3.芝宮涼子の気になるハテナ

 なぜギャルである芝宮涼子がいるのか──確かにそれは謎だった。芝宮先輩は二学期の頭に、ほかの部活から突然馬術部に移ってきたのだ。いままで、馬になんて接したこともないにもかかわらず、だ。


 僕らは掃除をしようと馬房にもどる。すると掃除作業を再開していた芝宮先輩がやってきて僕らに尋ねた。


「……何か言われた?」

「い、いえ、なにも」

「……ふーん」


 それから、芝宮先輩は、おもむろにブラシをもって一頭の馬がいる馬房に入っていく。


「ちょ、先輩なにしてるんすか」


 百道が言った。


「なにって? ブラシしてあげようかと」

「その子、気性荒いからあぶないですよ……先生じゃないと」

「え、平気じゃん?」


 芝宮先輩、なんと平然とブラシをかけ始める。馬は特に反応をしていない。というか、馬は人を見るというから、芝宮先輩に気圧されているのか、或いはギャルにブラッシングされて喜んでいるのか。


「あのー、勝手をされると俺たち怒られちゃうので」


 僕は、さっきの町山先輩の剣幕が頭をよぎり、面倒くさいことになる事を懸念して芝宮先輩に言った。

 すると芝宮先輩が言葉を返した。


「……さっきさ、あんたら町山に何言われたの?」


 僕と百道に一瞬緊張が走る。


「いや、その……何もさせるなって、町山先輩が」


 それを聞いて芝宮先輩は、息を吐いた。


「出てけっつんなら行くけどさ、やることないんだよねー、みんな何も教えてくれないしさー」


 芝宮先輩は、僕にブラシを僕に渡すと、馬房を出ていった。僕と百道は胸をなでおろしたけれど、コレでよかったのだろうか?


「いっちゃったな」


 僕は百道に言った。


「芝宮先輩ってさ、二年になって、なんでわざわざ馬術部に入ってきたんだろうね? ギャルなのに」

「ギャルは関係なくね?」

「そう?」


 関係ないにしても、実際柴宮先輩にはいい噂は聞かない──この牧歌的な土地柄にあって夜遅くまで遊んでるとか、地元のヤクザめいた若衆と付き合いが深いとか──

 たしかに芝宮先輩が馬術に入部した理由が気になる。


 僕がやらなきゃいけない事を強いられているように、芝宮先輩も何かを強いられているのだろうか?

 例えば、何かの罰ゲームとか? 或いは、学校の内外に馬術部がらみで、狙っている男子がいるとか?

 何れにしても理由がなければ、こんな馬糞まみれの馬臭い部活は務まらない。僕はそんなことを思いながら、百道と掃除を再開した。

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