者と思われる将校の身柄の確保が優先だ」

「分かりました」


 クリスはペトラの元に向かう。


「と、いうわけだ。うまくやってくれ」

「分かりました。失態は演じないようにしますわ」


 そういってペトラは庁舎の入口に向かう。

 ペトラ隊の兵士も移動する。

 入口に張り付くと、一人が勢いよく扉を蹴とばした。

 そのままペトラを先頭に庁舎の中を進む。

 慎重に進んでいくと、大ホールのほうで声が聞こえてくる。

 兵士たちは入口を固め、扉を勢いよく開ける。

 そこに将校数名と、下士官数十名がいた。


「その場を動かないで!あなたたちをクーデターの首謀者として確保します!」


 ペトラがその場にいた者に言う。

 その瞬間将校たちは剣を抜き、こちらに向かってきたり、下士官を人質に取ったりした。

 向かってきた将校に対しては、正面にいた兵士の射撃によってあっさり止められる。

 だが下士官を身柄に取った将校は抵抗を見せる。


「仕方ないですね」


 そういってペトラは剣を構える。

 そしてスキルを発動した。

 素早い動きで将校の後ろを取ったペトラは、将校に対して柄で攻撃をする。

 まともに食らった将校は、気絶し、その場に倒れてしまった。


「さて、あなたたちの身柄は拘束します。我々の指示に従ってください」


 こうしてクーデターは首謀者の確保という形で終了したのだった。

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