第31話 対戦

 クリスとステファンがにらみ合った状態が数秒続く。

 その間、テニーとセシリアはただ見ているだけであった。

 ステファンから一切の手出しをしないように言われているためだ。

 静寂を破ったのはクリスのほうからだった。

 クリスがステファンに向けて2発射撃をする。

 それをステファンは動いて避けなかった。

 飛んでくる弾丸に対して、剣を正確に入れる。

 それによって弾丸は剣に沿って弾かれた。

 ステファンの剣に使われるアダマンタイトは、ダイヤモンドと同等に硬度を持ち合わせていながら、ダイヤモンドの弱点である瞬間的な衝撃にも強い。

 そのため、うまくやれば弾丸も弾くことも可能なのだ。


「くっ!」


 トーラス・レイジングブルの残弾がなくなったところで、クリスはM4カービンに持ち換える。

 そのままステファンに向けて撃ちまくった。

 ステファンは剣を正面に立て、叫ぶ。


「プロテクト・カリバー!」


 ステファンの剣が残像を伴って、正面に円形の壁のようなものを生成する。

 それによってステファンに向けられた弾丸はすべて防御された。

 弾丸をすべて撃ち切った所で、クリスは次のマガジンを装填する。

 その隙に、ステファンはクリスに急接近する。

 クリスが装填を終えると、ステファンはすぐ目の前で突きをしようとしていた。

 クリスは反射的に身を捩り、突きをかわす。

 そのままクリスはSUS-8から飛び降り、距離を取ろうと全力で走った。

 だがステファンはそれを逃すわけなく、飛んで斬りかかる。


「逃げるな反逆者!」


 ステファンは力任せに剣を地面に叩きつける。

 剣はクリスの右そばに刺さり、クリスもろとも吹き飛ばす。


「ぐっ!」


 クリスは反動でバランスを崩し、地面を転がった。

 ステファンは地面から剣を抜き、ゆっくりとクリスへと歩み寄る。


「クリス!」


 そこに、ペトラが加勢しにやってくる。

 ペトラはスキルを発動した。

 ペトラのスキルは「剣術」。

 武術に精通したペトラだからこそ使えるスキルだ。

 ペトラはステファンに対して、目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出す。

 しかし、ステファンはその斬撃をいとも簡単に防いでいく。


「なっ!?」


 ペトラは驚愕した。

 並大抵の人間では、この攻撃を防ぐことはほぼ不可能であったからだ。

 ステファンはペトラの斬撃を止めると、首を手で掴む。

 そのままペトラのことを持ち上げてしまった。


「うっ、ぐぅ……!」

「やはり君は筋がいい。改めて僕たちのパーティーに招待したいくらいだ。いや今すぐ来てもらおう」


 そういってステファンはペトラを投げ捨てる。


「この反逆者を殺してからなぁ!」


 そういってステファンはクリスのほうを向く。

 クリスはステファンを撃とうとする。

 しかし、また弾丸を止められてしまうかもしれない。

 クリスは祈るような思いでスキルを発動し、この状況を打破できる道具がないか探す。

 そして一つ見つけた。


「サウザンド・カリバー!」


 ステファンはクリスに攻撃を仕掛ける。

 千もの斬撃に、もはや逃げ道はない。

 そう思われた。


「プロテクト・カリバー!」


 そうクリスが叫んだ。

 斬撃はクリスの召喚した剣によって防がれる。

 ステファンは驚きを隠せない。


「なぜクリスが僕の技を……!」


 斬撃によって発生した土煙が晴れると、そこにはある剣を持って立つクリスの姿があった。

 その手には特徴的な剣が握られている。


「そ、その剣は!」


 ステファンは気が付く。

 クリスの召喚した剣は、ステファンの持つアダマン・ソードと瓜二つだったからだ。


「それは僕の剣だ!なぜクリスが持っている!?」

「さぁ、なんでだろうな」


 そういってクリスは剣を構える。


「だが、いいことを教えてやろう。俺のスキルは比較的なんでも召喚することができるみたいだぜ?」

「この……!図に乗るな反逆者風情が!」


 そういってステファンはクリスに突撃した。

 二つの剣が激しく交わる。

 クリスはステファンと互角の勝負をするが、冒険者学校主席で卒業したステファンにはかなわず、クリスは防戦一方を余儀なくされていた。


「ほらほらクリスゥ!そんな腰抜けな剣裁きじゃ僕を倒すことなんて出来ないぞ!」

「っせぇ!」


 同じ形状の剣がつばぜり合いをする。

 ステファンが一度、剣を振り払い、距離を取る。


「これで終わりにしてやる」


 そしてステファンは剣を正面に持つ。


「ミリオン・カリバー!」


 それは、サウザンド・カリバーをも超える百万の斬撃。

 プロテクト・カリバーをもってしても、すべてを防ぐことは叶わないだろう。

 だが、それでもクリスは冷静でいた。


「モード反転、ザ・ビースト・カリバー」


 その瞬間、純白のアダマン・ソードは深紅色に変色する。

 クリスがそれを一振りしただけで、ステファンの斬撃のほとんどを跳ね返してしまう。


「なっ!」


 ステファンは驚きを隠せなかった。

 クリスの呟いた技にまったくの心当たりがなかったからだ。


「くそったれがぁ!」


 ステファンは素早く体勢を立て直すと、続けざまにミリオン・カリバーの斬撃を繰り出す。

 その斬撃を、クリスは獣のごとく力任せに叩き斬る。

 二つの剣が目にも止まらぬ速さで交じり合う。

 そしてその時はやってきた。

 どこからともなくピキッと音がする。

 やがてその音は大きくなり、ついには弾ける音になった。

 双方の剣が折れたのだ。


「なにっ!?」


 ステファンは何度目かの驚きである。

 攻撃の手段をなくしたステファンは、いったん下がろうと後ろに飛ぶ。

 しかし、クリスはこの瞬間を見逃さなかった。

 クリスはM4カービンを持ち、ステファンに向けて射撃する。

 ステファンにはアダマンタイトで出来た鎧を装備していた。

 M4カービンの弾丸を通すとこは出来ないだろうが、弾丸が着弾した際に体が受ける衝撃は通過する。

 そのため、ステファンの体には着弾と同等のダメージが入っていた。

 そのような攻撃を後ろに飛んでいる最中に受けたため、ステファンは着地に失敗する。


「うぐっ……」


 ステファンが地面に倒れたことを確認したクリスは射撃をやめる。

 クリスがM4カービンを構えながらステファンの所に寄っていく。

 ステファンは気絶しているようで、全く動く気配がない。


「クリス!」


 そこにペトラがやってくる。


「ペトラ、そっちは大丈夫か?」

「えぇ、大丈夫です。それよりもどうしますか」


 そういってペトラはステファンのことを指さす。

 そこにテニーとセシリアがやってくる。


「ステファン!」

「止まれ!」


 クリスはM4カービンを二人に向け、制止するように言う。


「お、俺たちが何したっていうんだよ?」

「そうよ、私たち何もしてないじゃない!」


 二人は弁解をする。


「ステファンは俺のことを攻撃した。これは立派な公務執行妨害だ。二人にはステファンに加担した疑惑がある」

「そんなの言いがかりに過ぎないじゃないか!」


 両者が言い争っているところで、城門のほうから複数人の憲兵がやってくる。


「どうかしましたか?」

「そこに転がっている男含め、彼らに公務執行妨害の疑いがかかっています」

「俺たちは何もしていません!」

「そうよ!」


 クリスはステファンの罪を説明するが、テニーとセシリアはそれを否定する。


「まぁとにかく、今は非常事態ですので詳しくは詰所で話を聞きます」

「それってクリスも一緒でしょ?」

「少佐のことですか?少佐はクーデター鎮圧のため後ほど出頭してもらえると助かります」


 そういって憲兵たちはステファンを抱えて連れていく。

 テニーとセシリアは抗議するものの、その願いは聞き届かずに連れていかれた。

 残っていた憲兵の一人がクリスに敬礼する。


「現在のクーデターの状況です。一部城門を突破されましたが、遊撃していた歩兵小隊によって鎮圧、宮殿への接近を阻止しました」

「ティナのところだな」

「首相官邸、及び関係大臣私邸では暗殺が成功した模様で、我々が到着した時点でもぬけの殻でした」

「ジャック師団長は?」

「我々で身柄を捕獲しました。出血がひどいですが、意識はあるようです」

「分かりました。我々は引き続き宮殿の防衛に当たります」

「了解です」


 そういって憲兵は去っていく。


「というわけだ、ペトラ。もしかしたら首相官邸を襲った部隊がこっちに来るかも知れない。遊撃隊としてこの周辺の防衛に当たってくれ」

「はい。クリスは?」

「あれをどうにかしてから詰所に戻るよ」

「分かりました」


 そういってペトラは自分の歩兵小隊の元に行く。

 クリスはSUS-8の残骸へと歩み寄る。


「全く、大変なことをしてくれたな」


 そういってクリスは高次元空間小型格納コンテナにSUS-8の残骸を収め、詰所へと戻っていった。

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