ー6ー

「おし、じゃあ、そういうわけで、お前の恋を導いてやろう」

 偉大なる従兄弟のお兄様を疑った罰として、無知蒙昧なる弟分の恋の悩みを話させてやることにする。

 しかし智也は、さっきのしなが、まだ残っているような腰と頭の振りで、変な踊りを踊りながら「いらにゃい、いらにゃい」と、謙遜している。

 まったく、俺とお前の義兄弟の間には遠慮なんていらないだろうに!

「その大和撫子な五年生とはどうなんだ? 意識したきっかけは? 運動会かなんかでペア組んだのか? タピオカとか飲みに誘ったのか?」

「アニキ、タピオカは少し古いよ」

 妙に冷静に言われてしまって、ブルーが入る。いや、そりゃお前よりは十年ぐらい古いさ! 年上なんだからな。

 つか、古いと言われても、通学途中や講義の空きコマの時、大学前商店街のタピオカミルクティーの店に、セーラー服の女子高生とか、同じ大学生っぽいのとかがたむろしているのを、実際にこの目で見てるんだぞ、こっちは。

 女の子が、きゃっきゃうふふしてる雰囲気は、見てて癒されるからだ。衣替えが終わった夏服なんて、最ッ高だろ。無防備で。

「そっ、そうぅかぁ? 大学前商店街じゃ、今も普通に売れてたぞ?」

 ショックを上手く隠しつつ、じゃあ、どこに連れてく気だよ、と、視線で智也を詰問すれば、相変わらず智也らしい答えが返ってきた。

「星空ドリンク」

「なんじゃそりゃ?」

 見たことも聞いたこともないドリンクだが、その名前に中二病的ななにかを感じ、智也もそういう年頃になってきたか、と、感慨深く感じていたら「青色のハーブティーに、色々混ざっててカラフルなの」なんて答えられた。

 女って、ほんとに不思議なモノが好きな生物だな。

「知ってるってことは、誘ったのか?」

 聞くべきことは、味か恋か悩んだものの、結局は智也の恋の行方を優先させてやった。味については、後でこっそり調べてみようと思う。

 智也は、首を横に振っている。

 照れてる要素がないので、誘ってないのは本当だな。奥手で晩婚な血筋は、どうやら智也にもしっかりと流れているようだ。

「そういうはなしを……してた」

「あ~……、お話しできる程度には仲が良いのか?」

 小学校での一学年の差は中々切っ掛けが掴めずに苦労するかとも思っていたが、もう会話が出来ている、と。

 ふーん、そっか、ほーう。

 ……生意気なヤツめ!


 そう心の中で対抗心を燃やしていたら、微妙な間が空いたあと、シャッシャッシャと、芋の皮を一気に剥いた智也が「クラスの女子が」と、付け加えてきた。

「おい」

「うん、おいしいんだって。フルーツの味が」

「いや、美味しいって言いかけたんじゃねーよ」

 最後に残ったサツマイモを洗ってから智也に渡せば、サツマイモは受け取ったものの「無理」と、智也は断言した。

「無理じゃない。頑張れ」

「ムリだよ。だってサツマイモは、皮、むきにくいし、むかなくてもいいじゃん」

 上手いこと言ったつもりで、調子に乗った顔をしてる当たり、本当に良い性格してるよ、コイツは。


「お前には、この夏、ナンパのなんたるかを教えてやる必要がありそうだな。ほれ、芋切るのと湯を沸かすのどっちがいい?」

 切る、と、即答した智也が包丁を握った。

 どうやら、煮込スチウの時に、夏場の鍋の前は懲りたらしい。

 アホの子の智也でも、俺の教育のおかげで優秀になりつつようだ。ちっとは感謝しろよな、コノヤロウ。

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