ー11ー
「アニキ! アニキ! ねちゃだめだよ! 起きて!」
「起きてるっつーの。軽く目を閉じてただけだ」
あー、なんか、朝から疲れたなって溜息着いたら、空腹も相まってつい瞼が重くなっただけじぇなねーか。寝てねぇよ。
まったく、智也は直ぐにキンキン騒ぐんだから。
ああー、っと、伸びをしてから俺の腹ぐらいの位置にある智也の顔に視線を落とす。潰せたのか? と、小首を傾げるだけで伝えれば、智也は律儀にボウルの中身を見せてきた。
「よし、じゃあ、それを更に適当に二等分して、別のボウルに移せ」
やれやれと俺もコンロに向かい、智也が適当にイモをイモ潰し機で別のボウルに移すのを見て、量が若干多い方のボウルに炒めた挽肉と玉葱を加えた。これで、サツマイモのペーストのボウルと、サツマイモと挽肉と玉葱のボウル、ジャガイモのボウルに、ジャガイモと挽肉と玉葱のボウルの四つになる。
「手ぇ洗って、具の方を混ぜるんだぞ~?」
「わかってるよ」
イモ潰し機をシンクに沈めた智也に次の指示をすれば、ほんとに分かってたんだかノリで言ってんだか解らない返事が返ってきた。まあ、ともかく手洗いして具を混ぜてるので良しとする。
俺? 俺は、あんまりこういうの手でぐちゃぐちゃしたくないので見守りだ。
「混ざったら、それをコロッケ型にする」
所詮は単純作業なので、アホの子の智也でも安心だ。パンパン、と、柏手を打つように両手を合わせ、微妙に形を調整してからコロッケの中身を並べていく智也。もっとも、大きさが全部違うように俺には見えるんだが、まあ、誤差の範囲だろう。
終わったよ、とでも言いたげな視線を向けられ、偉大なる司令官の俺は次の指示を出した。
「よし、その具をなにも混ざっていないイモで包め」
「らじゃー」
ビシッと敬礼した智也だったが……イモで具を包むやり方のイメージが出来ないのか、潰したサツマイモを手に首を捻っていた。ので、まずは餃子の皮を作るように丸くして平べったくする動きをジェスチャーし、その後、俺もエアで具を包む真似をして智也を導いた。
コロッケの原型が並んでいく、一つ二つ、三つ……。
「アニキ、もしかしてなんだけど」
四つ目を握ったままの智也。
「どうしたよ、そんな、政治家の不正に気付いたような顔をして」
どうせ、大したことじゃないだろうと気楽に答える俺。
視線が重なって、一拍間が空いて――。
「もしかしたら、皮用のイモってつぶさないんじゃないの? ハッシュドポテトみたいに」
ハッとして――、プリントアウトしておいたレシピに目を落とす。が、茹でたら馬鈴薯は潰すって書いてあるし、このやり方がレシピ通りではある。
ただ、冷静に考えてみれば、美味しく作りたいなら智也が言うように、ハッシュドポテトみたいな皮にした方が良いような気がする。
あくまでレシピは基本の最低限が書かれているだけで、自分で応用して上手くしていくって事なんだろう。そういう意味では失敗したな。
コホン、と、俺は咳払いして、プリントアウトしたレシピを見せびらかす。
「曾祖父さんは、つぶしてたみたいだぞ」
胸を張って言い切れば、智也は「そっかあ!」と、あっさり納得しあがった。
将来が不安だな、この甥っ子は。悪い女とかに騙されそうだ。
ただ、一応、俺にも良心と言うものはあるので「まあ、次はそういうアレンジもしてみようや」と、付け加えておいたが。
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