4.芝宮涼子は抜擢される

 掃除が終わると、顧問の大戸先生が現れて、僕らを厩舎前に集めた。

 定例で行われる、連絡事項の伝達だ。


「知っての通り一ヶ月後に競技会がある。小さな大会だから、今回は出場メンバーが限られる。今より読み上げる者に参加してもらう。ほかは当日サポートになる」


 馬術部というのは、ほかの部活とかわらず大会や競技会が存在する。僕らはそれを一つの目安として、部活をこなしていた。

 まだ一年なのでさほど詳しくないが、今回は小規模らしい。

 先生は話しをつづける。


「参加者は三年から、吉田、秋山、高杉。二年から、天場、町山、芝宮、以上」


 ざわめきが起こった。

 芝宮先輩がメンバーに入っていることに驚いている。芝宮先輩は、まだ馬にすらまともに乗ったことがない。

 すると、部長の吉田先輩が口を開いた。


「芝宮ですか?」

「そうだ。初級スラロームやってもらうから、一年にまじって練習するように」


 つかさずまじめクソ野郎の町山先輩が、説明に割って入る。


「芦田とかじゃないんですか?」


 芦田とは僕のことだ。


「学年の順番でいえば芝宮だろ」

「だって芝宮ですよ? 途中から入ってきたし、ウチの学校の品が問われるんじゃないですか?」


 町山先輩は、芝宮の外見を揶揄した。


「町山、喧嘩売ってる?」


 さすがに芝宮先輩が文句を言う。


「じ、実際そうだろ、髪とか茶色いし」


 町山先輩、ビビりながらも応える。すると大戸先生が芝宮先輩に聞いた。


「んー、芝宮髪は染めてこれるか?」

「……あ、はい。黒くします」

「なら、よし」


 その様子をみた町山先輩は、不満げだった。


「でも先生、俺ら練習あるんで、芝宮に教えたりする暇ありませんけど」


 吉田部長が言った。


「ん、んー。じゃ、一年、お前ら芝宮に教えてやれ、もうできるだろ、常歩速歩くらいなら」

「ええっ!」


 急に名指しをされて、僕と百道は驚いて同時に声をあげた。

 まじですか、ここで?

 そりゃ芝宮先輩よりは馬になれしたしんでいるけれど──


「いいか、人に教えるってことはな、自分のやってることの復習にもなるんだ。だから、しっかりやるんだぞ?」


 大戸先生はもっともらしいことを言った。

 僕らはげんなりし、町山先輩は失敗を願ってほくそ笑む。そして、芝宮先輩は傍らで目を輝かせてめちゃくちゃ嬉しそうにしていた。

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