第8話 攻略

 早速クリスは現状を確認するため、実際にゴブリンの巣があるという洞窟に一人で向かう。

 クリスは細心の注意を払うため、手にM4カービンを構えて慎重に行く。

 茂みから目的の洞窟を観察すると、そこにはウジャウジャとゴブリンの姿があった。

 その数、ざっと30匹程度だろうか。

 外にいるゴブリンだけでもこれだけいると、内部にどれだけ潜んでいるか分からない。

 これは後々エレナの「お告げ」を聞くしかないだろう。

 クリスはここで引き返す。大まかな数は把握したからだ。

 村に戻ったクリスは、早速エレナと相談する。


「……というわけで、おそらく巣全体としてみれば100匹程度いるだろうな」

「……『お告げ』もそう言ってる。どうするつもり?」

「どうするもこうするも、正面突破ぐらいしか考えがないんだよなぁ」

「それは考えなし。一応考えはある」

「お、どんなのだ?」

「道具を召喚する」

「……そりゃそうだろうけどさぁ……」


 クリスは思わずズッコケそうになった。

 でもその考えは間違っていないだろう。

 早速クリスはスキルを発動して、道具一覧を検索する。

 いくつかキーワードを思い浮かべてみると、何個か候補が上がった。


「ダイナマイト、手榴弾、火炎放射器……。うーん、実際に召喚してみないと使い方がよく分からないなぁ」

「じゃあ実際に召喚してみるのがいいと思う」

「そうだね……。じゃあこれ召喚してみるか」


 そう言って試しに一つ召喚してみる。

 手元に召喚したのは、M26手榴弾だ。


「……ふーん、なるほど」

「どう?使えそう?」

「うん。まぁ使えるな」


 クリスの判断通り、手榴弾は一定の範囲に対して有効な手段となりうる。特に、洞窟といった狭い場所で手榴弾を使うのは、その効果を最大限に発揮することができる環境でもあるのだ。


「とりあえず10個くらい用意しておくか」


 クリスは手榴弾専用のタクティカルベストを召喚し、そこに手榴弾を収納していく。

 それと、M4カービンのドラムマガジンも補充しておく。


「あぁ、そうだ。エレナ、腕の調子はどうだ?」

「うん、大丈夫みたい」


 そういってエレナはギプスを外す。

 どうやら腕の様子は完治しているようだった。

 ブンブン動かしても問題はないようである。


「大丈夫だな。明日はいけるか?」

「うん」

「よし、今日はもう寝るか」


 そういって二人は就寝した。

 翌日。二人は洞窟へと向かう。

 すると、ゴブリンたちの大半は巣の中にいるらしく、昨日見た数よりかは少ない。

 その理由の一つに、ゴブリンの習性として夜行性があげられる。

 そのため、目玉は大きく、闇夜に溶け込めるように緑色の肌をしていると言われているのだ。

 さらに知性が存在していることも確認されており、一説によれば人間が人間になる前の種族であった可能性が示唆されている。

 そんなゴブリンは一つの習性として、昼間に巣にこもる。

 今回、クリスたちはそれを狙ったのだ。

 もちろん、巣の入口には見張りのゴブリンが数匹いる。

 それは、今回の作戦ではエレナが暗殺する予定だ。


「よし、エレナ。準備はいいか」

「もちろん」


 早速エレナが魔法を使って見張りのゴブリンを器用に倒す。

 まったくと言っていいほど音が出ておらず、エレナの仕事としては完璧である。

 見張りのゴブリンを倒したのならば、作戦は第二段階へと進む。

 第二段階は洞窟の入口から、中に向けて手榴弾を投げ込むのだ。

 クリスは入口のそばに駆け寄ると、手榴弾の安全ピンを抜き、中に投げ入れる。

 数秒したのち、爆発音とともにゴブリンの悲鳴が聞こえてくる。

 クリスは間髪入れずに、2発目、3発目と手榴弾を投げ入れた。


「よし、入るぞ」


 クリスの合図と共に、二人は洞窟の中へと侵入していく。

 中は薄暗く、松明などの明かりがないと進めないようか感じであった。


「エレナ、明かりを」

「うん」


 エレナは魔法で、周囲を照らす明かりを出す。

 中は単純なようで、天然の洞窟をそのまま使用している感じであった。

 クリスはM4カービンを構えて、ゆっくりと前に進む。

 すると、前方からゴブリンの群れが突進してきた。

 クリスは冷静に、M4カービンの引き金を引く。

 心地よい発砲音が洞窟内に響き渡る。それと同時に何匹かのゴブリンの体が吹き飛んでいく。

 ゴブリンたちは何が起きたのかまったく分からない様子で、甲高い悲鳴をあげながら奥へと逃げていく。


「この先にボスのゴブリンがいるはずだ」

「気を付けて」

「分かってるよ」


 ゴブリンの生態として、社会性が高いことが知られている。

 ボスのゴブリンを中心に、餌などを調達してくるグループ、巣の環境を整えるグループ、そして武力を伴うグループなど、真社会性の社会構造を持つことが特徴だ。この特徴を持つ生き物と言えば、アリやハチなどである。

 そのため、ボスのゴブリンを処分すれば、巣全体の統率を失い、群れは勝手に壊滅する。

 クリスとエレナはさらに奥のほうへと進んでいく。

 すると、ひと際大きい空間へと出る。

 そこには、幼体と思われる大量のゴブリンと一回り大きいゴブリンがいた。


「あれだ。あの大きいゴブリンがボスだ」


 あのゴブリンさえ倒せば、この群れは壊滅する。

 すると、後ろから兵隊ゴブリンの群れが襲い掛かってきた。

 が、その群れはクリスに触れることはできない。

 なぜなら、エレナが障壁魔法を発動していたからだ。

 クリスはゆっくり銃口を大きなゴブリンに向ける。

 そして引き金を引いた。

 そのゴブリンに無数の穴が空く。

 ここまで空いてしまったら、もはや息の根は止まっているだろう。


「目標は片付いた!引き返すぞ!」

「分かってる」


 エレナは障壁を張っていた側の兵隊ゴブリンを倒しきると、障壁を解除する。


「このゴブリンたちも倒してしまおう」


 クリスがそう提案すると、ベストから手榴弾を取り出す。

 そしてクリスは逃げながら、ピンを抜いた手榴弾を幼体がいる方向に投げる。


「伏せろっ!」


 クリスの合図と共に、二人は洞窟の入口を飛び出す。

 直後、洞窟から爆発が起こる。そして、洞窟の天井が崩壊した。

 洞窟は完全に防がれる。

 これでゴブリンたちはここに群れを作ることはないだろう。


「……これで依頼達成だな」

「うん……」


 村に戻り報告すると、最大限の感謝が返ってきた。


「本当にありがとうございます!」

「いえいえ、依頼通りにやっただけですから」

「それでも助かったことには変わりません!どうぞ、ごちそう用意していますので!」


 そういって二人は村長の家に案内された。

 クリスはこんなに感謝されるのが久しぶりで、ちょっとだけ涙が出そうになっていた。

 こうして、二人によるゴブリン退治は終了したのである。

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