第10話 介入

 それから数日。

 商業隊は順調に道を進んでいった。

 その間、変化したことと言えば、ルアンがエレナに懐いていることだろう。


「なぁなぁ、エレナってどんな魔法使えるんだ?」

「……いろいろ」

「いいなー。俺もいろんな魔法使えるようになりたいなー」


 一体どんな方法を使ったのか知りたいところだが、全部は教えてくれないだろう。

 そんな道中、前方で何か戦闘をしているような音が響く。


「どうやら誰かが魔物と戦闘しているようだ。地方都市に行くにはこの道を進むしかない。悪いが加勢しに行くぞ」


 前方から伝令の冒険者が伝えに来る。

 クリスは弾丸をゴム弾から実弾に入れ替えた。

 少し進んだところで馬車列は停止する。

 そこから冒険者たちは前方の戦闘域まで走っていく。

 それに遅れないように、クリスたちも追いかける。ちなみにルアンは置いてきた。

 戦闘のある場所まで来ると、1台の馬車を中心に魔物が群がってた。

 魔物はオオアカグマの群れのようである。

 だが、オオアカグマが群れで襲い掛かるのは珍しいことだ。

 それに、その中の一体は見たこともないような巨体になっている。

 そんな巨体のオオアカグマの群れを相手しているのは、一人の少女と数人の傭兵であった。


「うぉらー!」


 そんな彼女たちを助けるために、冒険者たちは後方から襲い掛かる。

 不意打ちのおかげか、数体のオオアカグマを倒すことができた。


「助太刀感謝します!」


 そう少女は冒険者に感謝した。

 あとは巨体を含む数体だ。

 そのとき、巨体の熊が咆哮をあげる。

 それにより、ほとんどの冒険者は後ずさりをした。

 だが、それに負けじとタランが咆哮をあげる。


「うおぉぉぉ!」


 そしてそのまま巨体のオオアカグマに突っ込んでいく。

 タランは装備している巨大な槌を振りかざす。

 オオアカグマはそれに合わせるように前足を振りかざした。

 互いがぶつかり合い、弾けあう。

 それを何度か繰り返した。


「クソ熊め!とっととくたばれ!」


 タランは思い切り大槌を叩きつける。

 だが、オオアカグマはそれを受け止める。


「なっ……」


 次の瞬間には、オオアカグマのもう一方の前足で振り払う。

 タランはその攻撃をまともに食らい、吹っ飛ばされる。

 そのままタランは動かなくなってしまった。


「い、いけぇ!」

「おぉぉぉ!」


 タランが吹き飛ばされたのを見た冒険者たちは一斉に攻撃を仕掛ける。

 だが、巨体のオオアカグマはまったく攻撃が効いていないようにも見えた。

 クリスも攻撃をする。

 フルオートで射撃するものの、分厚い毛皮のせいで肉体にダメージが通っている気配がない。


「クソ!どうすればいいんだ!」


 前方にいる冒険者たちが悲痛な叫びをあげる。

 文字通り毛皮が装甲のようになっており、容易に貫くことは不可能そうだ。


「とにかく突っ込め!」


 冒険者の一人が叫ぶ。

 それを聞いた冒険者たちが、より一層奮起する。

 その間、クリスはM4カービンのドラムマガジンを交換しながら思考を張り巡らした。


(どうする!何か方法はないか!?)


 エレナも障壁を展開し、必死に他の冒険者のサポートをする。

 だが、次第に押されていくのが目に見えていた。


「くっそ!」


 クリスは藁にも縋る思いでスキルを発動し、検索情報を確認する。


(攻撃、攻撃、とにかく火力の高い武器!)


 その中でクリスは一つの道具を発見した。

 クリスは無我夢中でその道具を召喚する。

 その道具は「5.56×45mm NATO弾 対魔獣用亜重力子特殊弾」、略称「5.56G弾」だ。

 クリスが5.56G弾に触れたとき、その威力が頭の中に流れ込んでくる。

 クリスは30発入りのボックスマガジンをM4カービンに装填し、オオアカグマに向ける。


「エレナ!障壁解除!」


 エレナは一瞬驚くが、その言葉通りに障壁を解除する。

 そしてクリスは引き金を引いた。

 弾丸はまっすぐオオアカグマの巨体へと吸い込まれていく。

 弾丸がオオアカグマに着弾した瞬間、着弾箇所で爆発が発生する。

 それは、直径1mで発生するごく小規模な核融合反応であった。

 次々と爆発が起き、そのたびにオオアカグマの巨体には文字通り穴が空いていく。

 30発を撃ち切った所で、オオアカグマの胴体には風穴が空いていた。

 そしてその巨体は地面に伏す。

 それを見た他のオオアカグマは恐れおののいたのか、その場を去っていった。


「……やったのですか?」


 前線で戦っていた少女はヘタリと地面に座りこむ。


「大丈夫かい?」


 クリスは少女に手を差し伸べる。


「え、えぇ。大丈夫です。……あなたの名前は?」

「俺はクリス・ホーネット。しがないの冒険者だよ」

「私はペトラ・フォン・フェンネル。この先の地方都市『フェンネル』の領主の娘です」


 冒険者たちは領主の娘と聞いて驚く。


「先ほどの戦闘では助かりました。感謝してもしきれません」

「い、いえ。困っている人がいれば手助けするのが冒険者というものですから」

「ふふっ」


 そういってペトラは笑う。

 その後、戦闘があった場所にアンヘルがやってきて、ペトラの媚びへつらっていた。

 そして、ちょっとした話し合いの結果、共に目的地のフェンネルに向かうことになった。

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