小鳥の心音(旧)

雨世界

1 私たちが出会ったのは、運命なのかな?

 小鳥の心音


 登場人物


 日下部心音 高校二年生 女子


 大熊蘭 高校二年生 心音の友達 女子


 丸川滴 高校二年生 男子


 プロローグ


 私たちが出会ったのは、運命なのかな?


 本編


 ……とくん、とくん、と君の音が聞こえる。


 日下部心音が丸川滴くんと出会ったのは、小学校に入学して、すぐの四月のころだった。その日、二人が初めて出会った日、心音は滴くんと友達になった。(初めてできた、男の子の友達だった)


 それから心音は、小学校を卒業するまでずっと、滴くんと友達だった。


 心音が滴くんから教えてもらったことは、たくさんある。

 他人に対する思いやりだとか、優しい言葉遣いだとか、暖かい、人を元気にできる笑顔とか、先生や教室のみんなに対する気持ちだとか、ささやかな思いやりだとか、……それから、人の手の暖かさだとか、……あとは、誰かと別れることになる悲しさだとか、……そういうことだ。


 滴くんから教えてもらったたくさんのことは、今の十六歳の心音のあらゆることを、この多感な時期に、形作ったと言ってもいいと思う。

 それくらい、人生において、生きていくことについて、いろいろなことを心音は滴くんから教えてもらったのだった。

 自然と、滴くんと一緒に遊んだり、勉強したり、おしゃべりしたり、することで、心音はそういったとても大切なことを学ぶとができた。


 ……心音は本当に滴くんと友達になれて良かったと思った。

 小学校時代の心音は本当に幸せだった。

 心配事なんてなにもなかったし、未来はいつも、明るくて、そこには希望が、無限の可能性がいつでも、(あるいはいつまでも)待っていてくれるように思えていた。(もちろん、実際にはそんなことはないのだけど……)


 ありがとう。

 ……本当に、ありがとう。滴くん。


 小学校の卒業式の日に、別々の中学校に通うことになる、滴くんのことを、遠くから(滴くんに、気づかれないように)ちらちらと、見ながら、さっきからずっと、みんなと一緒に、ぽろぽろと泣いている心音はそう思った。


 さようなら。滴くん、

 ……滴くんのおかげで、きっと私は今日までの小学校の六年間を、ずっと幸せに過ごすことができました。


 ……ありがとう。……本当に、ありがとうございました。……丸川滴くん。さようなら。別々の中学校にいっても、……私のこと、忘れないでね。


 三月。

 桜の舞い散る風景の中で、日下部心音は小学校を無事に卒業した。(それはずっと伝えることができなかった、心音の初恋が、心音の本当の気持ちが、……心音に勇気がなかったから、ちゃんと丸川滴くんに伝わることがなくて、きちんと二人が結ばれることなく終わった日でもあった)


 それから次に、日下部心音が丸川滴くんと出会ったのは、二人が別々の町にある別々の高校で、高校二年生になった、春の四月のことだった。


 ……その日、二人のいる町には、二人が最後にさよならをした、小学校の卒業式の日と同じように、たくさんの桜の花びらが優しい春の風の中で舞っていた。


 その桜の花びらの舞う風の中に、頑張って青色の空の中を飛んでいる一羽の小鳥の姿を、高校二年生になった日下部心音は一人、静かに見つめていた。

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