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 智也は大喜びしているものの、果たして再現可能なレシピなのかどうか。

 戦前にしか流通していない調味料とか野菜が無いことを祈りつつ、しっかりと読んでいけば――。

 ええと、内容を要約すれば、スチウは硬い肉を柔らかくする料理とあるな。緩煮とあるが、当時の感覚で具が柔らかくて美味いって思って付け加えたんだと思う事にする。

 使う肉は、脚……脚⁉ いや、豚足とか鳥の腿肉ももにくとかあるが、鳥の腿肉はそのまま普通にいろいろな料理に使えるし柔らかいよな……。牛の足の肉、って意味か? 脛とか、そうした筋張った部位のことだろう、多分。他には、胸肉、臀部の肉。

 臀部ってな……。牛の尻肉って、どんな名前で流通してんのかさえ知らねえよ。

 ともかくも、牛肉のそれだと予算が怖いし、ここは鳥の胸肉で妥協してもらおう。

 馬鈴薯はジャガイモだし、後は牛蒡ごぼう。って、牛蒡をシチューに入れてたのか? ま、まあ、再現だし、そのまま使うとして、牛蒡の処理方法が読めねえ。なんだこの字? 火辺に……ああ、処理方法なら最初のほうのページにあるのか。

 って、煠るは、ゆでるって読むのか⁉ 旧字の面影、今の茹でるに全然ないな。

 次いで十字に切った玉葱。現代の基準ですれば、其の切り方はでかすぎる気もするが、まあ、よしとする。基本、メインで食うのは智也だし。

 煮込み時間は書いてないが、完全に火が通るまでってこと、っぽい。多分。

 んで――スパニヤソース? を、煮汁で作って溶かし込む。

 もしくは、ヘットまたはラードで肉を炒めて、んん? なんだこの漢字? なにかと胡椒こしょう? ああ、塩の旧字か。塩コショウで味を調えて、十字に切った玉葱と細切りの牛蒡を入れて三十分ぐらい煮て、トマトソースを加えて更に一時間煮てメリケン粉でとろみを出す。

 ヘットってなんだ? まあ、ラードでいいか。

 感覚的には、後者の方のレシピの方が多少は楽そうだな。つか、そもそもスパニヤソースってなんだ? ああ、前項にあるのか。

 油を沸騰させて、小麦粉炒めて、肉スープで溶く? って、肉スープのレシピもあるな。肉や骨を細かくして、五~六時間煮て布で濾すのか。

 ん? ああ、いや、違う。別途スープを作る場合と、スチウを作ってる際の煮汁を利用するタイプがあるのか、煮汁でスパニヤソースを作るってあるし。

「あー……」

 思わず声が漏れる。

 多分、だけど、この前者のレシピの方がいいよな。ついでに言うなら、煮汁を使うよりも、骨で出汁を別にとった上で。

 出汁とかそういうの考えれば、主に塩コショウとトマトの酸味の後者のレシピより、美味いと思う。思うんだけど……手間がかかるよな。

 つか、トマトを煮て裏漉ししたのって、赤くなるんじゃないのか? それだと、色がシチューじゃないよな。まあ、どちらにしても原料に牛乳が無い事からも、色味とか現代のと違うんだと思うけど。こっそり牛乳入れたら、再現ってわけにも行かなくなるしな。

 そもそも、同じページにミルクソースのレシピも乗っているが、このレシピ本、スチウにミルクソースを使う気はまったく無さそうだし。

 もう一度、あー、と、唸ってから、期待と不安がない交ぜになった視線を向けてくる甥っ子に向かい、堂々と宣言した。

「しゃあねえ! 腹を括るか!」

「さすが、アニキ!」

 その一言でノってやる俺も甘いなと思いながら、スーパーのチラシと睨めっこして、曽祖父ひいじいさんの好きだったらしいスチウを再現する日取りを選んでいく。

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