第7話 自覚する虚無
「……はぁ」
自室に戻ってくるなり、そらはコンビニのビニール袋を下ろす。
そして、そのまま窓際まで足を進めると、乱雑に帽子をはぎ取り、羽織っていた上着と一緒に壁のハンガーへと着せる。
「……やっぱり、疲れるなぁ」
感情を吐き出すように言葉を漏らすと、そらは再び定位置へと腰を落とす。
足に溜まった疲労が抜けていく感覚を少しばかり味わった後、そらは無造作に置かれたビニール袋へと手を伸ばす。
買ってきたものは菓子の箱や袋が数点に、お茶の入ったペットボトル、そして気まぐれに手に取った、十代後半向けのファッション誌。
それらを取り出して手近な位置へと並べると、そらは脇に置かれていたゴミ箱を引き寄せ、空になった袋を身に着けていたマスクと共に放った。
「――さて、と」
手慣れた様子でクッションを背中に敷いて、わずかに体重をかける。
そして早速、ファッション誌の封を切って、パラパラとページをめくり始めた。
――これから流行るネイル特集。
――彼のハートを射止める、おすすめコスメ。
――人気沸騰中! イケメンアイドルのロングインタビュー。
「やっぱり、ダメだな……」
そう漏らした後、そらはため息を吐き、雑誌を脇へと放る。
目を通した時間は十分も経っておらず、流し読みといっても相違ないものだった。
そして、今日何度目になるかわからない、深いため息がそらの口から漏れる。
「どうして、なんだろう……?」
自身の内側からわき上がってくる疑問に、そらは答えを見つけられずにいた。
元々、ファッションに興味がなかったわけではない。
むしろ、そらにとってファッションは興味のある分野であったし、将来は関連する仕事に就いてみたいと夢を描いたこともあるほどだ。
そのはずなのに、そらはファッションというものに対して興味を抱くことができなかった。
ファッションだけではない。
最初はただ飽きてきていたせいだと思っていたが、映画であったり、食事であったり、今までそらが好きだと思えていた、あらゆる物事から興味が薄れてきているのだった。
「……はっ、ははっ」
自嘲気味に笑ってみるが、そらの心は晴れない。
それどころか、言いようのない不安が、押し寄せる波のように心の内に積みあがっていく。
――これから自分はどうなってしまうのだろう?
――ずっと、こんな生活が続くのだろうか?
――
――もしかしたら、私はこのまま……。
そこまで考えたところで、そらはハッと我に返る。
そらは何かに駆り立てられるように手近な袋菓子を手に取ると、すぐさま封を開け、中身を口へと運ぶ。
ピザ風味の濃い味付けがされたスナック菓子が、口の中で存在感を主張する。
以前であれば、後を引く味付けに、二つ目、三つ目と手が伸びるものだが、そらの手が動くペースは遅かった。
しかも、それは『もっと食べたい』という欲求によるものというより『食べきらなくては』という強迫観念にも似た思いからくるものだった。
それを自覚しつつも、見て見ぬふりをしながら、そらは毎日という時間を消費しているのだった。
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