ー12ー

 フライパンに油を注いでいく。なんかもったいないような気もしてしまうが、揚げ物なんだしきちんと浸かるように量を調節して……。ただ、温度とかは『軍隊料理法』に載っていなかったのでIHコンロの設定にあった天ぷらのボタンを押した。

 ま、まあ、同じ揚げ物なんだし、天ぷらの設定でも大丈夫だろ、多分。

「温度上がるまでに、小麦粉を満遍なく着ける」

 んだが、これ、大丈夫か? 卵とかパン粉を着けてないので、一応、小麦粉を厚めに着けてはみたんだが、ジャガイモの水分でくっつけてる感じだからなぁ。揚げてる間に剥がれないか、若干の不安もある。

 油の温度を確認しつつ、智也に向かって「どうだ? こっちはそろそろだぞ。衣、全部に着けたか?」と、確認する。

「出来てるよ」

 智也が持っているキッチンバットに……、昔の貴族の麻呂とか言ってるヤツの白粉みたいにな状態で並んだコロッケ。

 後、智也の頬やTシャツも所々白くなっている。料理が終わったら顔を洗わせて、服も着替えさせるか。この夏場にフライパンの前で汗もかいてるだろうし。

「んじゃ、一発目は俺が揚げてやるか」

 と、一番大きなコロッケを、衣が剥がれないように、そして、油が跳ねないようにフライパンの縁からそっと潜らすように油に入れる。が、水分のせいか、結局はバチバチバチバチとかなり暴れられた。

 あっつ、と、右手を払いながら、左手の菜箸で適当にコロッケを転がす。

 流石にこれは危ないとは思っているのか、智也もボクも! とは直ぐに声を上げず、まずは一個目のコロッケの揚がり具合を見つめている。小麦粉の白は直ぐにキツネ色に変わって、白粉っぽさは無くなってはいるが――あ、結構、衣が剥がれてる気がする。一個だけしか揚げてないのに、天かす……っていうか、なんか、パン粉っぽいような焦げ茶色のカスが結構な数、分離している。

 見た目は……なんて表現したらいいんだろうな。普通のコロッケみたいな感じは……俺達が下手なせいもあるかもしれないけど、あんまり無い。いや、無くは無いんだが、さっき智也が言ってたみたいにハッシュドポテト感が出ている。小麦粉の衣が残っている場所とかは、一応、なんだかジャガイモの色味や質感とは違うように見えるけど、それを気にすると、結構斑のあるコロッケになったな。

 取りあえず、食中毒にだけはならないように、焦げないように気をつけながらじっくりと揚げていき……黒くなる寸前ぐらいでキッチンペーペーの上へと逃がした。

「どう?」

 大きな目を更に真ん丸にして、コロッケを見ながら聞いてきた智也。

「菜箸で持った感触的には……」

 もったいぶって溜めを入れ、智也が固唾を飲み込んでから俺は告げた。

「割と固かった。フライドポテトっぽいってか」

「お、おおー」

 感嘆して良いのか悩んだのか、智也は微妙な歓声を上げている。

 ただ、聞いてるだけで満足しないのがこの好奇心の権化だ。

「ボクもやる!」

 と、言うが早いか、適当にサツマイモの方のコロッケを掴んで……流石に、さっきの今で熱湯の水飛沫の経験を忘れてはいなかったのか、本人的には慎重な動きで油に投入している。うん、本人的に張ってレベルで。俺にまで油が飛んだぞコノ野郎!

「丁寧に! な!」

 油が飛んだのもそうだが、半ば脱皮してる智也のコロッケ。そもそも卵を使ってないので剥がれやすいんだとは思うが、コロッケ感を出すために厚めに着けろと指示したのも間違いだったかもしれない。

「次、次はちゃんとするから!」

「阿呆が、これもちゃんと揚げて食うんだよ」

 油の周りでちょろちょろする智也の頭を左手で押さえこみながら、一個一個とコロッケを揚げていく。油の温度が上がっているのか、毎回揚がり方とかは違っているようにも感じるが、一時間もしない内に俺達は全部のコロッケを揚げる事に成功した。

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