第4話 パーティー脱退

 クリスがステファンのパーティーに加入して早1年。

 彼らは着実にパーティーとして名を上げていくようになった。

 パーティー全体の実力を図るランクもAとなり好調である。

 そんなある日のこと。

 一行は王都からそこそこ離れた場所にある村に来ていた。

 なんでもそこには出来たばかりのダンジョンが存在し、村に危害を加えているとのことだった。

 そのようなわけで、一行はそのダンジョンを攻略すべく中に入ったのだ。


「これはかなり大きそうだ。トラップもいくつか設置してある」


 先頭を行くステファンがそう呟く。

 彼自身、この1年でかなり成長していて、実力もスキルも見違えるほどである。言うならば、彼の持つ「万物の創造」は、限りなく多種多様な物体を生成することができるようになった。

 もちろん、テニーやセシリアも相応の成長をしている。

 一方でクリスはどうかというと、実はあまり成長していなかった。それには理由がある。

 それは完全に後方での働きになっているからだ。

 例えば、彼の道具を召喚するスキルはステファンのスキルの下位互換でしかない。これはクリス自身、うすうす気が付いていたことである。

 それに加え、クリスの能力は少し癖がある。実は、欲しい道具があったとしても、それに類似する道具が召喚されるというのだ。これは例えるなら、剣が欲しいと考えて召喚しても、実際に召喚するまでどんな剣が出てくるか分からないのだ。

 それならば、ステファンのスキルで目的の剣を作ったほうが早い。

 そのようなわけで、クリスは現在、パーティーの雑用や荷物番をするのが多くなっていたのだ。

 実際このことによって、クリスは現在肩身の狭い思いをしている。


「たっだいまー!」


 そんなクリスの待つキャンプに、他の4人が帰ってくる。


「お帰り、どうだった?」

「ばっちりだよ。このダンジョンの地図も完成したしね」

「それよりも腹減っちまったよ。今日の飯はなんだ?」

「今日は近くでイノシシが捕れたから、イノシシのシチューにしてみたよ」

「ほぉう。どれ……」


 クリスから料理を受け取ったテニーが一口ほおばる。


「……うん、まぁ美味いな」

「そっか、良かった」

「僕も貰おうか」

「はい、どうぞ」


 そんな感じで彼らは今日もダンジョンを攻略していく。

 だが、そのような日々は長くは続かなかった。

 それはクリスも、他のパーティーメンバーも薄々感じていた事だった。

 ある日、クリスはステファンに呼び出される。


「何、話って?」


 とある宿屋の部屋に入ったクリスは、他のパーティーメンバーが神妙な面持ちでいることに気が付く。


「クリス、落ち着いて聞いてほしい」


 そうステファンが切り出す。


「な、なんだよ。そんな深刻そうな顔して」

「実際深刻だからだ」


 そういったステファンは口を開く。


「すまない、クリス。パーティーを抜けてくれないか」


 クリスは頭がグラッとする。だが、なんとか正気でいられた。それはいつかそのような言葉を言われると感じていたからだ。


「……なんで急にそんなことを言うんだよ」


 クリスは抵抗を見せる。


「君も知っているだろう。僕たちのパーティーは他に類を見ないほどの成長をしている」

「そりゃそうでしょ。冒険者学校主席で卒業のステファンに、剛腕のテニー、史上最高の魔女セシリア、予言者のエレナ……。皆何かの二つ名がついている」

「でもお前には何もついてない、だろ?」

「っ……!」


 これは事実だ。皆大層な二つ名がついているのにクリスにはこれがない。

 それはもちろん、クリスが大した活躍をしていないからに他ならない。


「けど私、クリスにつけられている二つ名知ってるよ」

「どんな?」

「……お荷物」


 これも事実だ。


「でも、何かしら役に立ってるよな?ほら荷物番とか調理担当とか……」

「ねぇ、クリス」


 クリスの言葉をセシリアが止める。


「実はね、クリスに言ってないことがあるの……」

「な、何?」

「実は、クリスの料理あんまりおいしくないの」

「……は?」


 彼にとって初耳である。今まで作っていた料理が不味いなんて、クリスにとってみれば自分の存在価値をなくすほどのものだ。


「そんな……今まで何にも言ってくれなかったじゃないか!」

「そりゃ言えないよな。なんせパーティーの士気に関わるからな」


 そう、冒険者パーティーや軍にとってみれば、食事というのは最大の娯楽でもあるからだ。

 そういった場合、料理が下手なクリスのパーティー脱退はある意味正しい判断なのかもしれない。


「だからクリス、俺たちのためにもパーティーを抜けてくれないか?」

「……なんだよ、1年前は家族のようなものだって言ってくれたくせに!」

「それとこれとは状況が違うんだ。それに、家族ならそれ相応の絆のような物があるが、僕たちは冒険者、意見の食い違いがあるなら抜けても羅うしかないんだ」

「っ!」


 クリスは何も言い返せなかった。


「それに、お前はうちのパーティーの汚点でもあるんだ」

「テニー!」

「事実だろうがよ」


 テニーに汚点呼ばわりされたクリスは、もはや怒りの感情に支配されていた。


「分かったよ!俺が抜ければ解決なんだろ!そうしてやる!」


 クリスは啖呵を切って、部屋から出ていった。

 ここが王都だったのが幸いだった。クリスは冒険者ギルドに直行し、そのままパーティーを脱退する旨の書類を提出したのだ。

 すると、今まで聞こえてこなかった声が聞こえてくる。


「クリスのやつ、やっと脱退か」

「よく今までお荷物出来てたな」

「俺だったら最初からパーティーに入らねぇぜ」


 誰も彼も、ヒソヒソと陰口を叩いている。

 こんな所にいられない。

 そう考えたクリスは素早くその場をあとにした。


「……これからどうしよう?」


 怒りのあまり、着の身着のままで飛び出してきたクリス。

 今更、元パーティーメンバーのいる宿に戻れる気がしない。

 その時、後ろから誰かが肩を叩いた。

 振り返ると、そこにはエレナの姿があった。


「エレナ……。なんで?」

「……これ、荷物」


 宿にいたときは一言も話していなかったエレナ。

 ご丁寧に荷物を持ってきてくれたようだ。


「どうも。……早く戻りなよ。こんなところにいたら変な噂が立っちゃうから」

「いい。私にはもう戻る場所なんてないから」

「は?どういう事だよ?」

「私もパーティー抜けてきた」


 衝撃の事実である。


「は!?なんでお前まで抜ける必要があるんだよ!俺が荷物だってこと知ってるだろ!」

「……『お告げ』がそう言ってた」


 どうやらエレナはスキルの「お告げ」の通りに元のパーティーを抜けてきたようだった。


「はぁー……。頭悪いだろ、お前」

「……失敬な。少なくともクリスよりは良い」


 エレナはムッとした表情をする。


「まぁ良いや。んで、エレナはどうしたいんだ?」

「クリスのあとについて行く。それだけ」

「あっそ。じゃあ何か依頼でも受けに行くか」

「……うん」


 こうしてクリスとエレナの二人の旅が始まるのであった。

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