第5話 覚醒

 クリスとエレナの二人だけのパーティーは、新たな出発をすることとなった。

 もちろん、新たなパーティーとして結成したわけであるため、パーティーとしてのランクも一番下である。

 だが、それでちょうど良かったのかもしれない。それはパーティーの主であるクリスがランクの低い冒険者であったからにほかならないからだ。


「……ふう、この辺の魔物は全部討伐しきったかな?」

「……問題なし。依頼達成」


 この日は、王都近隣に生息する魔物の群れの討伐である。

 そこまで凶悪な魔物ではないため、地道な駆除作業を繰り返すのみだ。

 こうして、この日は依頼を達成したのだった。


「はぁ、こうして地道に依頼をこなしているのに、なかなかパーティーランク上がらないな」

「……仕方ない。こういうのは日々の積み重ねだから」

「そりゃそうだろうけどさ」


 そんな会話を交わしつつ、彼らは次の依頼を受けに行こうと酒場を訪れる。

 しかし酒場に入っても、以前のパーティーの影響か、いまだに陰口を叩かれる始末だ。

 だが、彼らは気にしない。それは時間が解決してくれたようなものであるからだ。

 そんな所に、以前のパーティーであるステファン達と遭遇した。


「あっ……」

「クリス……」


 お互いに気まずい空気が流れる。なるべく顔を合わせないようにいた二組であったが、いつかはこうなる日が来ると薄々感じていたようだ。


「……やぁステファン。うまくやってるか?」

「まぁ、おかげ様でね。もうすぐでパーティーランクがSになりそうなんだ」

「そうか。俺のおかげかな」

「……笑えないジョークはよしてくれ」


 お互い、出方を伺っているようだった。なんとも言えない空気が周辺を満ち満ちていた。


「……じゃあ、僕たちはこの依頼でも受けてくるよ」


 そういってステファン達は酒場を去っていく。

 緊張感に包まれていた酒場は形だけの平穏を取り戻した。

 それと同時に一層の陰口が聞こえてくる。


「行こう、エレナ。長居するような場所じゃない」

「うん」


 そうして彼らは新しい依頼を受けるのであった。

 今度の依頼は、とある野草を採取してほしいというものだ。

 その野草は険しい山の中にあるため、普通の人は入れない。そのため、定期的に冒険者に依頼しているとのことだ。

 クリス達丸一日かけて準備をし、目的の山に向かう。

 その山は王都から半日ほどの所にあるという。この程度の距離なら近場である。


「いやぁ、この前採取した野草の使い道が多くて備蓄が足りなかったんだよ。君たちが取ってきてくれるなら報酬は弾むよ」

「ありがとうございます」

「これ、目的の野草が自生してる地図と見分け方のメモ。なるべくなくさないように頼むよ」

「分かりました。ではすぐにでも行ってきます」


 そういってクリス達は山に入っていく。

 山の中は鬱蒼としており、10m進むのにも大変な労力がかかる。

 そんな中、クリスは自分で召喚した鉈を使って雑草や木の枝を切り進めていく。そしてその後ろをエレナがついていく。

 しばらく進んでいくと、崖が目の前に広がる。

 地図にはこんな崖は記されていない。どうやら最近になってできたようだ。

 幅は数m程度だが、余裕を見たほうが良いと判断する。


「しょうがない。何か道具を召喚するか」


 そういってクリスはスキルを使って、何かを有利になるような物を召喚しようとする。

 何回か召喚を行ったところで、出てきた道具を確認した。


「これは……、ワイヤーガンか。これなら使えそうだ」


 クリスは拳銃型の道具を手にして、そう呟く。

 クリスのスキルは便利な物で、召喚したものに触れると、その道具の使い方が頭の中に流れ込んでくる。

 そのため、初見の道具でも、難なく使う事がでできるのだ。

 早速クリスはワイヤーガンを対岸に向かって射出する。

 それはうまく木の幹に引っ掛かり、対岸までの橋渡しができるようになった。

 そんな困難も乗り越えること数時間。

 やっとも思いで野草が生えているエリアに到着した。


「さて、こっから探し回らないといけないのかぁ」

「大丈夫、任せて」


 そういってエレナは自分のスキルを発動する。

 すると何かを感じ取ったか、エレナは目を見開いた。


「何か来る……!」


 その直後、近くの雑木林から何かが飛び出してきた。

 それは真っ赤な体毛をした小柄な狼であった。

 ベニスズメオオカミである。体長は1mもないほど小さいものの、それゆえのすばしっこさと貪欲さを兼ね備えた面倒な狼だ。

 そんな狼が1匹で目の前に現れた。

 本来狼は群れで狩りをするものだが、ベニスズメオオカミは1匹で狩りをすることが多い。それはこの狼が持つすばしっこさが関係しているからに他ならない。

 ベニスズメオオカミが二人のことをじっと見つめると、急に飛び込んできた。

 ベニスズメオオカミはまっすぐエレナへと突っ込んでいく。

 そしてそのまま、エレナの右腕に噛みついてきた。


「いっ……!」

「エレナ!」


 ベニスズメオオカミはエレナの腕を引きちぎろうと、必死に噛みついてくる。

 それをすぐそばで見ていたクリスは一瞬何が起きたのか分からなかったが、次の瞬間にはすでに行動を起こしていた。


「エレナから離れろ!」


 クリスは腰に帯びていた剣を抜いて、ベニスズメオオカミの首元を狙う。

 だが、小柄ながらに力があるベニスズメオオカミの、後ろ足に蹴られて吹き飛ばされてしまう。

 その間にも、エレナの腕はどんどん噛まれていく。

 その様子を見て、クリスは次第に絶望に打ちひしがれていく。

 そして発狂した。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 その瞬間、頭の中にファンファーレが鳴り響く。


『スキル「召喚」は、ユニークスキル「万物の召喚」に進化しました』


 そんな声が響く。

 次の瞬間、クリスは意思に関係なく、スキルを発動した。

 その手には、小銃らしきものが握られている。

 小銃の名前はM4カービン、ドラムマガジンタイプだ。

 クリスはM4カービンを構えると、全力で引き金を引く。


「うおぉぉぉ!!!」


 周囲に軽快な破裂音が響きわたる。

 それに合わせるようにベニスズメオオカミの肉体が飛び跳ねた。

 すべての弾を撃ち切ったところで、クリスはオオカミの様子を確認する。

 ベニスズメオオカミは息絶えているようで、ピクリとも動かない。


「……エレナ!」


 クリスはM4カービンを落としてエレナの元に駆け寄る。

 エレナは右の二の腕を深く噛まれており、所によっては骨が見えている。


「ど、どうしよう……」


 クリスを狼狽えてしまう。

 どうしたらいいか、クリスは考えた。

 そして思いつく。

 先ほど、スキルが進化したと言っていた。

 ならば方法は一つしかない。


「医療品を召喚する!」


 すると、クリスの目の前に何かが現れる。それは何かの一覧表のようだった。

 そしてその中でも一つ何かが光っている欄がある。

 そこには「コンテナ医療ユニット(全自動)」とあった。


「とにかく召喚だ!」


 何がなんだか分からないが、とにかく召喚する。

 次の瞬間、すぐ横の土地にコンテナがドンと現れる。

 クリスは混乱しているが、とにかくエレナを中に運び入れた。

 クリスがコンテナに触れた瞬間、このコンテナの使い方が頭の中に流れ込んでくる。

 クリスは急いでコンテナ中央にあるベッドにエレナを横たわらせる。

 そして電源を入れて、外に出る。

 あとは全自動で治療をしてくれるだろう。


「エレナ……」


 数時間後、エレナの手術は無事に成功した。

 あれだけ骨が見えていた二の腕も、その陰は見られない。


「クリス……」


 エレナはまだ麻酔が効いているのか、非常に眠そうだ。


「エレナ、大丈夫。ゆっくり休んでな」


 そういうと、エレナは再び眠りに着いたのだった。

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