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 鍋に適当に水を入れ、IHコンロに乗せてスイッチを入れる。ついでに、換気扇と扇風機のスイッチも入れて暑さ対策しつつ、湯が沸くまで休憩しようかとしたら、智也が切ったそばからイモを渡してきた。

「はい、アニキ」

「いや、お前、いちいち渡してくるなよ」

 言いながらも、受け取った芋は湯に入れた。

 が、逐次投入したら芋を茹でてる時間がバラバラになることに気付き、まな板の空いている場所に重ねてから冷蔵庫へ向かう。

「ひとりじゃさみしい」

 さっき教え込んだしなをマスターしたのか、オネエっぽい感じで智也が甘えあがった。

「おい」

 と、あきれ顔で声を掛けてみるが、智也は「ん?」と、小首を傾げた。

 どうやら素の態度だったらしいが、謎が多いな、こういうガキんちょの行動は。まだ、男らしい女らしいを意識してないから、きわどい仕草が多いんだろ。

 いや、葵がBLのフラグについて力説したのを思い出してしまったからでは、決して、ない!

 ……女って、ほんと不思議生物だよな。BLのなにがいいんだ?


 と、そこで妙案を思いつき――。

「ああ、独り身が寂しいなら、想い人に声を掛けんとなぁ?」

 にんまりと微笑みかければ、智也は途端に「アニキ~」と、情けない声を出した。

「はいはいはいはい。対策会議はしっかりしてやるから、プールでもなんでも誘え」

 若干飽きてきたので、冷蔵庫から……なんもねえな。冷凍庫の氷を一つ口の中に入れ、舌で転がす。アイスを食ってる間はなさそうだったし、味のしない氷でも、冷たいだけましと思うことにする。

 と、そこでさっきは何気なく口を突いて出た台詞が、よくよく考えてみても妙案なことに気いた。

「あ、いいじゃんか、プール。行くぞ! 水着のおねーちゃんもたくさんいるかもしれない」

 プールは、着替えるのも、シャワー浴びるのも、濡れた身体を拭くのもめんどいが、水着の美人を拝めるのが良い。だって、考えてみろよ。水着の布面積は、普通に考えれば下着と同程度だぞ? 最高だ。

「コロナで入場制限してるのに?」

 妙に冷静な顔で言った智也。

 まあ、バカ政治家が国民の高い衛生概念のおかげで稼げた猶予時間を無駄にしたおかげで、未だに娯楽施設には入場制限が設けられてたり、当日券なしの事前予約制になってたりする。

 もっとも、適当な仕事しかしない政府にせいで、みんな余計な金を使いたがらないから、全く利用できないって状況でもないけどな。

「予約すりゃ大丈夫だろ」

 コロナ前と比べれば、カラオケもゲーセンもスポーツジムも三割前後が閉店しているせいで、近場のいいとこをさがすのは手間だけどな。

 と、思い立ったが吉日とスマホをいじり始めれば、イモを切り終え、お湯に――。

「ばーか」

 昨日と全く同じように、ドボン、と、まな板の上のイモをまとめて突っ込み、水飛沫みずしぶき……いや熱湯飛沫? から、逃れようと、手をバタバタさせながらぴょんぴょん飛び跳ねてる。

 なんだっけ? 砂漠で足上げダンスするトカゲだかヤモリを思い出しちまった。あれを、五倍速したらこうなる気がする。

「ほんとに学習しないな、お前は」

 呆れながらも、火傷はないか? と、気遣いつつ、冷凍庫に合った保冷剤を渡す。

 指とは腕とかを保冷剤で冷やしてる智也だが、一応、水膨れとかもなさそうで「イモ、全部鍋に入れたよ」と、胸を張ってきた。

「おうおう、よしよし、よくやった」

 家の教育方針として、褒める所は褒めてやり、頭を撫でてやった後、がし、と、その頭を掴んで。

「だが、あぶねえから、湯に入れる時は気をつけろ!」

 と、折檻もしておく。


「ふぁい」

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