ー5ー

 軍隊料理法では馬鈴薯――ジャガイモを使うんだが、曾祖父さんはサツマイモを使っていたので、今回は二種類のコロッケを作ろうと思う。

 幸いなことに、ちょうどどっちも家にあったし、玉葱は前回の残りでなんとかなる。他には、コロッケには新鮮な野菜くずも入れていいらしいので、余力があればキャベツの芯のあたりでも入れてみるかな。嵩増しかさましに。

 挽肉の方も、昨日の夜に割引シールがついていたのを買っておいた。

 一応、曾祖父さんの味に近づけるために、鶏肉の挽肉にしている。

 もっとも、日記にあった雄鶏かどうかは分からない。一般的に売られてる鶏肉の性別ってどっちなんだろ?

 昔は、卵を産まなくなった雌鶏とかを食ってたらしいけど、それだと味が落ちるらしいし……スマホで検索しても、どっちかはっきりしなかった。てか、食用は雄鶏っぽいが、地鶏の雌雄の食べ比べが出来たりするらしい。コロナが落ち着いたら、大学生らしく四国への旅行とか計画してみっかな。無能な政府がこのままろくなことしなかったとしても、俺の大学卒業までには国民の大半に免疫が出来てるだろうし。

 ま、それも含めて、時間がある時にでもまた改めて色々と調べてみようと思う。目下最大の課題は、俺の空腹だからだ。


 どん、と、ボウルに入れたジャガイモを流し台に置き、蛇口を捻る。

「一応、当時から一般的だったらしい、男爵芋だ」

 スチウを作るときと同じ……ってか、そもそも、ジャガイモ洗ったことない奴なんていないだろうし、皮を剥くまでは単純作業だ。なので、ついつい退屈凌ぎに智也を構ってしまう。

 俺が右手で構えた男爵芋に、智也も真似て左で構えた男爵芋を軽くぶつける。

「「ダンシャク~」」

 従兄弟が馬鈴薯合わせたところで、巨大化も変身もするわけない。

 二秒で飽きて、作業を再開する俺達。


 どのぐらいの量でどのぐらいのコロッケが出来るかは不明。まあ、余ったら夕飯にしても良いんだし、取り合えず、ジャガイモはあるだけ全部――とはいえ、前に買った袋の半分程度しか残ってないが、それでも正月に食べる蕎麦の器にこんもり乗る程度の量はある。あとは、智也の頭の半分ぐらいの大きさの大振りのサツマイモを一本。

「なんで男爵芋っていうか知ってるか?」

 洗ったジャガイモを智也に渡しながら、問い掛けてみる。このぐらいの雑学はあった方がモテる。と、思う。多分。そういう兄心だ。

 ちなみにサツマイモは、紅あずまって名前だったので、特に何も思い浮かばなかった。暇だったら、こっちの名前の由来も調べてみようかな。

 ピーラーを持ちながら、解り易く、ぶんぶんと首を横に振った智也。

「当たらなかったら罰ゲームだぞ」

「ヤダー!」

「阿呆! 女みたいな声出すな! そんな声出すなら、しなを作れ!」

 変声期前の声は、男女の区別がつきにくいっていうか、普通に女っぽい。ので、そんな妙な嫌がる声を上げられると、俺が悪さしてるみたいにご近所に思われるだろうが……。

 しかし、慌てて言い返した俺を他所に、アホの子の智也は「しな?」と、首を傾げてみせてきた。

 辞書を引け、と言いたいところだが、人生の先輩として――。

「こんな感じで、な」

 手を自分自身の太腿に添えて、くびれを見せつけるようなポーズをしてみせれば、智也も「しな」と、いいながら、真似てグラビアアイドルがやれば胸が強調されるであろうポーズをとり「うふん」と、変な声を出した。

 さっきの『ヤダ~』といい、意図的にやってんじゃないかと疑ってしまうが、それ以上に似た仕草を春休みにしたヤバイヤツを思い出してしまった。

「バッカ、お前、それ葵の持ちネタだろ。不吉な」

 智也も解り易く、うわ、うわ~、とか、騒いで地団駄なんだかなんだか分からない、妙な足の動きで嫌がって見せている。

 あのアホ中学生は、普段化猫ばけねこ被ってるくせに、なんで俺と智也には中身のもうじゅうもしくは、悪魔を見せるんだか。


「川田男爵が広めたから、男爵芋」

 智也とは別の春の嵐を思い浮かべて嘆息してから、些細なネタを引っ張るのも面倒になって俺は答えを教える。

 それで、お勉強の話で妙な空気を軌道修正させようとしたんだが……。

「ウソだ!」

 智也は全く信じなかった。

 なんでだよ、こんな単純明快な答えを!

 ……いや、まあ、日頃の行いのせいだとツッコまれれば、全く否定はできないが。

 しかし――。

「ほんとだっつの! 男爵が広めたから男爵芋! 自分でも調べてみろよ」

 ここぞって場面では良い兄貴だろ、と、俺は俺でムキになって言い返すが、智也の方も頑なだった。

「宿題に書くよ!」

「いいよ、むしろ、書けよ。偉大なるお兄様に教わったってな!」

「あ、その言い方は、ホントのこと言ってる」

 まったくもって失礼な舎弟だ。普段はアニキ、アニキって喧しい癖に。

 これじゃまるで、遊ぶのだけは一流でいざって時に頼りにならないロクデナシみたいじゃないか、この俺が。

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