第20話 機兵

 次の瞬間、光の拳が振り下ろされる。

 あたりには衝撃音と土煙が充満した。

 男はクリスのことを確実に仕留めたと確信し、口角をあげる。

 だが、それには違和感があった。

 光の拳は、完全に地面と接していないからだ。

 すると、次第に光の拳は男の意思と反するように、地面から持ち上がっていく。


「……着装」


 光の拳の下からクリスの声が聞こえてくる。

 そのまま光の拳は持ち上がり、クリスはその姿を現した。

 強化外骨格型身体拡張工学補助機「SUS-8」。

 全長4.2mの巨躯は光の拳を下から押し上げ、支えている。

 その様子を見た男は、驚きを隠せないようだ。


「うぉぉぉっ……」


 SUS-8は低いモーター音を上げ、光の拳を投げ飛ばす。

 光の拳は投げ飛ばされたものの、すぐさまクリスのことを殴りにかかる。

 しかし、クリスは腕の装甲を使って光の拳をいなす。

 光の拳はクリスの後方の地面へとめり込んでしまう。

 クリスはその機を逃さず、一直線に突っ込んでいく。

 SUS-8の拳は男のことを捉えた。

 しかし、男もただでやられるわけにはいかない。

 男は二つ目の光の拳を発動し、クリスに合わせるように殴りにかかる。

 そして拳同士がぶつかり合う。

 一瞬の衝撃音の後、クリスの機体が吹き飛ばされる。


「ぐぅっ!」


 クリスは地面に叩きつけられる。

 そこを光の拳が上からまっすぐ振り下ろす。

 クリスは身を捩り、それを何とか回避する。


「くそ、どうにかしないとまずい……!」


 クリスはスキルの中から何か使えるものがないか探す。

 そして一覧表に一つの物を発見する。

 35cm攻城自走臼砲だ。

 クリスがそれを選択すると、下に説明のようなものが現れる。


『35cm攻城自走臼砲は第一次世界大戦後にドイツ民主帝国が研究したとされる自走臼砲で、ポール=マジノ線を攻略するために開発されたもの。通常の曲射も可能ながら、直射によってダメージも与えることが可能な代物である』


 クリスは説明をざっと読み、とにかく35cm攻城自走臼砲を召喚した。

 それは全長6m、全幅3.3m、全高2.6mの、車体に砲をポン付けしただけのような簡素な自走臼砲であった。

 それと同時に、クリスは自走臼砲に触れずとも、その使い方が頭の中に流れ込んでくる。

 クリスは専用の砲弾と装薬を召喚し、それをSUS-8を使って砲の後ろから詰めた。

 そして、そのまま直射で発射する。

 砲弾はまっすぐ男の元へと飛翔した。

 男は砲弾から身を守ろうと、光の拳を目の前にやる。

 しかし、砲弾はいとも簡単に光の拳を打ち破った。

 そのまま光の拳の一つは消失する。

 砲弾は光の拳によって偏向され、地面へと吸い込まれた。

 地面はえぐれ、その衝撃で男は馬ごと吹き飛ばされる。

 それを見たクリスは、男に向かって突進した。

 だが男も必死の抵抗で、もう一つの手でクリスのことを掴もうとする。


「させるか!」


 クリスは身を捩り、掴んでくる光の拳を蹴る。

 蹴ったことにより勢いをつけたクリスは、その勢いのまま男のことを掴む。


「ぐぅ!」


 男はSUS-8の左手の中に捕らえられた。

 どうやら光の拳は男の手とリンクしているようで、光の拳が攻撃してくる様子はない。

 そのままクリスは、男をSUS-8の手中に収めたままトーラス・レイジングブルを向ける。


「名前と所属を言え」

「誰が言うか……!」


 男は抵抗する。

 だが、SUS-8の手からは逃れられないようだ。


「お前は冒険者か?」

「あぁそうだよ!それが問題かよ!」


 クリスの問いに男は逆切れ気味に答える。

 すると、先ほどの光の拳も男のスキルということになるだろう。


「ふん、俺の役割は終わった。好きにすればいい」

「そうか、じゃあ好きにするわ」


 クリスはトーラス・レイジングブルをしまうと、男の体を右手に持ち変える。


「それじゃあとっとと帰りな!」


 クリスは助走をつけて、全力で男のことをぶん投げる。

 男は城壁の上を飛び越え、勢いよく森の方角へと飛んで行った。

 男は自身のスキルで着地を試みようとする。

 だが、スピードがあるせいでうまく着地が成功しなかったようだ。

 ゴロゴロと転がって、やがて止まる。


「さてと……」


 クリスは後ろの様子を見る。

 街は火に覆われ、至る所で市民や兵士が消火活動をしていた。


「クリスー!」


 そこに、ペトラたちがやってくる。


「みんな、大丈夫か?」

「なんとか。城門付近はまだ戦闘が続いてる」


 そうエレナが解説する。

 それをよそに、ティナはSUS-8に興味を示している。


「クリス、これ何?」

「説明は後だ。今は火災の消火を最優先してほしい。俺は城門のほうを手伝ってくる」

「わかりました。お気をつけて」


 そういってペトラたちは街のほうへと入っていく。

 クリスはそれを見届けると、城門の外に向かう。

 城門の外側では、門に押し入ろうとする騎馬隊と、それを阻止せんとする騎兵隊や歩兵が奮闘していた。

 クリスは全速力で近くの騎馬隊に拳を叩き込む。

 その衝撃で複数の騎馬がバランスを崩し、倒れる。

 それを見た他の騎馬隊が皆一様に引き返していく。


「簡単に返すか!」


 クリスは新しい道具を召喚する。

 SUS-8専用装備 M364 30mm重機関砲だ。

 弾頭に榴弾を用いているため、着弾した際に爆発を伴う。

 クリスは30mm重機関砲を騎馬隊に直接狙わず、比較的森側へと射撃する。

 これによって、着弾した地面が抉れ、騎馬隊の退路を絶つことが可能だ。


「今がチャンスだ!撃てぇ!」


 司令官の指示が飛び、重機関銃群は行き場を失った騎馬隊に向けて弾丸のプレゼントをする。

 こうして、フェンネルの防衛はいくらかの損害を出したものの、無事に作戦は成功した。

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