第21話 救助活動

 クリスは遊牧民族解放戦線が去っていくのを確認すると、辺境軍司令官の元へと向かう。


「ボイド司令官、敵の様子はどうです?」

「現状は完全に去っていったと考えられる。今は斥候の騎兵隊を出したところだ」

「しばらくは様子見ですね」

「それよりも、ホーネット主任は街のほうを頼む。まだ火の手が上がっているようだ」

「わかりました」


 クリスはSUS-8に乗り込み、フェンネルの街のほうへと向かっていった。

 街の様子はいくらか変わっていて、建物はまだ延焼しているようである。

 クリスは建物に残された人がいないか確認して回っていった。


「助けてー!」


 すると、とある建物から声が聞こえてくる。

 クリスはすぐに向かう。

 そこは入口が火に覆われていて、生身では簡単に通り抜けることができないようになっていた。

 だが、今のクリスなら問題はない。

 該当の建物の入口を半ば勢いよく破壊し、大きな通り道を作る。

 そのままSUS-8ごと建物内に入っていった。

 SUS-8は全身の表面に装甲が施されているため、多少の熱は防げる。

 奥の方へ進んでいくと、そこには一組の親子の姿があった。


「大丈夫ですか?」

「あ、あなたは……」

「私は辺境軍の関係者です。救出に来ました」

「お願いです、せめてこの子だけは……!」

「大丈夫です、お母さんも助けます」


 そういってクリスはスキルの中から、火災避難用の酸素マスクを二組取り出し、それを親子に差し出す。


「これを装着してください」


 クリスが手伝い、親子はマスクを装着した。

 次にクリスは消火用の道具を探す。

 召喚したのは、二酸化炭素ガスによる大型消火タンクだ。

 再びSUS-8に乗り込むと、その消火器を火の元に向ける。

 噴出口から二酸化炭素ガスが噴射され、火は一瞬のうちに消え去る。

 周囲の安全を確保し、クリスは親子に脱出するように促す。


「さぁ、こちらです。身をかがめてゆっくり安全に移動してください」


 こうして親子は無事に外に脱出することができた。


「あぁ!ありがとうございます!一体なんとお礼をすればいいのやら……」

「礼はいりません、仕事ですから」


 そういってクリスはSUS-8に乗り込み、次の現場へと向かう。

 幸いにも風は吹いておらず、延焼は比較的狭い範囲にとどまっていた。

 クリスは現場を指揮している軍人の指示を仰ぎながら、消火活動に勤しんだ。

 こうして、夜が明ける頃には大体の消火活動は終了したのだった。


「ふぃー、疲れた……」


 クリスは水を飲みながら、地面に腰掛ける。

 今回の消火活動は、SUS-8がなければ簡単にはいかなかっただろう。


「クリス」


 そんなところに、エレナが現れる。


「そっちは大丈夫だったか?」

「うん、問題ない。ペトラ様やティナが大聖堂への誘導を手伝ってくれた」

「そうか、よかった」


 そういってクリスは一つ溜息をつく。


「しかし遊牧民族解放戦線がここまでやるとはね……。まさかここまで被害を出すとは思わなかった」

「違う」

「え?」

「クリスのおかげで、ここまで被害が最小限に抑えられた」


 そういってエレナはクリスの頭に手をやる。


「お疲れ様、クリス」


 クリスは、照れくさくなってしまった。

 クリスはその日のうちに、パトリックに呼び出される。


「遊牧民族解放戦線との戦闘、そして火災の鎮火。どちらもよくやってくれた」

「いえ、自分ができる限りのことをしたまでです」

「まぁ、よい。今回の功績を鑑みて、何か褒美でもやりたいところなのだが……」


 そういうと、パトリックは少し逡巡した。


「今のところ褒美としてやれるものがないのだ。クリスは何か希望はあるかね?」

「……正直、今の環境で十分です。それでも何か貰わなければならないとするならば、依頼達成の報酬でしょう」

「ふっ。確かに、冒険者なら報酬を与えなければいけないな」


 そういってパトリックは笑う。


「分かった。クリスには今回の働きを鑑みて、報酬を与えよう」

「ありがとうございます」


 クリスは踵を返し、部屋から出ようとする。

 だが、それをパトリックは止めた。


「そうだ、クリスよ。例のオードー帝国のことなんだがね」

「あぁ、何か進展はありましたか?」

「うむ。これを見てほしい」


 そういってパトリックは地図を取り出す。


「オードー帝国の南部で交通規制がかかっていることは話しただろう?」

「えぇ」

「その場所に防諜員が潜入したところ、多数の魔物の群れが発見されたそうだ」

「それがどうかしたのですか?」


 クリスはパトリックに尋ねる。


「それがどうも、人間のいうことを聞いているようなのだ」

「……魔物ですよね?」

「あぁ、そうだ。本来なら狂暴かつ本能のままに活動するはずだ。それが人間の支配下に入るとはとても思えない」

「なにか裏がありそうですね」

「うむ。だがオードー帝国は迂闊に手を出すことはできないはずだ」

「どうしてです?」

「おそらく、オードー帝国も魔物の存在を察知しているはずだ。そのうえで軍の派遣をしないでいる」

「魔物の討伐という名目があるじゃないですか」

「帝国にもいろいろ事情があってな。詳細は省くが、特に南部の貴族は帝王に忠誠を誓っていないものも多い。そんなところに軍を派遣すれば、反感を買うことは間違いないだろう」

「……面倒ですね、政治って」


 クリスは頭をかいた。


「情報は入ったが、結局のところ我々ができることは少ない。今はさらなる情報を得ることぐらいだろう」


 そういってパトリックは地図をしまう。


「さて、私はこれから街の視察に出る。火事の跡を見ないといけないからな」

「分かりました。自分も街の後処理を手伝おうと思います」

「頼んだぞ」


 そういって二人は部屋を出たのだった。

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