第6話 よく笑うあなたと

 やめた、という言葉

 聞き間違えではなければ、いや、この距離で聞き間違えるわけがないからこの言葉は久米くめのものだ。


 その言葉を発した久米に慌てて確認する。

「やめた!ってどういうことだ?」

「なんか………そんな気になったの!」

 はぁ……!こいつという奴は………!

 告白をやめたっていうのにめっちゃ笑顔じゃねぇか。

「ほら、陽悟ひごくんに連絡して!告白はやめるって」

「……はいはい、分かりましたよ」

 自由で勝手で元気で良く笑う奴だ………。


 陽悟に連絡して、サッカー部の先輩には帰ってもらう。

「もう一度聞くけど、なんでやめようなんて思ったんだ?」

「………なんか、他の人と話してるの見たら、熱が冷めちゃった!」

 ………その場の気分で変わるようなものだっのか。

 今までの彼氏はかわいそうだな………。

「………まぁ、久米の依頼だからな?久米が自分で決めてやめたんなら別に良いけどな」

「うん!そうそう。大丈夫大丈夫!」

 ほんとに…………こいつは………!

 俺も今日まで結構頑張って手伝ったのにそれが全部無駄になったって分かってんのかな。


「ねぇねぇ!」

「今度はなんだよ」

「私!雨芽うめくんの部活、入りたい!」

「え」

 いやだ、無理だ。

「もしかして、依頼?」

 聞いてから思った。

 やべぇ!墓穴掘った!

「うーん。………そう!そうそう!そうだよ!」

 あぁ………。

 断ることも出来ないんだよな………。

 だって、そういう部活だし………。


 一応言い訳じみた反論をする。

「別に部員なんて募集してないし、めっちゃ退屈な部活だぞ?人助けなんて言ってるけど、やってることは雑用みたいなものなんだぞ?」

「良いじゃん慈善事業!私、前からやってみたかったんだ!」

 …………だめかぁ。

「それに今回お世話になったし?恩返しというものも含めて、私も部活手伝うよ!」

 いらねぇ…………。

 こんなにいらないと思った恩返しは初めてだ。

「それにあの部室、居心地良かったし!だから居させて!」

 どんな理由だよ?

 放課後に居心地を求めるとかなんだよ……早く帰れよ。


「じゃあお前、部活とか入ってないのか?他に入ってるものあるなら、そっちを優先した方が」

「バスケ部だけどスタメンじゃないし平気平気ー!」

 これもだめかぁ………。

 はぁ、もうやめて?

 すっごい笑顔でこっち見てこないで?

 俺のじとっとした目に気づいたのか、久米は姿勢を直した。

 そしてうーん、と言って何かに迷っている。

 そうだ!その調子でこの部に入るという愚かな決断を取り消せ!

「これからお世話になります!雨芽部長!」

 違うそうじゃない。


 ビシッと手を額の横に置き、指を揃えて敬礼している。

 ねぇさっきからずっと笑ってない?

 もしかしてからかってんの?

「思ったんだけどこの部活の名前ってなに?」

「…………知らね……」

 久米はほんとに部活に入るつもりのようだ。

 ……はぁ。

 久米に言われてようやく気づいたけど、そういえばこの部まだ名前無いな。

 ………名前あったら本格的に部活だな、まじで。

 ……はぁ。


 最近溜め息が増えてる気がする………はぁ。

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