9.芝宮涼子は助けを得る
そして翌日、いつもの通り大戸先生が、僕らを集めて連絡事項を伝える。
それを聞いて、町山先輩ほか部員たちは大いに驚いていた。
「なんで、芝宮が試合に出られるんですか!こないだ不祥事おこしたじゃないですか!」
芝宮先輩が、父親の車に乗って、部活中に抜け出したことは、先生に伝わっていた。しかし、それについては何の罰則もなく、競技会への参加は予定通り行われることになった。
理由はいくつか存在する。
「芦田、怪我しちゃったしなー」
僕は、足に包帯で松葉杖をついている。
「……芦田ぁ! お前何してんだよ!」
「いや昨日、足にタンスおとしちゃって」
大嘘である。僕の足には、昨日コンビニで買った包帯がただ巻いてあるだけだった。
「……じゃあ、百道!」
「あたしもー、昨晩階段で転んじゃってー、痛くてー」
百道、腕をだす。包帯が巻かれている。おなじく、発案者の百道も同じことをしていた。
「なっ」
町山先輩が目を丸くしている。
そして、芝宮先輩も驚いた顔をしていた。
「町山ぁ、昨日の芝宮の話だけどな、聞いたら車の人お父さんなんだと」
芝宮先輩、驚いて僕と百道を見る。この話を知っているのは僕らだけだ。そして僕らは芝宮先輩に黙って、その事を大戸先生に伝えていた。
僕は遠目から芝宮先輩に「ごめんなさい」と小さく手で謝った。
「勝手に抜け出したのは問題だが、今回は一年の怪我とか、芝宮んとこの事情もあるから、まあ見逃すことにしたから」
「なら、その父親が、車で馬脅すのはどうなんですか!」
「そん時は、すぐ俺よんで」
「で、でも」
町山先輩は食い下がる。すると大戸先生が面倒臭そうに言う。
「町山ァ、お前さ……もしかして芝宮みたいなのに……なんか歪んだ性癖もっとらんだろうな?」
「えっ」
その場にいた全員が驚いた。
「いや、お前ンとこの先生がさ、こないだお前んクラスで回し読みしてたエロ本没収してな、それどうもギャルモノだったって聞いたからさー?」
「……!」
キツイジョークだった。
しかし、一瞬間を置いて、馬術部の連中はこらえきれず爆笑した。
一方の町山は真っ青になって、黙りこくっている。
「……まぁ人を貶めるのもほどほどにしたほうがいいぞ? お前の言ってることもわかるけどな、世の中は、真面目さだけやまわらんのだからな」
「……」
町山先輩は何も言わなかった。
「……じゃあ話は終わり、はーい、ほいじゃ練習にもどって」
それから大戸先生は、町山先輩に大したフォローをすることもなく、そそくさと校舎に戻っていった。
一方の町山先輩は、居心地悪そうに、その場を離れた。
そして、芝宮先輩が僕と百道のそばに来る。
「あんた達、あたしのこと話した?」
「すいません……でも余計なことは言ってないです」
僕は重ねて先輩にわびた。そして百道が尋ねる。
「先輩、馬乗りたいんですよね」
「そりゃ、そうだけど……」
芝宮先輩は僕と百道の怪我を見る。
「その怪我さ、ふたりとも、仮病でしょ?」
「……わかります?」
「バレバレ。でもさ、大会まで1ヶ月以上あるよ。ずっと怪我のフリするの?」
「あ、そうか……」
「あー、どうしよう?」
僕らは顔を見合わせる。そして笑う芝宮先輩。彼女は、最近ちょっと笑うようになったと思った。
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