第6話 検証
クリス達は山の中で一晩過ごすことになった。
それは、エレナの体調を考えてのことだ。
クリスはコンテナの上に乗り、周囲を警戒していた。
そして、今日のことを振り返る。
「俺のスキル……『万物の召喚』って言ってたっけ?」
そう、彼のスキルのことだ。
どうやらユニークスキルとなって、ほしいものをなんでも召喚できるようになったらしい。
そのあたりの詳しいことは、検証してみないことにはなんとも言い難いが、とにかくこれまで以上に便利なスキルになったと見て間違いないだろう。
「ちょっと召喚してみるか」
そう思ったクリスは、早速何かを召喚してみることにする。
だが、そう思った手前、何を召喚していいのか分からない。
「とりあえず腹が減ったな。何か食べ物でも召喚してみるか」
クリスはスキルを発動する。
具体的なものは考えず、ただ「食べ物」とだけ考えた。
すると、コンテナを召喚したときと同じように一覧表がズラッと出てきたではないか。
その中でも、何個か光って表示されているものがある。
それらは「戦闘糧食Ⅰ型」とあった。
クリスは何も考えず、それらを召喚する。
すると、目の前に複数個の缶詰が現れた。
クリスがそれに触れてみると、缶の開け方や食べ方が頭の中に流れ込んでくる。
次にクリスは缶切りとスプーン、そして鍋に入った熱湯を召喚する。
熱湯を張った鍋に缶詰を入れ、数十分間待つ。そのあと湯から取り出し、缶切りで缶の蓋を開ける。
するとそこには温まった赤飯があった。
「いただきます」
クリスはスプーンで赤飯を口に運ぶ。もちもちとした触感がさらなる食欲をかき立たせる。
クリスはほかの缶詰も開けて、必死にほおばる。緊張状態だったクリスにとって、今の食事は最高の娯楽である。
「ふぅ、うまかった……」
クリスは缶を地面に埋めると、いろいろと試してみたい気分になった。
「この銃みたいなものってほかにいっぱいあるのかな?」
そう思ったクリスは、スキルを発動する。
今度は先ほどの一覧とは異なる表が出てきた。
その中には、ブローニングM2重機関銃やAK-47など、多種多様な銃がこれでもかと記載されている。
クリスは、試しに一つの拳銃を取り出してみる。
召喚されたものは、トーラス・レイジングブルという回転式の拳銃だ。
手元に召喚されたレイジングブルは、素早くクリスの脳内に使い方を伝授する。
クリスは弾丸も一緒に召喚し、チャンバーに弾丸を装填した。
そして銃を構えると、そのまま発砲する。
甲高い発砲音とともに、射線上にあった木の枝を軽々とへし折った。
クリスは、銃の反動から、思わず尻もちをついてしまう。
「……ははっ」
クリスは思わず笑ってしまう。こんな強力な道具を易々と出せるのならば、もしかしたら自分は恵まれているほうかも知れないと思ったからだ。
いや、それ以上のこともできるかもしれない。
そんな考えがクリスの脳内を通り過ぎ去っていく。
「とりあえず、今日は寝るか」
そうやって、クリスはコンテナの上で仰向けになって眠りについたのだった。
翌日、目が覚めると日はすでに上っている。
クリスは起き上がると、コンテナから降りて中の様子をうかがう。
エレナはまだ寝ているようだった。
このまま起こしてみようかとも思ったのだが、そうはいかなかった。
というのも、エレナの左腕には点滴が打たれているからだ。無理やりはがそうとも思ったが、コンテナのAI医師がそれを拒んでいる。
よってしばらくはこのままでいる他なかった。
「うぅん……」
すると、エレナが目を覚ます。
「エレナ!」
「クリス……。ここは?」
「大丈夫、俺が召喚した道具の中だよ」
エレナは体を起こすと、あたりを見渡す。
彼女の反応は最もだろう。
何せ、この世界ではありえないような設備が所狭しと並べられているのだから。
「……あ、腕が」
「そう、この道具で治したんだ。大丈夫?動く?」
クリスが右腕を動かすように言う。
それに合わせるように、エレナが右腕を動かそうとすると、どこからともなくアームが伸びてくる。
そしてそのアームは、エレナの右腕をガッチリと抑えつけた。
「な、なんだ?」
「muguedo na sansyae gu heigosuu dose. kakou seremudo omeitukeduseiu.」
「なんて言っているんだ?」
そこでクリスはスキルの中から、翻訳機というものを探し出して召喚する。
それは、ちょうど耳にかけるようなタイプであった。
「……右腕の損傷が激しいです。固定するまでお待ちください」
「固定……?」
そうクリスがつぶやくと、またさらに別のアームが伸びてきて、エレナの右腕になにかを巻きつける。
どうやらギプスのようであり、右腕がガッチリと固定された。
「な、何これ……」
「処置が完了しました。48時間後に取り外してください」
そんなアナウンスが流れると、コンテナ内部の装置は自動的に電源が落ちる。
「大丈夫だよエレナ、それは治療に役立つものだから」
クリスは、そうエレナに話しかける。
そんなクリスの様子を見て、エレナは小さくうなずくのであった。
「さて、依頼を達成しなきゃな」
クリスはそういって立ち上がる。
幸い、依頼の野草は回収済みだ。
あとは山を降りて、依頼主に渡すのみである。
クリスはエレナの荷物を持って、手を差し伸べる。
「じゃ、行こうか」
その差し出した手を、エレナが握る。
こうしてゆっくりと山を降りた二人は、無事に依頼を達成することができたのだった。
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