第22話 復興

 クリスはSUS-8を使って、街の火災復興を手伝っていた。


「主任、この木材を2ブロック先の廃材仮置き場まで持って行ってくれ」

「了解」


 クリスは廃材をコンテナに詰め込み、所定の場所まで運んでいく。

 このように、主に瓦礫の撤去や資材の搬入、また食料の調達など、力仕事はすべて行う。


「ふぅ」


 クリスはSUS-8から降りて、小休憩を取った。

 水分補給や軽い食事を取っていると、傍を通った兵士に声をかけられる。


「主任のおかげで、予定より早く復興が進みそうだ」

「いえ、こいつのおかげですよ」


 そういってクリスはSUS-8に視線をやる。


「そうだな。これがあといくつかあればもっと迅速に活動が進みそうなんだが」

「それもいいですけど、まずは使い方を習うところから始めないといけないですよ」

「ははっ、そりゃそうだ。今は訓練なんかしている暇はなかったな」


 そんな話をして兵士は去っていく。

 クリスも軽食を取り終えると、再びSUS-8に乗り込んで作業に復帰するのだった。

 作業を続けること1週間。

 火災があった場所の瓦礫はおおむね撤去され、今は更地となっていた。

 クリスは次の現場へと向かう。

 被災者のいる大聖堂だ。

 ここでは兵士に混じってエレナやペトラ、ティナが被災者に対して各種食料の配布などを行っていた。


「クリスー」


 クリスが大聖堂に入ると、ティナがクリスのもとにやってくる。


「どうした、ティナ」

「南部にあった大きな井戸が火災のせいで潰れちゃって、飲料が行き渡ってないの。どうにかできない?」


 そんな相談を受ける。

 クリスはスキルの中から使えるものがないか探す。

 するとあるものを見つけた。

 「大気水蒸気凝縮サーバー」だ。

 付属の説明を見てみる。


『大気中に存在する水蒸気を冷却、結露させることで安全安心な水を作り出すことが可能。温帯湿潤気候の湿度60%において、毎秒の生成量は3~10cc』


 クリスはこれを何台も召喚する。

 それはごく一般的なウォーターサーバーのようであった。

 クリスは一緒に電源装置を召喚し、ウォーターサーバーを稼働させる。


「これでしばらく放置だな」


 小一時間も放置しておくと、ウォーターサーバーのタンクは水で満たされていた。

 これのおかげで水の配布ができる。

 早速、ウォーターサーバーに列を作らせ、水を配布させた。


「水だ!」

「なんてこと、まるで神の御業のようだわ!」


 被災者は口々に言う。


「よかった、これで問題は解決だね!」


 ティナはまるで自分も片棒を担いだかのように、元気よくクリスに言う。

 こうして街は火災から復興していくことになるだろう。

 それから数日後。

 クリスはパトリックの呼び出しを受けていた。


「今日はなんの御用でしょうか、フェンネル卿」

「うむ、以前言っていた報酬の件だ」


 そういってパトリックは机の中から小袋を取り出す。


「軍事技術顧問としての給料、冒険者としての報酬を合わせたものだ。受け取ってくれたまえ」

「はい、ありがたく頂戴します」


 そういってクリスは小袋を受け取る。


「それと合わせて、これも受け取ってもらいたい」


 そういってパトリックは部屋にいた侍従を呼ぶ。

 その手にはメダルがあった。


「今回の遊牧民族解放戦線の撃退、および火災の鎮火や復興作業の従事。その功績を称えて、辺境領特別功労勲章を授与する」


 そういってパトリックは、勲章をクリスの左胸に装着する。


「よくやったクリス。これからもフェンネルのために尽力してくれ」

「はい」

「……と、言いたいところなのだが」


 パトリックは少し暗い顔をする。


「実は国王陛下より、ある公布があった」

「国王陛下直々に?」


 クリスは若干困惑する。

 それは無理もない。

 国王陛下が法律改定以外の平時において、突然何かを公布するというのはない。

 それは即ち、緊急事態を意味する。


「その内容なのだが、王国内にいる全ての冒険者に向けたものだ」

「……内容は?」

「公布の内容によれば、王国北部の海にて魔物……海洋獣が大規模に発生しているようだ。国王陛下は近衛軍を派遣し、これの討伐を図るつもりのようだが、その際に王国内にいる冒険者も戦力として依頼を出すようだ」

「それだけ海洋獣が発生したと考えるべきですね」

「うむ。クリスはフェンネルにおいて軍事技術顧問だが、本職は冒険者だ。よって、国王陛下の依頼に参加してほしいというのが私の考えだ」


 そういってパトリックはクリスの肩を掴む。


「これは命令ではない。私からのお願いだ。国王陛下のためにも、この依頼を受けてほしい」


 クリスは少し考えたあと、こう答えた。


「フェンネル卿の頼みなら断れません。自分はフェンネルで居場所を作ってもらいましたから」


 パトリックはこれを聞いて、にっこりと笑う。


「そうか、クリスならそういってくれるだろうと思ったぞ。早速だが、出発の準備をしてほしい。公布によれば、10日後までに王都で依頼の受付をしているそうだからな」

「分かりました」


 久しぶりの王都に、クリスは胸が躍る。


「あぁ王都といえばだが、彼女……ティナと言ったか?彼女の亡命が正式に認められたそうだ」

「それはよかった」


 ついでにティナのことも認められたようだ。

 クリスはフェンネル邸の寝室に戻り、エレナに事の経緯を話す。


「そんなわけだから、俺は王都に戻ろうと思う。エレナはどうする?」

「私はクリスについていくだけ」

「分かった。ティナはどうする?」


 たまたま同室にいたティナにも問いかける。


「私、亡命認められたんでしょ?王都に行ってみたいんだよねー」


 これで三人は王都に向かうことが決定した。

 そこでドアが開く。


「私をお忘れでない?」


 そこにいたのはペトラであった。


「でも、ペトラは関係なくない?」

「あら、言ってませんでした?私、これでも冒険者ですわ」


 ペトラから明かされる衝撃の事実。


「お父様にはすでに了承を得ています。これでどこにでもついていけますわ」


 クリスは額に手をやった。

 このお嬢様はどこまで自由奔放なのだろうか。


「分かったよ。連れてくよ」

「うふふっ」


 こうして四人によるパーティーが出来上がったのだ。

 その後は少しばかり準備をする。

 特にクリスのSUS-8をどうするかについてだが、これは新たに召喚した道具、「高次元空間小型格納コンテナ」に収容することとした。

 そして翌日。

 クリスたちはフェンネルを出発し、一路王都へと向かったのだ。

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