第11話 地方都市

 先の戦闘では、負傷者が数名出る事態となった。

 だが、幸いにも重症ではなく、エレナの魔法で回復できる程度であった。

 タランも脳震盪を起こしかけたが、回復魔法で大事には至らない。

 そんなクリスだが、今まさに緊張の最中にいる。

 それは、途中で出会ったペトラの乗る馬車にクリスとエレナが招待されてしまったからである。


「先ほどは素晴らしい戦いを見せてくれました。一体どんな魔法を使ったのですか?」

「いえ、大したものではありませんよ、ペトラ嬢」

「ふふっ、そんなかしこまらなくてもよろしいですよ。私のことは気軽にペトラとお呼びください」

「えっと、その……、ペトラさん」

「うふふっ」


 ペトラは終始上機嫌であった。

 それからしばらくして、ようやく目的地である地方都市フェンネルに到着した。

 ここはペトラの父親であるパトリック・フォン・フェンネル辺境伯が治める都市である。

 隣国と国境を接している場所であるため、古来より交通の要所として栄えてきた。

 そのため、この国では王都に次ぐ第二の都市となっているのだ。


「では、我々は荷物を納品してきます。また2日後にここに集合しましょう」


 そういってアンヘル一行は馬車を連れてどこかへ行ってしまう。

 冒険者たちは、皆各々の気の向くままに散らばっていった。

 その場に残されたクリスとエレナ。この後の予定は何もなく、ただ適当に街をぶらつくのみである。

 が、それを阻止したのはペトラであった。


「もし予定がないのでしたら、ぜひ我が屋敷へといらっしゃいませんか?」

「え、いいんですか?」

「はいっ。大歓迎ですわ」


 そう言われてしまえば、断る理由もない。

 二人はペトラの提案に乗り、フェンネル邸へとお邪魔することになった。

 フェンネル邸は都市のほぼ中央にあり、辺境伯としては若干質素な作りとなっている。

 そんな屋敷を、ペトラを先頭に進んでいく。


「お父様、ただいま戻りましたわ!」


 ペトラがとある部屋のドアを開けて言う。

 そこは大広間のようになっており、中央奥側に一人の男性が座っていた。


「おぉ、ペトラよ。よく戻った」


 お父様と呼ばれた男性は立ち上がり、ペトラの元に寄る。


「おや、そちらの客人は?」

「紹介します。道中で私のことを助けてくれた冒険者の方ですわ」

「は、初めまして。冒険者のクリス・ホーネットです」

「……エレナ・カートンです」

「ようこそ、我が領地フェンネルへ。私が領主のパトリック・フォン・フェンネルだ」


 そういってパトリックは二人に対して握手をする。

 なんとも物腰柔らかい人だ。

 握手した際、パトリックはクリスの装備を物珍しそうに眺める。


「クリスと言ったか?」

「はい」

「随分と珍しい武器を持っているのだな。銃のようだが、随分と形が異なるのだな」

「えぇ、まぁ。これは自分のスキルによって召喚したものですから、詳しい説明はできませんが……」

「いや、構わない。ぜひその銃について聞かせてほしい」


 そういってパトリックはソファに座るよう促した。

 その言葉に甘え、クリスはソファに座る。

 そしてクリスとパトリックは様々な話をするのだった。


「……即ちこれは、このような弾薬を連続で発射できるように設計された道具であると言えます」

「なるほど。その弾薬はどのようになっているのだ?」

「火薬と弾丸が真鍮製の筒にひとまとめになっているようです。これにより、装填時間を大幅に減少させることが可能になっています」

「ほう。私の手元にある銃は火薬と弾丸を別に装填する必要があるからな。何かヒントを得られるかもしれない」


 そんなことをパトリックを口走る。


「しかし、熱心に聞かれるんですね」

「うむ。私自身、辺境伯という爵位を持っているが故に、国王陛下のためにこの地を何としても守り抜かなければならない。それは分かるね?」

「えぇ」

「そのためには強大な軍事力を所有する必要がある。だが最近、私が所有する工廠では技術の進展が著しく低下している。だから、君のその道具を召喚するスキルは我が領土ひいてはこの国のためになるのだ」


 パトリックは力説した。

 確かに、辺境伯というのは想像以上に責任が伴う役職でもある。

 それ故に、国王陛下のために軍備を整えるのは必要な経費なのだ。

 そんな事情を抱えるパトリックに、クリスは何か手助けをしてあげたいと考えていた。

 しかし、ここで容易にスキルで道具を召喚するのは何かが違うと直観が伝えてくる。

 そこでクリスはこう切り出した。


「ではこうしましょう。フェンネル卿、自分に依頼を出してください」

「依頼、とな?」

「はい。フェンネル卿は軍備を増強したい。しかしその鍵を握っているのは自分である。ならば自分に依頼を出し、金銭の授受をもって対等な関係にすればよろしいかと思います」

「しかし、それでいいのかね?」

「えぇ、これでフェンネル卿が納得してくれるのならば」


 パトリックは少し悩む。


「……こんなことを聞くのは野暮かもしれないが、なぜ依頼という形を取るのかね?別にこの瞬間道具を召喚して、それを私に教えてもらうことも可能だろう?」

「理由は三つですね。一つ目に、自分が冒険者であるということです。冒険者は依頼を受けて、その仕事を全うするものです」

「確かにな」

「二つ目に金銭の授受を発生させることで、そこに責任を発生させるためです」

「というと?」

「金銭の授受とは、仕事の大きさを測るスケールであると同時に、そこに責任を持たせるための指標だと考えています」

「……。して三つ目は?」

「三つ目は、まだ自分とフェンネル卿は出会ったばかりで信頼関係が築けていません。もしかすればフェンネル卿は自分を利用するかもしれない。それを防ぐために依頼という形を取りたいのです」

「ふむ、なるほどな」


 パトリックは深く考える素振りを見せる。

 数分後、パトリックは結論を出した。


「よし、分かった。私はクリスに依頼を出すとしよう」

「フェンネル卿。自分はエレナとパーティーです」

「もちろん分かっている。二人に軍備を増強する依頼を出すことにする」


 こうして二人はしばらくの間、地方都市フェンネルに滞在することになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る