第7話 真面目なあなたと
正直高校のテストなんて暗記で乗り越えるものだと思っているので不安に思っていることは少ない。
理系の問題も数学の一部を除いて暗記で乗り越える。
久米は入ってすぐに、誰かと一緒にテスト勉強する為どっかに行ってしまった。
……「話したいことがある」ってもうおしゃべりする気しかないじゃん。
勉強する気あるのかな。
この人助けも他の部活動と変わらずテスト一週間前まであるので今日も平常通り活動だ。
コンコンコン。
いつものように扉をノックされる音。
「どうぞ」
声をかければ入ってきたのは女子が一人。
「こんにちは」
無表情で挨拶をしてくる。
「
「はい、そうです」
入ってきたのは去年同じクラスの
同じクラスだからって別に繋がりがあるわけではないが、事実がそうなんだから仕方ない。
俺はこの女子をよく知らない。
名前覚えててくれたんだ嬉しいな。
「場所を、貸してほしいのだけど」
「……はぁ、そうですか」
「
あぁ違う多分これ菊瀬先生から名前聞いたわ。
っていうかさっきからなんで同級生相手に敬語なんだよ俺は。
よし、態度を変えよう。
「この時期なら、テスト勉強か?」
「えぇ、そうね。自習室に行こうとも思ったのだけれど、三年生で埋まっているから」
たしかに。
この高校は自習室が用意してあるがやたら席が少ない。
自習しようにも三年生がほとんど席をとってしまうため二年生や一年生は自習室を使えることは少ない。
「座っていいぞ。自由に。依頼を受ける」
先程から立って話している櫛芭に座るよう促す。
ついでに使って良いよってことも伝えておく。
断ることなんて出来ないけどね?
それっぽい雰囲気を出したかった。
「そう。ありがとう」
近くにあった椅子に座り、学校鞄ではなく手に持っていたトートバックから勉強道具を出す。
あ、そのトートバック知ってる。
Youtubeのピアノで有名な人のグッズだ。
意外とそっち方面にも趣味あるんだな。
俺も成華せいかに勧められて何度か聞いたことがある。
「家で勉強すれば良いのに。とかは言わないのね」
唐突に櫛芭が言う。
たしかに自習室を使えないのなら、諦めて家で勉強する選択肢もありそうだが。
「別に。学校の方が集中できるとかいう人もいるし。あまり珍しいことでもないだろ?」
そこらへんに踏み込んでいっても個人差で片付けられそうだし適当にいなしておく。
「それに、俺は受けた依頼をこなすだけだ」
「………そう」
櫛芭はなかなか手の進みが悪いようで、教材をじっと見つめながらじっと硬直している。
分からないところでもあるのだろうか。
「私………二年生になってから更に頑張らないといけなくなったから」
握ったシャーペンを手の上で転がしながら櫛芭は言葉を続ける。
「こんなに真剣に勉強してるなんて、おかしいかしらね……」
さっきから何か不安なのか、やりたいことと言っていることが矛盾している。
この高校じゃ勉強のやり過ぎなんて誰も咎める人はいないと思うけど……。
都内でも有数の上位校だし。
姉が既に行っていたとはいえ、志望校を先生や同級生に教えたときはかなり驚かれた。
まぁ、それで同じ中学でここを受験する人がいなくて一人になったんだけど。
「………勉強する場所が欲しいなら、俺もやるよ」
「え?」
言葉の通り俺も勉強することにした。
「え?別に雨芽くんはやらなくていいのに」
「いいよ、どうせやらなくちゃいけないことなんだし」
テストは誰しも平等に来るものだ。
「それにな櫛芭、自習室ってのは自分を追い込むためにあるものなんだ」
ポカンとしている、話を続けよう。
「周りの人が頑張っている中、自分だけちんたらやってたら罪悪感が襲ってくる」
塾で講師が言っていたことを丸パクリする。
あなたの教えはちゃんと活かされていますよ。
退塾するとき教えてもらったけど、あそこで教えてる人って八割くらいアルバイトなんだってね。
………あ、いけないこれオフレコだった。
「みんながやっている。みんなそうしてる。そんなことをみんながみんな思っているから自習室は成り立つんだ」
特に日本人は顕著。
データとかないけど多分そう部分的にそう。
「だから俺も勉強して、その自習室の気分を味わせようと思ってな」
ふっと櫛芭が息を吐く。
「なによ、それ」
櫛芭はここに来て初めて笑う。
こいつでもやっぱり笑うことあるんだな。
俺は心の中でそう思った。
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