"開花再生"-1

 10分くらい経ったろうか。

 やっと落ち着いたあたしを、章はまるで取扱注意の細工でも扱うようにゆっくりと抱擁を解く。

「…ごめん。取り乱した」

「いいよ。っていうか、嬉しかった。これで、元どおり、ってか…」

「うん。ありがとう、章」

 続けたいと思っていた言葉が、羞恥心と性格がハードルになってすぐ出てこないけれど、泣いた勢いで口にしてしまえという思いが気持ちのアクセルをベタ踏みにする。

「…これから、改めてあたしと……一緒にいてくれる?」

「………はぁ」

 気の抜けたコーラのように肩をがっくりと落とす章。何か悪いことでも言ったかな。

「……やっと、ここまできた。やっとだよ。長かったぁ。苦節10年ですよ」

「そ、それは、ごめん」

「いや、謝ることじゃないんだ。俺もヘタレだったからさ」

「そんなことは、ないと思うけど」

 あからさまに態度が変わっているあたし。 

 けれど、恥ずかしげもなくそんなことをしてしまうくらいには弱っていたし、それくらいに、あの手紙の件を解決できたのは個人的に大きかったのだ。

「そう?ならいいけど…あ、そろそろ帰らないとか」

「え…」

 まるで雨に濡れた子犬が、やっと飼い主を見つけたとでもいうように見えるかもしれない。自分の弱さを認めてしまったあたしは脆かった。

「…明日、土曜日じゃん」

 恐ろしいことを口走り始める。

「そうだけど…え?」

「あ……いや……えっと」

 自分の言葉がどう捉えられるかすら深く考えずに、口にした言葉は、けれど消えてくれない。口から出た発言を取り消すことなど、誰にもできないのだ。

「……えー……あ、雪帆!雪帆にも話した方がいいよな」

「……そうだけどちょっと待って」

「何?」

 あたしは、そのまま有無も問いもなく、そのまま章に真正面から抱きついた。

 さっき、抱き返せなかったから、っていうのもある。

「…ちょ……瑞帆?」

「ちょっとだけ…まって」

 キャラ変しすぎなのはわかる。まるで自分じゃないのもわかる。

 こっちが本来の性格だとも思わない。

 恥ずかしいという思いももちろんある。

 けれど、今この時間に強がる意味は、なくなった。

「…章」

「なに?」

「あたし…こんなでごめん」

「さっきから謝りっぱなしだな、お前」

「だって…多分いっぱい迷惑かけたし…嫌な態度取ってきたと思うし…」

「瑞帆がどんな気持ちでしてたのかわかったから、いいんだよ」

「……ありがと」

 ゆっくりと一度頭を撫でられて、そこであたしはゆっくりと、章の背中に回した腕を解いた。

「雪帆、声かける?」

「そうだった。いくべいくべ」

「うん」

 部屋から出て、隣の雪帆の部屋をノックする。

 二人で並んで尋ねるなんて、何年ぶりだろうか。

 そして彼女は、手放しで喜んでくれた。


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