第9話 護衛
王都に戻ってきた二人は、また別の依頼を受けようとしていた。
「今度はどんな依頼を受けようか?」
クリスはエレナに問う。
エレナは少し見たあと、一枚の紙を手にとる。
「これ」
「ん、護衛任務かぁ。まぁいいんじゃない?」
今度の依頼は、王都から地方の都市に向けて移動する、小規模商業隊の護衛をするというものであった。
期間は2週間で、大規模パーティーを推奨してはいるものの、複数のパーティーを募集しているとのことだった。
「じゃあ、これ受けてくるね」
「うん」
そうして護衛開始日まで、準備を進めるのであった。
そして護衛初日。
「私がこの商業隊のリーダー、アンヘル・リムジーです。どうぞよろしくお願いします」
ふくよかな体形を持つ30代後半の男性がそう告げる。
今回の商業隊は、馬車4台で移動するとのことだ。
クリスたち以外のパーティーメンバーは誰も屈強な用心棒のようであり、それに比べると、クリスたちはひ弱に見える。
「というわけで早速出発しましょう」
それぞれ馬車に分乗して出発する。
その道中、クリスは他のパーティーに声をかけられる。
「よう、俺はタラン。お前クリスだったな?」
「そうだけど、なんで名前を知ってるんだ?」
「そりゃ王都の冒険者でお前の名前を知らない人間なんていないだろ。元お荷物のクリスってな」
「おいおいタラン。それ以上はお荷物ちゃんに失礼だぜ」
「おっとそうだったな」
一緒に分乗していたパーティーが大笑いする。
おそらく彼らにとってみれば、ただの冗談なのだろうが、クリスはそれを真顔で受け止めていた。
それは一部事実であったからだ。
実際にかつてのパーティーでは、クリスは文字通り荷物であった。一緒に魔物を討伐するわけでもなく、かといってパーティーで何か活躍したわけでもない。それに料理がまずい。
そんなクリスの服を誰かが握る。
横を見てみると、エレナが服の袖を握っていた。
表情こそ見えはしないけれど、クリスは少しだけ安心感を得られる。
「そんなことより、お前変な武器持ってんな」
タランはクリスの持っていたM4カービンを見て言う。
「まぁ、そうだな」
「まさかそれでぶん殴るとかいうんじゃねぇだろうな」
「それだったらお笑いだぜ」
そして再び笑いが起きる。
この世界ではまだ銃火器という類いのものは十分に普及していない。
彼らが笑うのも無理はないだろう。
王都を旅立って2日目。
このあたりは山賊などの盗賊が多くいる地域に差し掛かったため、冒険者全員で徒歩による護衛にを行っていた。
クリスはM4カービンの弾丸を念のためゴム弾にする。
もうすぐで峠を超えるというところで、前方から人の叫び声のようなものが聞こえいてくる。
「おらぁ!荷物寄越せぇ!」
山賊である。
だが、前方を守っていた冒険者によって、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
クリスも前方に向かおうとしていたが、同乗していたタランに止められる。
「お荷物は荷物だけ見てればいいんだよ」
言い方は厳しいが、確かにタランの言う通りである。
自分の持ち場についていれば、余計な損害を生まなくて済む。
そんなことを考えていると、近くの茂みから音がする。
クリスは音のする方向に銃口を向ける。
直後、茂みから別の山賊一行が現れ出る。
「ヒャッハーッ!」
そしてまっすぐクリスの方へ飛び込んでくる。
だが、それをタランが受け止めた。
「邪魔だお荷物!」
これはおそらく、文字通りクリスのことを荷物を考えて発言したのだろう。
だが、一応クリスは警戒を止めない。
そこら中いたる所で戦闘が行われていた。クリスは穴がないように、少しづつ移動しながら周囲を警戒していた。
すると、誰かがコソコソとしているのを見つける。
その人物は中央にある馬車に乗り込んだ。
クリスは不信に思い、銃口を向けたまま、その馬車に乗り込む。
すると、そこには荷物をあさる少年の姿があった。
「何している?」
クリスは問いかける。
すると少年は手元に隠していたナイフをこちらに向けて突進してきた。
クリスは反射的に引き金を引く。
装填されていたゴム弾は、少年の太ももに命中し、少年は投げ出されるように馬車から転落した。
その様子を見ていた山賊の一人が叫ぶ。
「失敗だ!ルアンが失敗した!」
「下がれー!」
そういって、山賊たちは少年を置いて逃げて行った。
クリスはルアンと呼ばれた少年を拘束するため、ロープを召喚する。
少年をロープで縛ったところで、アンヘルがやってきた。
「こいつも山賊の一味ですか?」
「おそらくそうだと思います。まだ確証はありませんが」
「なに、今から吐かせればよい」
そういって、アンヘルは少年と対面する。
「おいお前、名前は?」
「……ルアン」
「山賊の一味だな?」
「……言わない」
「なんだとぉ……?言え!」
そういってアンヘルは少年のことを殴りつける。
急なことで、クリスは驚いて止めに入った。
「さすがに殴るのは良くないと思いますが……」
「いいや、教育がなってないからこんな子供になったんだ。これは躾だ!」
アンヘルは何度も少年のことを殴る。
クリスは見ていられなかった。それは、陰口を言われていたクリスに向けられた視線に近いものだったからだ。
数分後、気が済んだのか、アンヘルは殴るのを止める。
「ふん、そうやって黙ってられるのも今のうちだ」
そういって、アンヘルは先頭の馬車に戻っていく。
「大丈夫か?」
クリスはルアンの元に駆け寄る。
「なんだよ……。施しは受けねぇぞ」
そう強がってはいるものの、若干体が震えている。
クリスは道具の中から、即効性のある薬を探す。
その中には、ちょうど回復ポーションというものがあった。
クリスはそれを召喚し、ルアンに飲ませようとする。
「なんだよ、施しはいらねぇって!」
「いいから飲め」
クリスは半ば無理やりに回復ポーションを飲ませる。
すると、ルアンの状態が回復する。
「ぷはっ。なんでそんなことするんだ!」
「さぁ、なんでだろうな」
クリスはとぼける。
そのままルアンを馬車に乗せ、一行は再び出発する。
クリスの横にいるルアンが口を開く。
「俺のことをどうするつもりだ?」
「さぁな、それを決めるのは俺じゃないし」
「じゃあなんで俺のことなんか助けたんだ?」
「気まぐれじゃないか?」
クリスはそういって明言を避ける。
「そんなことしたって、俺は折れねぇからな」
「……」
そんな二人の様子を、エレナは黙って見ていた。
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