"その蕾が開く鍵"-4
家に帰り着くと、傘を納めてさっき帰ってきたときと同じ様に制服にシワができることも気にせずベッドに突っ伏した。
そうしたら、なぜか昔のことが思い起こされた。
さっきの
めまぐるしい。学校から帰ってきたときに巡っていたものとは違う。
あたしの。
きっと闇の部分。
夢にも思いたくない、おぞましい記憶が、大体2年分存在する。
最初の記憶は、インパクトで覚えているのだろう。
中学二年から三年の時。
ペンケースの中身がバキバキに壊されていた。
普通にトイレの個室に入っていたら、頭上からバケツ2杯分の水が降ってきた。
少しして上履きがズタズタになっていたからまとめ買いした。
燃やされた教科書に関しては担任に予備を補充してもらった。もちろん燃やされたなんて言わない。適当な理由をでっち上げた。
その日最後の授業が体育だったせいかサボっていた人間たちがあたしの制服を隠し持ち、放課後呼び出されたと思ったら目の前で火をつけられた。
体操着のハーフパンツの下腹部、股間部分と、上着の乳房の部分が切り取られていた。どうせ下着とかつけるから大きなことはないけれど、着れたもんじゃなくなった。
丁寧にとっていた授業のノートのページが、全て油性マジックで塗り潰されていた。それから、やられる前にコピーを取る様になった。
学校の机の中が油まみれになっていた。置き勉をやめた。
先生に貸し出してもらった教科書が、誰かの精子まみれになっていた。これは結果自分で燃やした。
机の色は日々変わる。それはあたしが勝手に認識する色だけで実際に死ねとかクズとか言う落書きはない。
全てはおおごとにならない様に見えない様に。そして他人があたしに救いの手など出さない様にドギヅクなっていく。初めこそ違えど、あたししかわからない執拗な嫌がらせにグラデーションする、無邪気な悪意に晒されていたおよそ二年の時間で、あたしは家族以外の他人に何もアクションを起こさなくなった。
そんな時に、昇降口の下駄箱に2通の手紙が届いた。2通。
片方は、喜ばしいことに、こんなあたしを好いてくれていると言う旨のものだった。差出人は不明。察しもつかない。今持って、その差出人は不明。
もう1通は、あたしがひどい目にあっている理由を、そのグループから内部告発するものの様だった。
まさかそんなことが、同じ日、同じタイミングで起こるなんて思わなくて、あたしは混乱した。
どちらも吉報ではある。
しかし、もう1通、あたしがいじめられ続けているその理由は、あたし個人ではなく他者にあった。けれど、その他人に話すわけにもいかない。あたしがいじめられていることすらちゃんと認識していないのだ。巻き込むわけにはいかなかった。もし話して、協力などされようもののなら、もっとエスカレートする可能性も高い。そろそろ自分を守らないとやっていけなくなりそうだったこともある。
結論として、あたしはその他人を極力自分の人生から抹消することにした。
この、選択したあたしの行動が、果たして正しかったのかどうかはわからない。
けれどそれによって、あたしはあたしを守ることに成功する。あたしをいじめていたグループは、結局あたしには興味など皆無だったのだ。
だからあたしは、
けれど、敵を下に見ることだけして正々堂々と勝負することすらせず、ただ陰湿に潰そうとするはっきり言ってクソみたいなやり方しかできないでいるやつらに、負ける気なんてしなかった。けれどストレスは溜まるし嫌にもなる。中学二年のあたしは、脆かった。
結局、あたしに対して向いていた悪意は、あたしが章と仲の良いことが原因だったのだ。
ただの嫉妬。
なら、あいつを自分の人生から排除すればおさまる。
我ながら薄っぺらくて安直でどうしようもない結論。
けれど、それを実行してから3ヶ月後に結果は出る。そのあとで気づいた。ああ、こんな卑屈なことすら、すぐに思い至らないくらい、あたしは疲弊していたのだと。
中学三年の秋には、そのいじめは止んでいた。
そしてあたしは、章との関係性をそのままに、章が絶対入れないであろう近くの進学校を選んだ。
しかし、入学式の日に、同じ高校の男子制服を着た奴に声をかけられてゾッとする。
「おはよ、
悪夢が連鎖すると思ってしまった。
けれどそれは今の所起きていない。もう三年。きっと起きない。
あたしはなんてハズレくじを引いていたのだろうと思ったら、気づく。
ちげーよ。あたしが引いたんじゃねーよ。お前が奴らに選ばせたんだ。こっちがどんな気分でいたと思ってんだ。
そんな責任転嫁をしてしまった結果、悪態は、別の理由で続いている。
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