第17話 偵察

 フェンネルから移動すること半日。

 クリスたちは遊牧民族解放戦線の本隊がいる周辺までやってきた。


「それで、これからどうするのです?」


 ペトラがクリスに尋ねる。


「これから威力偵察をしてくるよ」

「おひとりで、ですか?」

「そう。俺にはこれがあるからな」


 そういってクリスは偵察用オートバイを指さす。


「それに俺にはこれもあるしね」


 クリスはM4カービンとトーラス・レイジングブルを取り出す。


「とにかく、周辺の偵察には俺一人で行ってくるから、みんなはここで待っててよ」

「でも、それじゃクリスの負担が大きい」


 エレナはクリスのことを心配する。


「大丈夫だよ。それに、偵察は少ない人数で行ったほうがいい」

「そう、だけど」


 エレナは心配そうに見つめる。

 その間にも、クリスは偵察用オートバイを馬車からおろす。


「それじゃ、夕方ぐらいには戻ってくるよ」


 そういってクリスは偵察用オートバイにまたがり、出発する。

 目的の本隊の周辺までは、目視による捜索となった。

 一応、伯領警備隊司令官からは本隊がいるであろうポイントを教えてもらっている。

 その場所まで、クリスはオートバイをすっ飛ばしてく。

 最初の目標地点まで来た。

 クリスは召喚した双眼鏡を使って、周囲の索敵を行う。


「ここはなし……」


 ここでは目標の本隊が発見できなかった。

 クリスはすぐに場所を移動し、二つ目の目的地点まで向かう。

 するとそこには、少数の騎馬隊が展開していた。

 馬の数は約10、人もその程度である。


「もしかして、この騎馬隊が遊牧民族解放戦線の斥候部隊なのか?」


 クリスはそう考えた。

 ならば近くに本隊がいるはずである。

 クリスは残りのポイントである場所に向かう。

 だが、その途中で大規模に動く馬車列を発見する。

 クリスはすぐさま近くの茂みに入り込み、その様子をうかがう。

 双眼鏡で馬車列を確認していると、ある紋章が目に入る。

 その紋章は、遊牧民族解放戦線で使われているものだった。


「これが正解か」


 クリスは遊牧民族解放戦線にバレないように、偵察用オートバイを押しながら後をつけていく。

 すると、本隊は森の奥のほうへと入っていき、やがてそこで止まる。

 そのまま観察を続けていると、どうやらここで野営をするようだ。

 クリスは手元の地図に本隊のいる情報を書き込むと、オートバイにまたがってその場を離脱した。

 夜、エレナたちの元に戻る。


「敵は1000から2000人規模の騎兵隊のようだった。主に騎兵で構成されていて、歩兵は僅か。全体の装備としては槍が中心だったな」

「結構大規模ですわね」

「そう、もしこの規模がフェンネルに近づいてくると厄介なことになる」

「どうするのクリス?」


 エレナがそう問いかける。


「そこで、明日はちょっと陽動みたいなのをかけようかなって思う」

「陽動?」

「そのためにティナにもちょっと手伝ってもらおうかな」

「ほえ?」


 翌日。

 クリスは道具を召喚し、みんなに対して装備を渡していた。

 クリスの考えはこうだ。

 クリスたち4人は冒険者のパーティーとして遊牧民族解放戦線に接触するというものである。

 そのため、全員一般的な冒険者の装備を身に着けることにした。

 もちろん、クリスのM4カービンやオートバイなんかは目に見える場所に置いておくと警戒されるため、可能な限り隠すことにした。

 こうした状態にして、馬車を目的地である解放戦線の野営地に向かう。

 すると、当然のごとく野営地を警戒していた男に止められる。


「おい、なんだお前ら。ここから先は立ち入れないぞ」


 ここからはクリスの迫真の演技が始まる。


「あー、そうなんですか?この先に何かあったりするんです?」

「あぁ、ここからは俺たちの領域だ。勝手に入ることは許されねぇ」

「でも自分たち、この先に用事があるんですよ」

「……お前ら冒険者か?」

「えぇ、まだ駆け出しですけど」

「そうか、なら特別に教えてやる。この先はポウロ民族っていう遊牧民が住んでいるんだ」

「遊牧民って、今はほとんどが定住していると聞きますけど?」

「今でも遊牧している連中がいるんだよ。俺もそのうちの一人だがな」

「それで、結局ここは通してもらえないんですか?」

「あぁ」

「でも地図によるとこっちに進むべきだと言ってるんですよ。だよな、ティナ?」


 クリスは唐突にティナに話を振る。


「うえっ!?う、うん。確かこっちなんだよナー」


 ティナは若干棒読みになりながら地図を眺める。


「はぁ?その地図おかしいんじゃねぇか?」


 男は馬車に近寄る。

 クリスは一瞬、馬車の中にある荷物をみられるのではないかとヒヤヒヤする。

 だが杞憂だったようで、男はティナの持っていた地図をひったくって眺めた。


「……これ地図の見方が違うんじゃねぇの?お前本当に冒険者か?」


 ティナは一瞬、体がこわばる。

 男はそれに構わず、正しい道を指し示す。


「今はここにいるから、このまま北西に向かえ。そしたら街道に出る」

「そうなんですか」

「で、街道に出たらフェンネルには向かうな」

「それはどうしてです?ここから一番近いですよ?」

「あそこは時期に大変なことが起こる。巻き込まれたくなければ近寄らないことだ」

「どうしてそんなことが分かるんですか?」

「ポウロ民族には優秀な予言者がいるんだよ。そのお方が言うには、近いうちフェンネルで炎が巻きあがるらしい」


 男は偉そうに話す。


「ま、そんなわけだからフェンネルには行くなよ」

「……分かりました。そうします」

「分かったならさっさと行った行った」


 そのままクリスたちは、その場所を離れていく。

 男が見えなくなるところまで来ると、ぺトラが口を開いた。


「それで、何か分かったんですか?」

「あぁ、それはエレナが教えてくれる」


 そう、男との話の間、エレナは「お告げ」を使って真偽を調べていたのだ。


「……フェンネルで炎が上がるのは本当みたい。多分放火でもするんだと思う」

「問題はどうやってフェンネルに攻め入るかってところか……」


 そんな少し重い空気をティナが打ち破る。


「ねぇ、なんで私あの役だったの?」


 話の腰を折るような発言である。


「いや、なんとなく適任かなって」

「絶対違うよね?」


 ティナはクリスに問い詰める。

 それをなだめたのは、御者のペトラだった。


「ティナはクリスの役に立てたのですし、それでいいでしょう?」

「むー……」

「とにかく今は、お父様にこのことを報告しなければなりません」

「そうだな。急いでフェンネルに戻ろう」


 クリス一行はフェンネルへと急いだ。

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