第26話 帰還
作戦が終了してからは、近衛師団と冒険者が手分けしてシーゴブリンの死体を処分した。
数千もの肉片が転がっているため、それらを回収し、焼却処分する。
それと同時に、この作戦で命を落とした兵士や冒険者の遺体も回収していく。
周辺にはひどい腐敗臭が漂う。
「よっこいしょ」
クリスはSUS-8を使って海岸線に穴を開けていた。
シーゴブリン焼却用の穴だ。
大型のシャベルを召喚し、そこら中に穴を穿つ。
そこに、ほかの冒険者がシーゴブリンの死体を放り込んでいく。
山のようになった死体を、冒険者の誰かが火を放つ。
火は勢いよく燃え上がり、死体は炭へと変化していく。
「クリス」
作業を終えたクリスの元に、エレナがやってくる。
「どうした?」
「ちょっとあの人達が話を聞きたいって」
エレナが指指す方には、数人の学者のような人がいた。
クリスは彼らの方に行く。
「何か用でしょうか?」
「あぁ、君もこのシーゴブリンと敵対していたんだね?」
「えぇ、まぁ」
「その時、シーゴブリンは盾に人間を括りつけていたそうだが?」
「えぇ」
「なるほど」
そういって学者たちは手元の資料に何かを書き込んでいく。
「やはり、これは陸海他者仮説が有力だろうな」
「なんですか、それ?」
「ん?あぁ、私たちはゴブリン種の研究をしていてね。特に陸上にいるゴブリンと海にいるゴブリンを対象にしているんだ」
「はぁ」
「今見た限りだと、シーゴブリンは通常のゴブリンに比べて知能が高い。ここに転がっているような装備を身に着けているということは、それだけ技術が発展していることを意味するし、我々人間の心理をついて防御してくるような知識を有しているということだ」
「しかしそれが何の役に立つんです?」
「今後、シーゴブリンと対話することが可能かもしれないということだ」
「……できるんですか、そんな事」
「出来る出来ないは研究次第で決まる。学者は人間の倫理を捨てても進まねばならない道があるからな」
そういって学者たちはシーゴブリンの死体と道具、そして盾に括りつけられた人の死体を見て回っていた。
翌日。
周辺の掃除が片付いたところで、近衛師団と冒険者たちは一路王都に向けて戻る。
道中は特に何も起こらず、無事に王都へと帰還したのだった。
王都北部の城壁外に集められた冒険者は近衛師団の司令官の話を聞く。
「今回は諸君らの奮闘に感謝する。無事に駆除作戦は終了し、我が王国に平穏が訪れた。被害が最小限に抑えられたのも、一重に冒険者としての質がよかったことに起因するだろう。冒険者の諸君らはここで解散とする。今回の依頼の報酬は、6ヶ月以内に冒険ギルドで申請すれば与えられる。これで以上。解散!」
こうして冒険者たちは各々散っていく。
クリスたちもこれに合わせて移動を始める。
「このあとどうする?」
「しばらくは王都で過ごしたい」
「それもいいですね」
「じゃあ私グルメ巡りしたーい!」
そんなことを言っていると、近衛師団の兵士がやってくる。
「そこの冒険者!」
クリスは兵士に呼び止められた。
「なんですか?」
「突然失礼。先の作戦で巨大な鉄人を操っていたのは貴方か?」
巨大な鉄人とは、おそらくSUS-8のことを言っているのだろう。
「えぇ、そうですけど」
「そうか。実は師団長が直々にお会いしたいとのことだ。我々についてきてほしい」
クリスたちは顔を見合わせる。
突然のことで困惑したからだ。
エレナはおもむろにスキルを発動し、「お告げ」の内容を聞く。
「お告げ」を聞き終わると、エレナは頷いた。
「分かりました。ついていきます」
「よろしい。ではこちらだ」
兵士の後をついていくクリスたち。
城門を通り、案内されたのは近衛師団の司令部庁舎だ。
建物に入り、進んでいった先の部屋に通される。
その部屋は司令官執務室であった。
その執務室のドアをノックする。
「目標の人物を連れてきました!」
「よろしい。入ってきたまえ」
「失礼します!」
そういって兵士がドアを開け、中に入るようにクリスたちに促す。
それに従い、クリスたちは執務室に入る。
そこには初老の男性と他数名がいた。
兵士がドアを閉めると、初老の男性が口を開く。
「突然の呼び出しに応じたことに感謝する。私は近衛第2師団長のカスベル・トーマス・ジャックだ」
カスベルはそういってクリスに握手を求める。
「君が鉄の巨人を操っていたのだな?」
「あなた方の認識と合っているなら、そうです」
「名前は?」
「クリス・ホーネットです」
「ホーネット。折り入って頼みごとがある」
そういって、カスベルはクリスに詰め寄る。
「国王陛下にお会いしてくれないか?」
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