第19話 防衛

 翌日。

 駐屯地の一角を使って、有刺鉄線を用いた鉄条網と、M2重機関銃の評価試験が行われる。

 クリスは有刺鉄線の設置を指揮した。

 兵士たちは慣れない作業の中、設置作業を行う。

 こうして設置した有刺鉄線は、約10mほど敷設された。


「ふむ、これは厄介そうだ」


 司令官が有刺鉄線を眺めて言う。

 その言葉通り、有刺鉄線を超えようとしている兵士たちを拒んでいた。

 一方で、M2重機関銃の評価は上々である。

 それはその通りだろう。

 M2重機関銃は開発されてから80年以上も経っているにもかかわらず、現在も使用され続けている。

 そんな傑作銃の評価が悪いわけがない。


「ふむ。評価の結果、両者は採用に足るものであることが確認できた。早速これを設置しよう」

「分かりました。早速準備をします」


 こうしてクリスの指揮の元、遊牧民族解放戦線がやってくると考えられる西側の城門に鉄条網を敷設した。

 長さは100mほどで、一か所だけ穴を開けている。

 そこに射線が通るように合計50門と数千発の弾丸を召喚、設置した。

 それと同時にM2重機関銃の操作を教え込む。

 これで遊牧民族解放戦線を迎撃する準備は完了だ。

 あとは敵がやってくるのを待つのみである。


「で、なんでみんないるの?」


 そう、そこにはエレナを始め、ペトラとティナがいたのだった。


「クリスだけだと心配」

「私の領土が危険であるのに、その場にいないのは論外ですわ」

「私はなんとなくー!」


 三者三様の反応である。


「まぁ、いてもいいけど、いつ来るか分からないよ?それに危ないから後ろで見ていてよね」

「分かってる」

「問題ありませんわ」

「うんっ」


 こうして警戒すること数日。

 夜間に斥候していた騎兵隊から連絡が入る。


「本隊が移動を開始!目標はフェンネルの模様!」

「いよいよ敵の襲来か。全軍、戦闘配置!」


 司令官の指示により、歩兵、騎兵、重機関銃隊が準備を整える。

 しばらくして、西にある森の方から地鳴りのようなものが聞こえてきた。


「射撃準備!」


 司令官の合図とともに、M2重機関銃群が装填を行う。

 それが終わったタイミングで、森から騎馬隊の大群がやってくる。

 遊牧民族解放戦線は雄たけびをあげながら、だんだん接近してきた。


「まだだ、まだ撃つな」


 次第にその距離は縮まっていく。

 そして、遊牧民族解放戦線が敷設した鉄条網線までやってきた。

 騎馬隊は鉄条網に絡まり、動きを止める。


「今だ!射撃開始!」


 司令官が射撃を許可する。

 瞬間、50門のM2重機関銃が火を噴く。

 時折見える曳光弾が、光の筋を作りながら騎馬隊に向かって飛んでいく。

 M2重機関銃の弾丸は人を、馬を地面に伏せさせる。

 そんな状態だから、遊牧民族解放戦線の騎馬隊は大混乱だ。

 そこに、容赦なく12.7mmの弾丸が撃ち込まれていく。


「さ、下がれー!」

「撤退は許されない!進めー!」

「いやだぁ!」


 そんな騎馬隊の悲鳴と怒号が聞こえてくる。


「何というか、一方的ですね……」


 そうペトラがつぶやく。

 エレナもその光景に思わず目を見張っている。

 一方ティナは、銃声が響くのか耳をふさいでいた。

 そんな中、ある騎兵が正面から突っ込んでくる。


「奴をねらえ!城門に近づけるな!」


 指揮官が叫ぶ。城門近くにいた数門のM2重機関銃が騎兵の男に向かって射撃される。

 しかし、その男はまったく恐れることもなく、ただ愚直に接近してくるのみであった。

 すると次の瞬間、男の後ろに巨大な光の拳が現れ出る。

 そして、光の拳は近くの鉄条網を薙ぎ払った。


「なっ!」


 クリスは驚く。

 あのような不可思議なものはスキルでも無ければ、なしえないものだと直観で感じ取ったからだ。

 そのまま男は城門へと接近してくる。

 それを阻止しようと、鉄条網内にいた複数の騎兵隊が接近戦を試みた。

 騎兵隊の槍が男のことを捉えたものの、それは光の拳によって阻まれる。

 そのまま男は、光の拳を振るって周囲の騎兵隊を薙ぎ払う。

 重機関銃群は男のことを狙い続けるものの、やはりそれも光の拳が盾となってしまう。

 そのまま男は、重機関銃群の横をすり抜け、城門へと接近する。


「奴を城門に近づけるなー!」


 城門前に待機していた歩兵が密集隊形を取る。

 先頭を槍兵が槍を構え、後方をマスケット銃を持った歩兵が固めた。

 それを見てもなお、男は怖気づかずに最高速度で接近してくる


「撃てー!」


 上級士官の合図とともに、マスケット銃から火が噴いた。

 しかし、それも光の拳がいとも容易く防がれる。

 M2重機関銃を防いだ拳だ。マスケット銃の弾を防ぐのも容易いだろう。

 光の拳は密集隊形を取っていた歩兵を薙ぎ払うと、そのまま握りこぶしで城門をぶん殴った。

 巨大な衝撃音とともに、周辺に土煙が立つ。

 その煙が払われると、そこにはポッカリと穴の開いた城門があった。


「今だー!」


 男は仲間に向けて叫ぶ。

 それを見ていたのか、遊牧民族解放戦線は一気に城門のほうへと流れ込んでくる。


「まずい!」


 クリスは叫ぶ。

 今回の防衛線は、鉄条網ありきの作戦だ。

 だが、その鉄条網は男の手によって無理やり撤去されている。

 そうなれば数は減っているものの、50門の重機関銃群があっても大多数の騎馬隊を処理するのは困難だ。

 クリスは考えるよりも先に体が動いていた。

 持ってきていたオートバイにまたがり、エンジンを吹かす。


「クリス!?」

「いけませんお嬢様!」


 ペトラが制止しようとするものの、近侍に止められる。

 クリスはフルスロットルで飛び出していった。

 そのまま、光の拳のスキルを持つ男へと向かっていったのだ。

 クリスはオートバイの上で立ち上がり、M4カービンのフルオート射撃をする。

 だが、もちろんそれは光の拳によって防がれた。

 弾を撃ち切った所で、光の拳は一旦上に持ち上がり、そのまま振り下ろされる。

 クリスはそれをギリギリのところでかわす。

 だが、そのときにバランスを崩し、男の横をバイクから転倒しながら通過する。

 そのままクリスは城壁内へと入っていった。


「痛っつぅ……!」


 クリスは転倒したダメージを負ってしまう。

 最高速度で転倒したため、あばら骨や他数か所を骨折、皮膚もひどくただれた。

 クリスは朦朧とした意識の中で、スキルを発動し、完全回復ポーションを召喚する。

 それを頭からかぶると、体中の傷がみるみるうちに治っていった。

 クリスは一呼吸おいて顔をあげる。

 するとそこには衝撃の景色が広がっていた。

 空からいくつもの火矢が飛んできていたのだ。

 その火矢は、木造の建物に突き刺さると一気に大きな火へと成長していく。


「あ、あぁ……」


 クリスはだんだんと絶望の淵に立たされていく。

 このような事態を招いたのは自分のせいだと認識したからだ。

 そんなクリスに、光の拳の男はゆっくりと近づてきた。

 そして光の拳を振り上げる。

 クリスはそれを甘んじて受け入れようとした。

 その瞬間、頭の中にファンファーレが鳴り響く。


『ユニークスキル「万物の召喚」はユニークスキル「万物の召喚 レベル2」に進化しました』

『召喚可能一覧が拡充されました』

『ユーザーインターフェースが拡張されました』

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