第18話 会議
フェンネルに戻ったクリス一行は、早速パトリックに偵察で得た情報を話す。
「……以上のことから、遊牧民族解放戦線はフェンネルから西に15km付近で陣営を構え、フェンネルへの攻撃の機をうかがっていると考えられます」
「そうか」
パトリックは顔の前で手を組む。
「確かフェンネルが炎に包まれると言ったな?具体的にはどのようになるかは分かるかね?」
「いえ。ですが城門を破り、建物に放火することは『お告げ』の通りです」
「ふむ。詳しいことは分からずじまいか……」
パトリックにとっては、遊牧民族解放戦線がいつ、どこから、どのようにやってくるのかが知りたいだろう。
だが、それは今回の偵察では判明しなかった。
「だが、遊牧民族解放戦線が準備していることが分かっただけ十分だろう」
パトリックはクリスたちをねぎらう。
「遊牧民族解放戦線の今後の様子は、我が騎兵隊から出そう。クリスよ、今はゆっくりと休むがよい」
「分かりました」
そういってクリスはフェンネル邸の寝室に戻った。
「んで、なんでペトラとティナがいるんだ?」
そう、本来ならばクリスとエレナのみの部屋であるが、そこにペトラとティナがいた。
「もちろん、我が領土フェンネルのためです!」
ペトラは自信満々に言う。
「おそらくお父様は、フェンネルの防衛にクリスを頼ると思います。そこで、私たちでどんな策が講じることができるのか相談しに来たのです」
「私は楽しそうだからー!」
ペトラはまともな意見だが、ティナのそれはおふざけに近い。
だが、クリスも追い出す訳にもいかず、そのままいさせた。
「それで本題ですが、もしフェンネルを防衛すると考えるなら、どうしたら良いでしょう?」
ペトラは地図を広げてクリスに聞く。
「そうだなぁ、遊牧民族解放戦線は西から攻めてくると見て間違いないだろうな」
「それに、彼らはどのようにして城門を打ち破るつもりでしょうか?」
「奴らに強力な攻城兵器があったようには見えなかったなぁ」
クリスは頭を悩ませる。
そもそもフェンネルの城門は並大抵のものではない。しっかりとした門だ。
それを破壊できる程のものがあるとは考えにくい。
「エレナ。『お告げ』で何か分かったりしない?」
「内容が抽象的すぎて無理」
頼みの綱のエレナもお手上げだったようだ。
クリスたちはこんなことを一日中考えたが、キチンとした回答は出なかった。
翌日、クリスはパトリックに呼び出される。
「我が騎兵隊の情報によると、遊牧民族解放戦線の本隊が移動を開始したようだ。それに合わせて、小規模の偵察隊のような集団がフェンネル近辺に現れたという情報もある。おそらく、フェンネルへの攻撃も近い」
「それで、自分には何を?」
「クリスには、フェンネル辺境軍の作戦参謀に軍事技術顧問として参加してもらいたいのだ。その際、クリスの持つスキルで有効なものがあれば、それを配備したい」
パトリックはこう言っているが、要するに良い道具があれば出してくれと頼んでいる。
クリスはこれを理解したが、断ることはしなかった。
「分かりました。できる限りやってみます」
「うむ。頼んだぞ」
クリスは早速、辺境軍作戦参謀がある建物へ向かう。
「貴殿がホーネット主任か。私は辺境軍司令官のピーター・ボイドだ」
「よろしくお願いします、ボイド司令官」
すぐさま作戦会議に入った。
「目標はフェンネルから見て西から接近しています。先の偵察情報によると、その規模は2000と見て間違いありません」
「ふむ、正規軍並みの規模だな」
「また、戦力のほとんどが騎兵隊によって構成されています」
「非常に厄介だな。こちらの騎兵隊はせいぜい500。我が軍が圧倒的に不利だろう」
「以上が現在分かっていることになります」
「ホーネット主任、何か意見はあるかね?」
現状の整理をしたところで、クリスに話が渡る。
「そうですね……。まだ軍事に詳しくはないですが、これは防衛に徹したほうが良いと考えます」
「やはりそうか」
司令官は分かっていたかのように言葉を返す。
クリスはスキルを発動し、良い防御方法がないか探した。
すると、あるものが目に入る。
有刺鉄線である。
クリスは有刺鉄線の一部を召喚する。
「ホーネット主任、これは?」
「これは……有刺鉄線と呼ばれるものです。このように、等間隔で巻きつけられた棘が特徴で、これを用いてバリケードを作るのが一般的です」
「ほう、これは使えそうだ」
司令官は有刺鉄線を手に取って眺める。
「さらにこれをコイル状に巻くことで、防衛陣地を構築することが可能です」
「なるほど。では設置のために、あとで参謀と詳しく話を煮詰めてくれ」
「分かりました」
「しかし防衛だけでは敵を倒すことはできない。何か攻撃の手段はないだろうか」
「そうですねぇ……」
クリスは再び検索をする。
今度は攻撃の一覧だ。
すると良さそうなものを発見した。
クリスは召喚してみる。
机の上に現れたそれは、ブローニングM2重機関銃であった。
「ホーネット主任、これは?」
「これは攻撃用の銃です。フェンネルにある銃とは比較にならないほどの射撃精度と発射速度を持ち合わせています」
「本当かね?」
「あとで撃ってみましょう。とにかく、防衛に有刺鉄線を、攻撃にM2重機関銃を用いれば確実に遊牧民族解放戦線を壊滅することが可能でしょう」
「……よし、分かった。威力のほどを確認したら防衛作戦を立てよう」
こうしてフェンネル防衛戦線が構築されていく。
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