第14話 革新
パトリックはクリスの事を案内する。
「早速だが、今日から我が工廠で働いてもらいたい」
「それは構いませんが、一体自分に何をしろと言うんです?」
「そんな気難しく構えなくてもよい。簡単な仕事であるからな」
そういってパトリックが案内したのは、工廠の中でも最大の床面積を誇る第三研究工房であった。
「ここでは、主に最新技術を用いた武器の開発や製造をしている。クリスはここで新兵器の製造を手伝ってもらいたい」
「随分とざっくりとした要望ですね」
「仕方ないだろう。技術とはいつ、どんなところで花開くか分からないからな。一種の備えみたいなものだ」
「まぁ、言われたからには全力で取り組ませてもらいます」
「うむ」
そして、向かった先には技術者らしき人が数名いた。
「紹介しよう。彼らがフェンネルでの技術革新を牽引している最高技術研究局員だ」
彼らと言っても、だいぶ歳の差があるようにも見える。若い者で20代、最高齢で50代といったところか。
「初めまして。本日より、フェンネル専属の軍事技術顧問となったクリス・ホーネットです。よろしくお願いします」
「では、私はこれで失礼しよう」
そういってパトリックは去っていった。
「クリスといいましたか」
技術者の一人が話しかけてくる。20代の若い技術者だ。
「僕はジェーン・ドットリオール。まだここに配属されて2年だけどよろしく」
「よろしくお願いします」
そういってジェーンとクリスは握手をする。
次に若い男性が出てくる。
「やぁ、私はニコラス・ロンド。配属されて10年目になるよ」
「どうも」
ニコラスとクリスは握手をする。
最後に最高齢の男性が出てきた。
「エリック・オルドーだ。ワシが最高技術研究局の局長をしている」
「よろしくお願いします、オルドー局長」
クリスはエリックと握手しようとするが、エリックはこれを拒否した。
「では早速今日の作業を始めるとしよう」
一言エリックが話す。
「今日は何をするんです?」
クリスがエリックに尋ねる。
「ホーネット……主任でしたかな?我々は我々のみでやる故、主任の力は借りません」
エリックははっきりと言う。
「いや、それではフェンネル卿との約束が果たせないのですが……」
「ならば、その辺で暇すればよろしいでしょう。とにかく、我々には必要ありません」
頑なにクリスのことを拒否するエリック。
クリスはどうすれば良いか分からず、途方に暮れた。
「局長、フェンネル卿にも言われていることです。ここは協力を得たほうがいいかと」
「そうですよ、昨日もこれ以上の進展は不可能だと結論が出たじゃないですか」
他二人が必死に説得を試みる。
「いや、まだ我々にはできることがあるはずだ」
「そうかも知れませんが……」
「もうよい、ワシは自室に戻る」
そういってエリックは工房を出て行った。
「すみません、ホーネット主任。局長は少し頑固な方なので」
「あれでも昔は技術革新の中心にいた人なんですけどねぇ」
「はぁ……」
そういって二人はクリスに向けて謝罪の言葉をかけた。
それはさておき、クリスは二人から相談を受ける。
「この銃なんですが、フェンネル卿からさらなる改良をせよとの命令を受けています。どうすれば良いでしょう?」
「そうですね。まずはマイナーチェンジを行う必要があると考えますね」
「マイナーチェンジ……ですか?」
「そうですね……。例えば、これとか」
クリスはM4カービンに使われている弾薬を取り出す。
「これは薬莢と呼ばれる真鍮製の筒に、火薬と弾頭を詰めたものになります。これに類似するものを開発すれば、装填時間を短縮することが可能になると思われます」
「なるほど……。しかし、実際にどのように開発すればよいか……」
技術者は頭を悩ませる。
クリスはスキルから、何かちょうど良い物がないか検索する。
すると、一覧に「紙製薬莢」と書かれたカテゴリーがあることに気が付く。
早速クリスはいくつかを召喚してみる。
それは、一般的な紙に火薬と弾丸が一包化されたものであった。
「これとかどうでしょう?火薬と弾頭が紙に包まれているものです」
「見せてもらってもよいか?」
「はい、どうぞ」
クリスは、紙製の弾薬をジェーンに渡す。
ジェーンはそれを興味深そうに眺める。
「それの使い方は簡単です。火薬が詰まっている方の紙を破り、火薬、弾丸と順番に銃身に詰めるだけです」
「ほう」
「これまでは火薬入れしかなかったようですが、このように、一定量の火薬が入っている薬莢を製作すれば、装填時間を大幅に短縮することが可能でしょう」
「確かに、これは使えるな」
ジェーンとニコラスは納得する。
それとクリスは、また別の紙製薬莢を召喚する。
「主任、そちらはなんです?」
「これは、そちらの紙製薬莢とは異なり、紙を破らずに装填することが可能な弾薬です」
「……つまり、紙の中に弾丸と火薬が入ったまま装填することが可能であるということですか?」
「そうなります。その場合、対応可能な銃の開発が必要になりますが」
「……その対応する銃も召喚してもらってもいいか?」
「はい。どうぞ」
クリスは後装式のボルトアクション歩兵銃を召喚する。
それを手にした二人は、心なしか目が輝いていた。
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