第27話 謁見
「国王陛下にですか?」
「そうだ」
クリスは若干困惑している。
「ちなみに理由を聞いてもいいですか?」
「単純な話だ。君の力は冒険者として取っておくにはもったいない。我々と共に戦ってほしいのだ」
カスベルはそう力説する。
「まぁ、そこまで言うのなら……」
「本当か、ありがたい」
カスベルはすぐに机に向かう。
「早速国王陛下に会って貰おう。明後日でいいか?」
「えぇ、まぁ」
「もちろん、そちらのお嬢様方も一緒に謁見してもらう」
そうしてとんとん拍子に話が進む。
結果、二日後には謁見できるように会場がセッティングされた。
「では二日後、またここで会おう」
そういってクリスたちは解放された。
「何だったんだろう……」
「さぁ」
「とにかく二日後にまた来ればいいんですね」
「うわー、なんか緊張するなー」
こうしてクリス一行は王都の宿屋に向かうのだった。
翌日はシーゴブリンの駆除依頼の報酬を受け取りに、冒険者ギルドを訪れる。
「あぁ、ホーネットさん」
受付の人はクリスに気が付いて、声をかけてくる。
「どうも」
「今日はどんな用事で?」
「この間の国王陛下からの依頼の報酬を受け取ろうと」
「分かりました。少々お待ちください」
そういって受付の人は奥へと消えた。
少しして小袋を持って現れる。
「はい。依頼の基本料と依頼達成料、合わせて銀貨35枚になります」
「結構くれるんだな」
「はい。今回は想像以上に駆除が出来たとのことなので、報酬が若干上乗せされています」
「ま、こっちとしてもありがたいけどね」
そういってクリスは懐に小袋をしまう。
「ところで、また変な噂が立ってますよ」
「今度はどんな噂で?」
「どうも鉄の巨人を使役して大暴れさせたとか」
「語弊がすごいな」
実際、鉄の巨人であるSUS-8は使役しているのではなく操縦している。
しかし、パッと見の違いが分からない一般の冒険者にとってはそう見えるのかもしれない。
「間違っちゃいないけど、合ってもいないな」
「そうなんですか」
「てか、その噂どこから立ってるんだ?」
「そりゃもう、いろんな冒険者が言ってますし」
大衆によって形成されるイメージとは怖いものだ。
クリスたちは冒険者ギルドを後にした。
そしてまた翌日。
クリスたちは近衛師団の司令部庁舎を訪れる。
「やぁ、ホーネット。待っていたよ」
カスベルが出迎える。
そのまま宮殿へと案内された。
宮殿は豪華絢爛で、一般庶民であるクリスにとっては馴染みのない場所だ。
謁見の間に案内されると、そこにはズラリと騎士が並んでいた。
部屋の奥中央には、玉座が鎮座しており、そこに一人の男性が座っている。
カスベルは右ひざをつき、頭を下げた。
「国王陛下、急な謁見をお許しくださりありがとうございます。ここにお客様をご案内しました」
「うむ、ご苦労」
そういってカスベルは下がる。
クリスたちは直立不動で国王と対峙する。
「よくぞ来た。我はエルメラント王国第14代国王、ドーボウ4世だ」
「はい、存じ上げております」
クリスは姿勢を正し答える。
「お主がクリス・ホーネットか?」
「はい」
「そちらにいるのは仲間かね?」
「はい。同じパーティーメンバーのエレナ、ペトラ、ティナです」
ここで、国王はペトラに目をやる。
「ペトラと申したな。お主、もしやフェンネル辺境伯パトリックの娘か?」
「その通りでございます」
「そうか。パトリックとは古い友人だ。その娘とこうして会えるとは喜ばしいことぞ」
「私も国王陛下とお会いできて光栄です」
ペトラは国王に頭を下げる。
「さて本題に戻ろう。話はジャック師団長から聞いておる。なんでも鉄の巨人を操れるそうだな?」
「えぇ」
「今ここで見せてもらえんか?」
国王からの無茶ぶりである。
しかし、クリスは国王からの願いをかなえるため、高次元空間小型格納コンテナからSUS-8を取り出す。
「おぉ!」
取り出したSUS-8に目を見張る国王。
「おそらくこちらのことを言っていたのでしょう」
「なるほど、素晴らしい」
国王はそのように言う。
「陛下は一目見て、これの価値が分かるのですか?」
「もちろんだとも。我もかつては冒険者として活動していた時期もあった。その時の名残で『看破』というスキルを持ち合わせているのだよ」
「そうでしたか」
「うむ。スキルによれば、このSUS-8とやらはかなり汎用性が高い」
「そのとおりです」
「これはジャック師団長が推薦するのも無理はない」
その言葉にクリスは引っかかる。
「どういう事でしょう?」
「聞いておらんか?ジャック師団長は近衛第2師団の中にクリスを中心とした部隊を設立してほしいとの要望を出しているのだ」
「自分が部隊長になれということですか?」
「ふむ、その様子では何も聞かされておらんな。実にその通りである」
初耳である。
クリスは突然のことで頭が混乱しそうだった。
「だが、我としては近衛師団に縛るのは好ましくないと考える。よって、我の直属の独立部隊として編成したい。いかがか?」
クリスにとって悪い話ではないかもしれない。
だがクリスはすぐには答えを出さなかった。
「クリス・ホーネットよ。何か阻むものでもあるのかね?」
「……えぇ。自分はフェンネル辺境伯にて軍事技術顧問という役職を拝命しました。これを捨てるわけには行きません」
「そうか、しかしそれも肩書の一つでよいのではないか?」
クリスは頭に疑問符が浮かぶ。
「即ち、お主はフェンネル辺境伯軍事技術顧問でありながら、独立部隊の隊長であると考えればよいだろう」
国王の言うには、顧問でありながら部隊長としているのがよいとのことだ。
「それでフェンネル辺境伯が良しとするなら、いいでしょう」
「それなら話は早い。早速明日近衛師団詰所に来るがよい。必要な人員を渡そう」
こうしてクリス達は宮殿を出た。
「とんでもないことになってきたな」
クリスは頭を掻きながら言う。
「それだけクリスのスキルが有能だってこと」
「確かにそうかもしれないけど、自分が褒められてない気がするんだよなぁ」
「でもクリスはそのスキルを使って様々な場面を突破してきたじゃないですか」
「そうだよ、クリスはすっごく強い!」
エレナたちがクリスのフォローに入る。
クリスにとって、それがなんだか照れくさくなってしまった。
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